No.29 妖精劇場
出されたお題を元に、一週間で書き上げてみよう企画第二十九弾!
今回のお題は「剣」「鏡」「亡霊」
3/9 お題出される
3/13 書いてたプロップの通りの作品を書き上げるのが無理と判断し、新しいのを考える
3/15 こんなので良いのかと考えながら書きはじめる
3/16 そして安定の締切ブッチ
酷いギャグをお見せしよう ←
どうしてこうなった! どうしてこうなった!
Side:A
思わず天に向かってうめき、頭をかきむしる。
「困った……」
私は書斎でつぶやいた。
私は売れない小説家だ。いや、自身で売れない、と言ってしまえば確かにそれまでやもしれないが、事実だし仕方ない……昔はちょっとした注目を集めたのだが、今はまるで業界からは村八分にされているかのような静けさに晒されている。
仕方ないのだが、ここ少し家に籠りすぎているのだ。結果、他の人の作品を読めないし、他の人の作品の紹介も出来てない。皮肉なことに、籠らなければ仕事は出来ない。仕事が出来なければ生きていくことは出来ない。しかもやりたくない仕事ばかりを受けている。……なんでこんな仕事をしなければならないのか。私は隙さえあれば遠方の友人と電話やチャットで話し込んでストレスを晴らしているが、それは他の作家の方からすれば「あいつは何をやってるんだ」と言われても仕方ないと思う。
ともかく、平たく言ってしまって……そろそろ書きたい話を書きたいのだ。
特に困ったことに、やらなければならない仕事に追われて、今こうして好き勝手で描けるはずの物で、筆が進まないことが問題なのだ。
「困った……」
とりあえず、何とかして書きたいのだ。これを締切までに書き上げるのが、仕事を圧迫しないなら、寝ないで書き続けるのだが……残念かな。この作品は早めに切り上げないと、今している仕事に響く。
しかし書きたいのだ。なにかしら……こう、壮大な物語の構想が次々と泉のように湧き出てきては、締切に間に合わないからという理由で却下している。まったく……趣味に締切なども受けなければよかったかもしれない。元々は期日までに創作を頑張ることでトレーニングとしてきた以上、こうして書けない時にも書き上げることが訓練になる。……はずだ。
とはいえ、本当に浮かばない。
先ほどまで書こうとしていた作品は「巨大な召喚獣を呼び出す為に人身御供になった少女。この世界では恋をした少女は召喚獣を呼ぶ才覚に目覚めることが有るが、戦争で召喚獣を呼び出した場合生きたまま石化する。その石化の際、彼女に最後まで寄り添ったがために、彼女と両想いの少年が石化に巻き込まれてしまう。彼女は彼の為だけの夢の世界に少年を100年以上閉じ込める。だが、未来の世界で『かつての召喚獣を再召喚する技術』が確立し、少女と少年を無理やり夢から覚まそうとする。結果、夢の世界では支離滅裂でハチャメチャなギャグ空間が、老人と化した少年の日常を唐突に大きく壊していく」
そんな作品を造った。ギャグで彩られてるのに、最後はシリアスで終わり、ギャグもところどころ伏線を張り巡らせておくことで、二度目に読んだ時に面白さが最高潮に達するように設定する……なかなかいいじゃないか。
と思ったが……時間が足りない。
もっとこう、場面表現が少ないものじゃないと締切に間に合わない。もっと言ってしまうと仕事に響くから早々に切り上げるという羽目になる。……解せぬ。
そういえば、前もこんな風に作品が仕上がらないと打切ったことが有った気がする。
あれは「高校生の百合カップルが、時間という概念を飛び越えて意識下の『あの世』を通じ、主人公が、『あの世』の時間軸をたどって未来からやって来た『自身の造った精神世界の案内ロボット』とともにフィアンセ、要するに恋人の少女を救うために『あの世』の時間軸を通って未来にいく話」だったか。
しかし、あれは時間軸を、主人公が女学生であった頃をAとした場合、フィアンセが死にかけている未来をB、ロボを送り込んだ遥か未来がCと、説明しないと時間軸が分かりにくいことだ。ああ、ちなみに順番的にはAからCに向かって未来の話だ。
これはタイムパラドクスを起こす話でもある。未来の自分が過去の自分に介入しているのだから。しかし、介入しなければ未来は大きく変わってしまう。はて、この場合介入するのが正しい未来なのか、介入しないのが正しい未来なのか。そんなところまで話を書きたかった。
特に、百合カップルの二人の設定は結構出来上がってた。一人一人が何に悩み、何を思い、何を望んでいるのか……まぁ……書けなかったんだが。
とかなんとか私は書いているが、そもそも、この文章自体誰に当てて書いているのやら……? ……なんとなくその辺は考えてはいけない気がする。
そう、その前は前世の記憶を持った少年が前世の無念を晴らす話だった。しかし、あれもキーアイテム一つ、文字通り『鍵』を使わずに話を〆てしまうというミスをしていたのを後々発見した。
