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刻の召喚士  作者: jnsto
青年期 『王都ダインアレフ 竜を喰った女』
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第38話「苦節38話」

「はい。貴女方が買ってきた回復薬は肩の怪我を治したのでなくなりました。今からまた買いに行きます」

「……はい」

「……この程度の怪我、回復魔法で治せるじゃないか。私は使えないがな」

「……貴女方が喧嘩して怪我する度に、とても優しい俺がいつでも回復薬を使ってやるからどんどん喧嘩するがいいさ……心と懐を痛めてもいいならな……」


こっちだって回復魔法を使いたいが、このままいつまでも喧嘩されても敵わん。……喧嘩するほど仲が良いと言うけど、仲間である限りは暴力は良くない。戦闘中は助け合わないといけないのだから。……この脅しが効いてくれるのを願うのみだ。


「……すみませんでした……もうしません……もう無駄使いしません……だからカレーだけは……!」

「くっ……財布を盾にするとは卑怯者め……!もう私は無一文同然というのに……!」

「存外によく効いたみたいだな。……にしても俺もたまに使うけど、回復薬ってなんでこんなに体が痒くなるんだろうな」


なんであいつから金を貰ってないのに金がないかは、今は怖いから聞かないでおこう。一般家庭でも割と大きい怪我をした時に回復薬を使う事がある。それくらい一般的な物ではあるが値段は少々張ってしまう。前世で例えるなら薬局の薬以上病院未満といったところだろうか。


俺も小さい頃動き回ってやんちゃした時に母親に使われた。しみるとかは全然ないのだけれど、どんどん痒くなってくるんだ。結構我慢できないくらいに。回復薬は必要だけどあんまり使いたくないというところが正直なところだな。


「確かに……今すごく痒い……」

「……ここで大っぴらに掻いたらただの変態だから我慢しているが……今すぐにでも服を脱いで掻きたいところだな」

「もうそれくらいの甘んじて受け入れろよ。大丈夫。もう変態だから」

「私は変態ではない!少し人と考えが違うだけだ!」


盗人はいつもこう言うんだ。俺はやっていないと。これは少し違う例かもしれないが、自覚があるからこそ強く否定してしまうのだ。


「天然ボケの子は、自分の事を天然ボケではないと言うらしいな」

「む……なるほど、否定するから余計にあらぬ疑いをかけられるということか?……確かにいつまでも否定を続けるのは効率的とは言えないな。私が服を脱いで解放感を得ている事は事実であるし」

「衝撃の事実だな」


急にピンク馬鹿が俺の目の前に立ちふさがり、両手を大きく広げだした。なんだこいつ。


「……私はっ!変態だっ!!受け入れてくれ!!!愛する人!!!!」

「ーーココ、今日の夕飯なんだろうな」

「ママさんのことだから金曜日はきっとシチューだよ」


勿論すぐ横を足早に通り過ぎる。こんな馬鹿に構ってられない。


「いけずぅ……」

「急にキャラ変えんな!……で、回復薬はどこで買えばいいんだ?」

「さっき買ったのはすぐそこのお店だね」

「愛する人。実は痒くならないと噂の店もあるんだ。だが少し高くてな。安いので済ませてしまう場合が多い」

「なんと。じゃあそこに行こう。うん、なんとなくちょうどいい気がするな」

「……?……リッカ君、また悪い顔してるよ……?」


悪い顔なんてそんなそんな。こんな時こそ俺の会話術コミュニケーションが生かせる場面だろ。商人に向いてるとまで言われたんだ。じゃあ商人らしく、上手く商談をまとめてやろうじゃないか……


「ふ……ふふふ………」


「……楽しそうだね。リッカ君」

「……楽しそうだな。愛する人」



++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++



「ここか。うわきったね。……誰もいないぞ。……すみませーん!!!」

「……おういらっしゃいガキんちょ。回復薬か?」


店の奥からやたらガタイのいいおっちゃんが出てきた。あんた本当に薬師なのか。どう見ても前衛タイプだろ。……まあいいや、とりあえず噂の痒くならない回復薬を見させてもらおうか。


