第42話「同じ穴のなんとやら」
「そういえばお前ら。表に走竜をとめてるけど、あいつらは借りた走竜か?」
「ん?いや。ハムリンが買ってくれたんだ」
「……少し高い買物なんてもんじゃないぞ…何をやってるんだお前は」
「目的のために手段は選ばないからな」
俺もその考えには同意だが、裸になるという方法は選択肢からはずした方がいいと思うぞ。むしろ何故先に裸になった。先に走竜達を見せて交渉に来たほうが全然健全だぞ。
「まあいい。借り物じゃないなら、走竜には奴隷紋をつけろよ小僧。他の冒険者を襲わせないためのギルドのルールだ。逆に他の者達から奴隷を取られないためのルールでもある」
「……また奴隷が増えるのか」
縁する対象が増えるのはいい。魔力総量が上がるからな。でも縁するだけなら命の駆け引きがない契約紋で事は足りる。なんでこの世界の奴らは、奴隷にしたがるしなりたがるんだろうか。理解に苦しむ。……まだ人権が軽んじられているんだろうな。
「……酷い顔をしているな。愛する人は何故そこまで奴隷にすることを嫌うんだ?」
「まぁ……色々あったんだよ。昔な」
「……幼い頃より更に前の話か?」
「……ああ」
思い出したくない記憶。遥か昔のような、だって生まれる前のことだ。この世界に生を受ける前。あの記憶が俺の中に存在する限り、俺は奴隷っていうものを上手く許容できることはないだろう。
「……そうか。話したくないことなんだな。悪かった」
「ああ。すまん」
「リッカ君……」
「……決まりなら仕方ないさ。それに、適当な縛りの言葉にしておけばいいだけだ。奴隷紋で一般的な"主に尽くし逆らうことがないこと"なんて言葉を刻まなければいい。それだけだ」
「……そうだな。嫌なことはさっさと済ませてしまおう」
「グギィ!グギギィ!」
「ゴギャ!ゴギギャ!」
「ギィ……ィッ…!」
ギルドの扉を開けると、キィンが倒れていた。大量に水を吐き出しながら。
「また水がぶ飲みしたのかお前」
「ギィ……」
度々水を飲みすぎて腹を下すこの茶色い走竜。ほんの少しの休憩の時にも水を大量に飲んでこんな感じになっている。ギルドの外には一応走竜用の水桶があるのだが、かなり大きいそれも半分近く水がなくなっていた。どんだけ飲んだんだお前。
「グギィ……」
「ゴギャ……」
緑のと赤いのも若干呆れているようだ。毎回のことだからな。
「ハンニバルさん。リッカ君にも今朝の台詞言ってあげてくださいよ」
「…………ま、まあやんちゃな盛りなのだろう」
「逃げましたね」
「まるで10歳の時に初めてカレーを食った誰かさんみたいだな」
「リ、リッカ君?その話は今しなくていいんだよ!?」
「やんちゃな盛りだったんだな。小娘」
「な、なんでボクの話になってるの……」
はあ……気乗りはしないけどやらないとな……
「キィンとは俺が奴隷契約するけど、お前達はそれぞれやってくれ」
「む?一括して愛する人の方が良くないか?」
「いざとなったら個々で召喚できるだろ?」
召喚術には大量に魔力が必要になる。だけどいざという時に走竜達を召喚できると出来ないとでは、これから危険な旅に出る上で雲泥の差が生まれるだろう。
「なるほど……奴隷が奴隷を持つってあんまり聞かないけど、確かに何かあった時のためにその方がいいかもね」
「ああ。キィン。嫌だろうけど少しこっちを向け」
「ギィ……?」
「……すまん。俺はお前達に強制はしない。約束する」
キィルの胸に奴隷紋を刻んでいく。キィンは何もいわず、俺の姿を見ていた。あー……奴隷を支配する言葉を刻まなきゃいけないんだった。俺はあの文字わからないからな……
「ココ。こう刻んでくれるか?」
「ん?……うん、わかった」
ココは優しそうに微笑むと、キィンにそっと触れつつ、俺が選んだ言葉を刻んでくれた。
++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
「ガルディアのおっさん!一応刻んだぞ!確認してくれ!」
「……お前らは俺をなんだと思ってやがる。それくらい受付の奴らにやらせろ……ん、その茶色の走竜……"ハイライト"じゃないか!!!」
ギルドから出てくるなりおっさんがわめき始めた。どうやらキィンのことを知ってるらしい。でもハイライト?随分煙たそうな名前だな。
「すげえ名前だったんだなキィン」
「ギィ?」
当のキィンは寝転がりながら首をかしげている。縁を繋げても流石にこいつの言葉はわからないか。残念だ。
「競竜で一番人気だった名竜だぞ!確かハイライトの持ち主が夜逃げして行方不明になっていた筈だが……どこに売っていたんだ!ハンニバル!?」
「あ?ああ、流石にもう普通の店はしまっていたからな。裏の少し怪しい店に行くしかなかったんだ。あっちの方だ」
