第41話「古鉄丿豚人」
「おお小僧。……討伐終わったのか?」
「ああ、魔狼20匹。1週間もかかったけど」
とりあえず魔狼の討伐依頼が終わったので、昼飯を食べてすぐにギルドに戻ってきた。ギルドマスターってギルドで一番で偉い立場の筈だが、なんで受付なんてやってるんだ。
「最初の依頼にしては早いな。ハンニバルの力もあったんだろうが」
「そんなところだ。で、ギルドの責任者がそんなところで何をやってるんだ?」
「……お前が持ってきた回復薬を俺が冒険者に回してるんだよ」
「それは良かったなガルディア。デスクワークは体がなまると貴様自身が言っていたじゃないか」
「仕事を増やせとは言ってねえよ……」
なるほどなるほど。俺達のおかげでギルドが繁盛してるらしいな。
「売り上げはどうだ?」
「どうにもこうにもさっぱりだ。全然売れなくて困ってるから、とっとともっと仕入れてきてくれ」
ガルディアが困ったような顔から一転、急に笑顔になり親指を突き立ててきた。なるほど、そういうことか。中々の売れ行きみたいじゃないか。
「え、売れてないのにもっと仕入れるんですか!?」
……ココ、これは割とわかりやすい叙述トリックだぜ。
「小娘、難しく考えるな。……簡単に考えてもわからないか貴様には」
「よくわからないけど、ハンニバルさんに馬鹿にされてるのはわかりましたけど……?」
「な……貴様天才か!?」
「ハムリンさん!」
「ハンニバルだ!!」
女3人集まると姦しいというが、2人だと何て言うのかな。女々しいとでも言っておこうか。読み方を変えれば素敵なポーズが出来そうだ。ゴゴゴって擬音が聞こえてきそうな程のな。
「仲良いなお前ら……小僧。まだお前がくれた15本しか売れてないが、こいつは確実に売れるぞ」
「そう思うだろ?うまくやってくれると助かる。なんだったら直接取引してくれて構わないからな」
「あ?お前通さないでいいのか?」
「ああ、元々儲けようとは思ってないからな」
俺はきっかけを作っただけだ。あの回復薬は元々評価が低すぎた。ちゃんと評価される場に押し上げてやれば、良いものっていうのは確実に選ばれていく。そうなってくれれば俺達はもう何も言えないさ……回復薬屋のおっちゃんが俺達にだけ回復薬を安く仕入れさせてさえしてくれれば。
「そうか。じゃあお言葉に甘えてボロ稼ぎさせてもらうぜ!」
「そうしてくれ。あと次の依頼を受けようと思うんだが、何か俺達に丁度良いのないか?」
「……おう、あるぜ!なんと魔狼の討伐だ!」
「「「……………」」」
「お前ら本当仲良いな……やめろその目を。そんな悲しそうな目で俺を見るな!!!」
最初の依頼を受けてから1週間ずっと魔狼を狩ってきた俺達に、また同じことをしろと?このおっさんも面白いことをいうなあ。面白過ぎて顔が引きつってきたよ。本当にギャグセンスがあるよこのおっさんは。
「まあまあ……話を聞け。とある理由で今ギルドからの依頼はほとんど魔狼の討伐になってるんだ。魔狼の数によってランク分けはしてるがな」
「魔狼の異常発生とかですか?」
「いや、急に増えたわけじゃない。理由は他にある。……竜丿墓に新しい魔獣が住み着いたらしい」
「竜丿墓……なんだそれ?」
「ドライダと私が住んでいた場所だ。ガルディア、詳しく話せ」
……竜ノ墓。なるほど、火竜が眠った地ということか。火竜がいなくなってからそこに住み着いていた魔狼たちが、新しい魔獣が住み着いたせいで行き場をなくしている、ということだろうな。だからあぶれた魔狼が森すらも追われ王都近くの草原にも出没しているのだろう。
「……そいつの討伐依頼は一応Aランクだ。Fランクの冒険者は連れていけないぞ」
「話を聞いていたか?私は詳しく話せと言ったんだ。依頼なんて関係ない」
ハムリンが少し感情を露わにしてるな。元々火竜が住み着いていた土地だ。ハムリンにも思うところがあるのだろう。
「……はあ、お前に話すんじゃなかったぜ……」
「自業自得だな。状況によっては依頼なんて受けなくても私はいくぞ」
「……ちっ。新しく住み着いた魔獣は普通の奴じゃない。機械型の魔獣だ。情報を聞いただけだが、まず間違いないな。上位の冒険者を何人か派遣したが、今は全員ベッドの中でひーひー言ってるぜ」
「……機械型?」
「小僧は田舎者だからわからねえだろうが、機械っていう魔法以外の動力の発明が今進んでいてな。件の魔獣はそれに近いものだと俺達は思っている。何せ身体が金属でできているんだ」
この世界でも機械が発明されているのか。……発明されていない筈がないか。むしろこういう時代だからこそ、そういった技術の挑戦が数多く行われているのだろう。魔法と科学の掛け合わせとかの話になってくると前世より早く発展していきそうだな。
……で、そんな機械の黎明期に機械型の魔獣が出現した、と。ギルドが警戒するのも当然だろうな。
「金属で出来ている者なら他にも山ほどいるだろう。実際鉄のゴーレムも討伐したことあるぞ、私は」
「いや、どうにもこうにも魔法ではなく蒸気機関に近い物で動いてるように見えるらしい。開発者ギルドにも所属してるお前ならわかるだろ。ハンニバル」
蒸気機関か。前世でも一時期生活を担っていたくらいだ、この世界でも開発されて当然だろうな。
「ガルディアさん、蒸気機関って何ですか?」
「……俺は詳しくわかんねえけど……」
「簡単に言うと、水を沸騰させてその水蒸気の圧力を動力にするもののことだ」
「……小僧、よく知ってるな。まあそんな感じだ!」
「リッカ君、よく知ってるね」
ええまあ。それくらいは。一般常識として。子供の頃は青い人面機関車を見ながら育ったしな。
「愛する人。危険は承知だが、行って来て良いか……?愛する人達に迷惑はかけない。あいつが眠った場所を見てくるだけだ。魔獣が荒らしてないなら何もしないで帰ってくる。だからーー」
「ああ。皆で行こうか」
「そうですよハンニバルさん。1週間一緒に戦ってきたのに、危険なところに1人で行かせるわけないじゃないですか」
俺も蒸気機関の怪獣には興味あるからな。スチームパンクみたいで格好良さそうだし。あと"魔獣が荒らしてないなら何もしないで帰ってくる"と言っていたが、もし荒らされていたら。こいつは例え勝てなくても魔獣に挑もうとするかもしれない。なら、一緒に行かないわけにはいかないだろ。
「だからお前らに依頼はーー」
「じゃあボランティアだな。ギルドが頼りないから俺達が見てきてやるよ」
「愛する人……!!!」
「ハンニバルさん!抱きつくのは禁止!!!」
「じゃあココも禁止だ。……離れろお前ら」
「本当に馬鹿な奴らだな……仕方ねえ、特例で認めてやるよ。どうせやるなら正式にやってくれ。依頼内容は"古鉄丿豚人の討伐"だ。気をつけていけよ」