「とりあえず話をしてくるから2人とも外で待っててくれ」

「なんでだ?」

「多分ごたごたするから。こういうのは一対一の方がやりやすいんだ。変なところに目を向けられなくて済む」

「うん。じゃあとりあえず外で待ってるね」




ーーよし、じゃあ行くとしますか。いやあ懐かしい。家電を買う時も思う存分値切ったなぁ。他の店のチラシとか持って。今回は調査が全然足りないけどそれはそれで楽しめるだろう。


「こんにちわーすみませーん。そうなんですー回復薬が欲しくてー。でもまだ駆け出しでー。安くていいのはありますかー?」

「安くていい物だぁ?馬鹿言っちゃいけねぇよ坊や。回復薬ってぇのは品質重視だ。安いから良いってもんじゃねぇ。うちのは少し高けぇが他んとこの物みたいに部位が痒くなったりしねぇんだ。1本銅貨5枚!これは鉄貨だろうが1枚も負ける気はねぇぞ!」


銅貨5枚。大体5000円ってところか。他の店の相場が銅貨4枚。少し高めだが買えない額じゃないな。でもだからこそ、少し値切らせてもらおう。良いものを安く買わないとな。


「うーん、高いっすね……」

「高いのが嫌なら他で買いな」


いい感じに頑固オヤジだな。やりやすい。


「この店の内装のボロボロ具合を見るに、あんまり売れているように見えない気が……やっぱり値段下げた方がいいんじゃないですか……?」

「品質重視っつってんだろうが!いいか!そこらへんのは純度が低いから痒みだけじゃなく次第に肌がかぶれて来るんだ!!それで皮膚薬銅貨3枚で一緒に売るっていうのがここらへんの薬屋の常識だ!詐欺だ!ワシはそうしねえし、ワシのはそうならねえ!!」


おお来た来た。急に切れるおっさん。それだけ自信があるってことなんだろう。実際良いものを作っているんだからそれは良い。でも商売っていうのは結果を出さなければ意味がないのだよ。さっきまではひ弱な振りをしていたけど、ここから攻勢に出させてもらおうか。


「……ならなんでそれをちゃんと告知しないんだ?そんな黒い商売をしている奴がごまんといるんだろ?あんたがそれをちゃんと声を大にして伝えないから騙される奴が増えていくんじゃないのか?」

「……あ?言うにことかいてワシが悪いとでも言いてえのかお前は!!!」


カウンターに身を乗り出す店主の目線に合わせて、俺も目線を下げる。そうだ。あんたは腕は良いのに進むべき方向を見失っている。今までのことに後悔はしなくていい。だけどここまでいわれて反省しないやつはただの馬鹿だ。もっといいやり方を、俺が考えてやる。……あれ、なんか当初の目的と違ってきたな。まあいいや。


「ああ。そう言ってもいい。自分が正しいと信じるならこんなところで縮こまってる意味はないだろ」

「うるせえ何も知らねえガキが!!!……商業ギルドの決まりだ!他の店の悪い噂を流しちゃいかん!もしそれがばれた場合は出店資格を剥奪されるんだ!仕方ねえんだよ!商業全体の管理は国の仕事だ!ワシは手を出せねえんだ!」

「なるほど、じゃあほぼ無関係の俺達がなんとかすればいいんだな。やっぱり俺にはタイミングの女神がついているらしい」


カウンターに寄りかかって店主と同じ方向を向く。今まで自分の腕が十分に認められなくて残念だったなおっさん。でもここからは俺たちは仲間だ。良いビジネスの話をしようか。