ハムリンが顎でギルドの方向を刺した。少し進むと若干スラムのような雰囲気の区域があった筈だ。頭の螺子ぶっ飛んでるわ。スラムで買ってきた走竜貢ぎ物にするなよ。競竜っていうのは競馬みたいなものだろうか。どこでも同じようなことをやるもんだな。
「くっそおおお!!!!オレが買っていればオーナーになってまた一儲けできたのに!!!!……こいつのこのふてえ足にいくらつぎ込んだかわからねえ……まさかこんな身近に会えるとは……」
「すげえやつだったんだなキィン」
「ギィ?……ィッ…!」
あ、また水吐いた。きったね。
「ああ……その深い茶色の表皮……後ろに突き出た2つの猛々しい角……今は穏やかな目をしているが、本気で走る時にはまるで人でも殺しそうな目をしやがるんだ…!!!さ、触っていいか……?」
「ギ、ギィ……」
縁を繋いでいなくてもわかる。キィンは今、目の前の筋骨隆々とした茶髪のもさい物体を快く思っていない。なら、主である俺はこいつを守るべきだろう。任せろ、俺がちゃんと守ってやる。ギルドマスターだかキルトマスターだか知らんが、その口をしっかり縫い付けてやろう。
「なんかおっさんが年甲斐もなく興奮してる姿が異常に気持ち悪いからやめてくれってさ」
「……走竜がそこまで的確に非難するわけねえだろ……お前の意見だろ、それは」
「ガルディア。いつもにもましてうざいぞ」
「うざいとか言うな!反抗期の娘かお前は!!」
「いつから私が貴様の娘になったんだ?ああ?!」
「ひっ……」
お、ハムリンも加勢してくれてる。いいぞいいぞ。
「リ、リッカ君……少しくらいいいんじゃ……」
「な?このお嬢ちゃんもこういってる!少し位いいじゃないか!な?小僧、頼むよ!」
ココの言葉で少し傾きかけたけどやっぱり駄目だな。あんたは致命的なミスを犯した。たったそれだけの、シンプルな理由だ。
「……小僧?呼び方が違うんじゃないか……?それが人にものを頼む態度か…?」
「こいつさっきまでテンション低かったくせに急に偉そうになりやがって……!!!」
「リ、リッカ君!少しかわいそうだよ……」
「まあ冗談はこれくらいにしておくか。キィンに噛まれないようにな」
「いいのか!?」
「キィンに噛まれないようにな」
それ以上は何も言わない。でもキィンの目は明らかに"近づいたら噛む"と言っている。だから俺はこれ以上何も言うつもりはない。頑張ってくれ。
「そういえばココ。少し聞きたいことがあるんだが」
「え?うん。なに?」
「お前の奴隷紋の奴隷を支配する言葉って"街に尽くすこと"だったよな。今はなんなんだ?」
さっき奴隷紋を刻んでもらっている時に気付いたんだが、ココの奴隷紋に刻まれている言葉はもう街関係の縛りはない筈だ。街から思いっきり出ているし。ということは、奴隷紋に刻まれている言葉は前と変わっている筈だ。失念していたが、話してくれるようなら一応聞いておきたい。
「……え?きゅ、急にどうしたのリッカ君……今はそれはいいんじゃないかな?」
明らかに挙動不審になり視線を彷徨わせ始める狐っ子。尻尾もパタパタしてる。怪しい。凄く怪しい。言いたくないなら言わなくてもいいと思ったが、これはちゃんと聞いておかないといけないかもしれない。
「……ハムリン、行け」
「あいあいさ」
「ちょっ!ハンニバルさんどこ触ってるんですか!ばっ、ここ街中ですよ!や…!」
ハムリンがココのスカーフに入り込み胸を弄り始めた。何か恨みでも篭っているのか動きが激しい。
「ちょ、くすぐったい!はっあはは!!ハンニバルさっ!あはっ!!!やめっ!!」
「見えた。……ちっ、やはりでかいな」
奴隷紋の確認ができたのか、ハムリンが機嫌悪そうに近づいてくる。何かココに恨みでもあるんだろうか。
「ははっ……はぁ……はぁ……もうお嫁にいけないよ……」
「!そうか!それは残念だ!!愛する人!!!私が新しい許婚だ!!!」
「はっ!違います!綾です!言葉の綾です!!!」
「どうでもいいわ。なんて書いてあった?」
「"一生リッカに尽くすこと"と書いてあった。文字は違うが小娘の筆跡だろうな」
「…………」
確かハムリンのは"私の体はリッカの物"だったか。こいつら性格も境遇も全く違うのに発想が同じレベルだ……
「……ココ。あの時、ラークに奴隷にしてもらうとか言ってなかったか…?」
「え、えーと……万が一リッカ君が契約してくれなくて、ラーク君の奴隷になったとしても……こう書けばリッカ君の傍に居れるし……」
「「「…………」」」
「ようこそこちら側へ」
「ハンニバルさんと一緒にしないでください!!!」
「一緒だよ。双子かのように発想が全く一緒だよお前ら……」
「いたっ!おい!噛むなハイライト!!血!血が出てる!!!」
ハイライトの由来は有名なあの馬です




