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刻の召喚士  作者: jnsto
青年期 『竜丿墓 スクラップオーク』
52/80

第48話「成金」

間合いを謀る。5歩、6歩。踏み込めばすぐに、どちらからの攻撃も届く距離だ。時間召喚系のチートスキルや身体能力向上系の簡易魔法も使うことはできない。今できるのは、己の身一つで追いすがること、それのみだ。


「………………」

「………………」


いつの間にかレイピアを抜いたガレットは、剣先をこちらに向けつつ微動だにしない。攻撃的な性格の反面、戦い方は受身の戦法なのだろうか。いや、あちらの方が武器のリーチが長い分、下手に攻める必要はない。迎撃で着実にダメージを与えていくつもりなのだろう。


「……よくここまで来れましたわねリッカ。盤面のマスを減らされるとは思いませんでしたわ」

「……囲いも碌に知らないのに俺に将棋で勝負を挑むのが悪いんだ。どうだった、後手番有利のゴキゲン中飛車は?」


ん、さっき将棋は知らないって言ってあったか。まあいいや。


「……将棋もご存知でしたのね。どこまでも食えない男ですわ」

「お褒めに預かり恐悦至極。感想戦でもしておくか?」

「いいえ。まだ王は詰んでいませんことよ。王手をかけるには些か駒が足りないのではなくて?見たところ魔力を使い切ったのか、微塵も感じることができませんが」

一対一サシなら対等にやれるさ」


酒屋さんとの訓練を思い出せ。あの人もレイピアの使い手だった。王国騎士団から隠居の身とは言え、あの人は王国騎士団の最強戦力の1人だった騎士だ。あの人に5年間、ボロクソにしごかれた成果をここで発揮してやる。


「……ダンスは男性がエスコートするものでしてよ」

「確かに。じゃあ……いくぞ!!!」


ガレットの攻撃圏内に踏み込む。瞬間、剣戟の波が俺を襲う。一緒だ。あの軽い剣の主となる戦法は縦横無尽に襲い来る突き。


『リッカ、お前はただでさえ重い武器を持ってるんだ。無理に全てを受け流そうと考えるな』

『……じゃあどうしろって言うんですか』

『その両刃の斧は横に広い。武器の特性をちゃんと把握しろ。面で防げ。むしろ相手が小回りの効く武器を持っているなら片方は防御に回した方がいいんじゃないか?』

『なるほど……二刀だからといってどっちもで攻撃する必要はないか』

『斧の二刀はやめておいたほうがいいと思うがな。何で盾を持たない?』

『指輪の小さい宝石には入らなくて……』


最後のは余計だったな。左手に持っている斧を小さい盾として使う。先ほどから喉や肩、腹や腿と様々な場所を狙った光の筋が向かってくるが、流石に突きの速度は酒屋さんの方が速いようだ。これなら片手で十分に受け止めきれる……!


「っ!……なんですかその斧の取り回しは!」

「手先は器用な方でね!」


重心が手元に近くリーチが短い分、斧は手元で操作しやすい。といってもここまで自由に操れるようになるまで相当な苦労をしたもんだ。お陰でリンゴを片手で潰せる位には握力がついたよ。


「野蛮な物を使う割には、綺麗な戦い方をしますのね!」

「貴女は対照的に随分と力強い突きだな!」


先ほどから何回攻撃を受けたか。俺からも攻撃はしているが、それは全て後方に避けられている。俺が押しているようにも見えるだろうが、これ以上の攻め手に欠けているな。……だがあと少しだ。


「……それ以上後ろに下がると焦げるぞ、ガレットさん?」

「っ!?」


眼前に立ちふさがるは燃え滾る炎の壁。ガレットはこれ以上下がることはできない。


「……後ろも塞いでおりましたのね」

「勿論。回り込まれても面倒だからな。レイピアも俺の斧を突き過ぎて少し曲がっているようにも見える。……あんたの負けだガレットさん」

「あら?後ろに引けず、剣が折れた程度でわたくしが負けを認めると思っておりますの?」


そう言うとガレットは右手に持っていたレイピアを捨て、防具の間から拳大の宝石を取り出した。

……おいおい、まさかこいつ……





「……貴方も手につけた指輪から武器を取り出しておりましたわね。同じく召喚術を極めようとしたわたくしが、そこに考え至らないと思っていたのですか?"召喚サモン"」


……ハルバードだ。2メートルはあろうかという長柄の槍。穂先に戦斧と槍の刃を合わせた、様々な攻撃を可能とする応用性にも富んだ西洋武器。この世界でも同じようなものがあるんだな。……このリーチの差、今度は俺が防戦に回らなければならなそうだ。


「わたくしは膝に泥をつけるまで、決して負けを認めませんわ。この粗野な武器はあまり好きではありませんが……少々はしたない姿をお見せしてもお許しくださいね?」

「……新たな一面が見れそうで楽しみだよ」

「あら?お上手ですわね。……死になさい、リッカ!」


半殺しじゃなかったのかよ!対応を考える間もなく横一線が向かい来る。速い。先ほどのレイピアの一撃の速度となんら変わりない横薙ぎ。こいつ、こっちが本命か!


「避け続けていては防戦一方ですわよ?」

「どの口が!」


だが確かに攻め手がない。ここは一度距離をとって立て直すしかないか。隙を見てまた近づく。今は突然の攻撃で体制を崩していて分が悪い……!


「踊っている最中に相手から離れるなんてマナー違反ですわよ?お仕置きが必要ですわね」

「…………おいおいおいおい!」


ガレットの左手。全ての指の間に4つの宝石が挟まれている。これが4つ全て召喚石ボックスだとすると……


召喚サモン。蜂の巣におなりなさいな」


ガレットの左手に4本のレイピアが召喚される。宝石を柄部分に埋め込まれた剣。元々柄の宝石に剣をしまい込むことを想定して作られたものということか。……金持ちは発想が違うな。


「まずは1本。いきますわよ」

「……くるなよ」


閃光。俺の左頬をかすめレイピアが過ぎ去っていった。自分でもよく避けることができたと思う。ほとんど軌跡を見ることができなかった。


「わたくしは身体能力向上の魔法を使っておりますのに、貴方は何もなくよく避けれますわね。次は3本同時に」

「……っ!」


よくもまあ片手でそこまで器用に投げれるもんだな!肩、腹、腿を狙った3つ同時の剣の弾丸。流石に避けやすい頭や腕は狙わず身体の芯に近い部分を狙ってきやがる!


肩は無理だ、諦める。腹と腿のだけを斧で振り落とすしかない。


「……くっ!」


2本はいなした、が。左肩をやられた。骨にまではいってないが深い傷みたいだ。若干指にも力が入らない。……くそ、俺ができるのはここまでか……!


「終わりですわリッカ」


ガレットがハルバードを振り上げ、ゆっくりと近づいてくる。……いや、十分時間は稼いだ。……俺はあいつらを信じる。


「……諦めがわるいですわね。なんなのですか、その顔は」

「……ここから大逆転が始まる予定だからな。来いよ。まだ手はある」

「……本当にありそうだから油断なりませんわね」





「なんてったって、途中で敵の陣地に駒を置けるのが将棋の醍醐味だからな」

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