「……何いってやがる?」

「冒険者ギルドのギルドマスターに少しツテがある。俺に任せてみないか?その代わり、回復薬は俺達に銅貨3枚で流せ」

「銅貨3枚!?ふざけるな!そこらへんの薬屋より安いじゃねえか!!!」


ああ。他の粗悪品より安いな。だがそれがどうした。一時の損失だ。大局を見ろ。


「しばらくは俺達が冒険者ギルドに"皮膚薬の要らない回復薬"という謳い文句であんたの薬を銅貨6枚で流す。差額はその手間賃だと思ってくれ。上手く流れたらその後はあんたの店から直接流せるようにしておくよ。あんたは今後ギルドに回復薬を銅貨6枚で流せる。客は今まで粗悪な回復薬と皮膚薬で合計銅貨7枚だったのが、あんたの薬のお陰で1枚お得になるんだ」

「ツテだぁ?そんなツテがあったとしても……成功するとは限らねえ。それでも安いからって理由で粗悪品を買う馬鹿はいるんだ」


「でも上手くいく流れは出来てるだろ?まあ…実際はギルドがいくらか金額を乗せようとしてくるかもしれないけどな。それも銅貨1枚以内で済むように交渉してくる。同じ金額で良い物を買うか悪い物を買うか。冒険者とはいえ全員が脳筋ってわけじゃない。ちゃんと回るし、回るように仕向けるさ。……因みにこの店の表に仲間のハンニバルっていう馬鹿もいるんだが知ってるか?」

「……っ!……ギルドを裏で牛耳っているってぇ噂のあの変態女と仲間だっていうのかてめぇは……」


やっぱりどこでも変態扱いされてんじゃねぇか。


「ああ。今ここでギルドに確実なツテがあることがわかったわけだが、あんたはどうするんだ?100%成功する保障なんていうのは世の中何処にもない。失敗が怖いならずっとここで吠えててくれ。負け犬みたいにな」




おっさんは深く考え込んでいた。それでいい。よく考えてくれ。俺が間違っている可能性だって十二分にある。だけど今の俺はそれを理解できない。自分では理に適ってると思ってるからな。だからあんたがしっかり考えて決断してくれ。


「…………いくつ欲しい」

「そうだな……まずは20ほど。いくつかは俺達が普通に使わせてもらうぞ」

「…………ほら、もってけ。回復薬1つ銅貨3枚!20個で銅貨60枚だ!!」

「恩に着るよオッサン!ありがとな!!」

「ちゃんとツラ出せよガキ!待ってるからな!」

「おう。またな!おいココ!ハムリン!流石に量が多い!手伝ってくれ!」

「……あ?ハンニバルがいるんじゃないのか?」


コートの変態と狐耳の少女が、店内を少しいぶかしめに眺めながら入ってくる。まあ汚いからな。


「全く、あまり長く待たせるな愛する人。紫外線対策なんてここではあまりできないんだからな。ん?凄いな。こんなに買ったのか?」

「えーと……20本?……どこに置くのこれ……?」

「ギルドに流す。でも5、6本は俺達で使おうか」

「じゃあ後はガルディアに持って行かせるか?どうせギルドに置くんだしな」

「あ?嬢ちゃん何言ってんだ?ギルドマスターを顎で使う気か?」

「嬢ちゃんじゃない。ハンニバルだ。この偉大な名前を後世まで伝えておけよ髭面じじい」

「……てめえみたいな娘っこが……ハンニバルなのか……?」

「あ?疑うのか私を?賭け勝負でもして証明してやろうか?終わる事には素っ裸になってるぞ?」


……お前がか?


「…やめとけハムリン。でもいいアイデアだな。すまんがガルディアのおっさん呼んできてもらえるか」

「愛する人の頼みであれば!すぐ行くな!すぐ連れてくるな!」


ーーはやっ。Aランクだけあってポテンシャル高いな。


「リッカ君……これいくらしたの……?」

「1個銅貨3枚」

「……もう何も言わないよボクは……」





「(なんなんだこのガキは……)」

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