第47話「竜王戦」
「……無茶な事を言うな」
「無理ではないだろ?」
「当然だ。任せろ愛する人」
「ココ。作戦は全部ハムリンに伝えておいた。頼むぞ」
「うん……気をつけて」
ココはハムリンから俺のコートを受け取ると、それを俺に着せてくれた。袖を通し、覚悟を決める。
「いってらっしゃいリッカ君。……早く帰ってきてね」
「ああ。行ってくる。家は頼んだぞ、ココ、ハムリン」
笑え、笑ってやれ。笑ってこなしてやれ。こんなもんは簡単だ。難しく考えるな。できて当然なんだ。だから、俺達は、絶対に勝てる。
「召喚!簡易加速!!」
「……中央を突貫……?無謀ですわよ」
両手に斧を召喚し、全力で駆ける。無謀?そんな言葉で俺が止まると思ってるのか?そんな言葉で止まるくらいなら最初からあんたに挑もうだなんて思わないさ!
「縁は繋げた。ギリギリだったけどな……召喚!来い、キィン!!」
森の入り口。俺の相棒はそこにいる。問題は強制力。俺にはもう魔力はほとんど残っていない。召喚紋から機能する転移魔法を発動させるほどの魔力はない。キィンが俺の呼びかけに自ら応じてくれれば、あいつは自らの魔力を使ってここに来る筈だ。頼む、来てくれ。でなければこの作戦は一気に難易度が上がる。俺がガレットに辿り着くことができなくなるかもしれない。……でも、会ったばかりだけど、あいつなら来てくれる。そんな気がした。
薬物召喚の時間は切れた。俺の魔力は枯れ果てて、もう念話をすることもできない。キィン、来い!!!
「ギィィィィィィィン!!!!!!」
「………………っんとに最高だな、お前は!!」
俺の目の前に現れた光の玉からキィンが出現する。後ろ向きのその背中に飛び乗り鞍に足をかける。よく来てくれたキィン。……本当に、最高だ。
「もう念話もできないが、言いたいことはわかるなキィン!」
「ギィンッ!」
「持ち主が夜逃げしたんだってなぁ!じゃあお前も、本気で走りたくてウズウズしてただろ!!」
「ギィィィンッ!!!」
段々と、いつも穏やかだった眼にシワが寄り魔獣と言われるに相応しい顔つきになる。こいつならやれる。何も問題はない。
「じゃあ俺はもう、お前に刻んだ言葉を叫ぶだけだ!"一緒に走ろう"ぜ、キィン!!!」
「ギィィャャヤヤアアア!!!!!!」
既に十二分に速度が出ているというのに更に速くなっていく。ただ足が速いんじゃない。こいつ簡易加速を使ってやがる。俺が5年かけて覚えた魔法を覚えてやがった!!確かにこれなら競竜で頭張れる筈だよ!!!
「一騎駆けは戦の花だ!駆け抜けろ!!!」
魔獣の間を縫いながら徐々に距離を詰めていく。何度か攻撃を受けそうになりながらも、横から来た攻撃は俺が受け止め、前から来る攻撃はキィンが上手く避け続けている。まだ出会って日は浅いけど、ちゃんと信頼してくれて嬉しい限りだ!
「……この数、間を抜けてこれるとでも思って?みな中央に!!そのトカゲを止めなさい!!!」
「……それはさせない。私も全力で行くぞ!竜丿翼!!!!」
俺の両脇に炎の壁が出現する。ハムリンの竜丿翼。これで岩場を包囲していた軍勢を分断する。上から見ればまるでホールケーキを八等分したようにでも見えているのだろうか。左右に余裕はあるから残っている敵も避けつつ接近できる。この速さなら!
「…っ!これが噂に聞く竜丿翼ですわね。でもこの火力で、わたくしの魔獣たちが分断されると?」
「ーーだから補強させてもらうよ。ボクも本気でいかないとね……硬葉!!!」
竜丿翼の火炎の壁に沿ってココの硬葉が生え広がっていく。これで硬葉は弱点である水にも負けることはない。現時点、あいつらで作ることができる最強の硬さをもつ壁だ。
「……無意味なことを。分断できたからといってわたくしが貴方に負けるとでも?」
「負けるさ、あんたは」
硬葉は俺の前方に居る魔獣達にも絡みつき、動きを止め始めた。避ける必要がなくなった分、更にキィンの速度が速くなる。
駆ける。ひたすらに駆ける。俺を振り落とそうとしているかのような速さだ。俺も必死にしがみつく。だがまだ遅い。もっと速く。まだ動きが取れる敵はいる。キィルに付けていた荷物を斧で切捨て、更に速度を上げる。
もう、すぐそこだ!!!
「俺を吹っ飛ばせ、キィン!!」
「ギィッッッ!!!」
キィンは急停止し、俺は前方に突き飛ばされた。着地先にはガレット。遠いようで短かったな。会いたかったぜガレット!!!
「くらえ!!!」
「……っ!」
ガレットは後方に跳び俺の一撃を避けた。腰に付けている剣はレイピア。あの細い剣で斧の一撃をまとめに受け止めるのは難しいだろう。
「一対一だ。やろうかガレット」
「……受けて立ちましょう。リッカ」