そもそも、私は子供が不幸な話は自身が覚悟しないと耐えられない。あれは……さりげなくその後ぐったりとしていた。うん……
ともあれ、とにかく、私は今まさに窮地なのだ。
仕事をしなければならない。だが、仕事をしていると思うのだ。書きたい。すんごい書きたい。明日など無視して書きたい。ものごっつぅ書きたい。チョー書きたい! ……ともあれ、私は諸々の煩悩を置いといて色々書いてみることにする。
ん? 今何処かからか「またこのネタか」と誰かが囁いた気がしたが……空耳だろう。そうに違いない。私は「君らのこと」など意識してない。決して。決してだ。
ともあれ、良い題材を見知ったのだ。
あれは骨董屋に出かけた時の話だ。……それは何時だ? 覚えてないがかなり古い記憶なような気がする。
それは古臭い銅鏡だった。緑色の錆に彩られた直系50cmほどの大きな鏡。お値段は……誰が買うのだろうか、あんな金額。
しかし、細工は細かく、縁の縁まで丁寧な彫刻が施されていた。裏面のあの複雑な模様は、今なお私の心をつかんで離さない。
……うん。表面は見れなかった。直系50cm、厚さは一番厚いところは10cm弱。重さは……言わなくても分かるだろう。まして、その古臭い銅鏡を持ち上げた時点で壊れないとも限らないじゃないか。……私の腰が。
そんなわけで、あの銅鏡の表面は見ていない。よし、今回はこれを元にネタとして、短編を書こうじゃないか。
あの鏡は……持てないのかもしれない。持てない? なぜだ? 私の創作を行う灰色の本体が身震いをしながら血流に震えてその答えをでっちあげる。
あの鏡は『松山鏡』のように、中に何か居るとされているのだ。およそ江戸の中期ごろ、鏡という物を知らない人々が、特に身も心も醜い夫婦がそれを見て中に鬼が居ると誤解を……ん?
待て、たしか、卑弥呼の時代に儀式用とはいえ銅鏡は有ったよな? というか、もっと前から鏡は有ったもではないか? ……そういや『紫鏡』なんて怪談もあるぐらいだしな。
私の筆は止まった。
ま、まて、まだ、まだ何とか書けるはずだ。何とかするからしばし待て!
……しかし……
……私は別の題材に関して私は思案することにした。
居候している家の姪っ子が、刀剣を擬人化するゲームにハマっていると聞いた。なるほど、剣を人間にするのか。たしか、似たような漫画もあると言っていたな。あれは武器に変身できる遺伝子を持った人間と武器を扱う者との魂の絆の漫画だった。あるいは、前世が大剣だったゲームキャラが出てくるゲームも有ったな。
兵器を人間にしてしまう、というのは有りなのだろうか? いや、武器にもそれぞれ歴史やロマンが有る。よし、それなら、それぞれの剣の歴史に合った人格を……ん?
有名な武器などは構わないが、だいたいが殺傷用に作られた、しかも物によっては『フランベルジュ』などのように悪意の権化のような武器もある……あれ、擬人化したらどうなるんだ? きっと美しい外見と祭儀用の意味合いを込めて、美しい褐色美女が踊り子のごとき格好で……振るえないな。あれ、かなり重かったはずだ。ということは、イケメンのマッチョなヨーロッパ男か……胸毛が濃そうだな……。
私の筆は止まった。
ちょ、ま、まつんだ。まって、まって、ちょーと待って。どうしてこうなる! ええぃ、なに、書けるはずだ。
……しかし……
……私は別の題材に関して思案することにした。
この間、友人たちと紅茶の話を……
Side:B
わたしの叔父は、書斎で書き事をしている。とはいえ、ほぼ趣味のようだ。物書きだけでは収入はうまくいかないようで、父さんの元に居候しているが、その家賃を入れるのも一苦労らしい。そのため、最近は肉体系の仕事を柄にもなく始めたらしい。そのため、わたしとしては少々さびしい。毎度部屋に籠って何をしているのか……明日の為に寝溜めしているのだ……誰か寝溜めは意味が無いと教えてあげないのだろうか? ちなみに、わたしは推しえようとは思わない。
別段、叔父が遊んでくれないのが寂しいわけじゃない。そうじゃなく……あの書斎、あの書斎で叔父が創作活動をしている様を見るのが、その時の部屋の様子を見るのが、わたしの趣味の一つだ。
特に煮詰まっている時……あの書斎には……出るのだ。“アレ”が……
書斎から叔父のうめき声が聞こえる。それを合図に、わたしは部屋を飛び出し、叔父の書斎をそっと、バレないように覗き込む。
そして、私はその光景に胸躍らせる。
この書斎では、創作活動中の人の背後で、お化けのような存在が、その創作の光景を再現しているのだ。しかも、この亡霊たち、ノリノリで。
木目の本棚の壁を、オレンジライトが照らし、そのライトで作られた叔父の影からそれらは現れる。
現れるのは最大4人まで。家族なのか、天辺禿の小太りオジサンに、細身で首が長いマダム。大きな黒縁眼鏡の少年に、一番小さなクマのぬいぐるみを抱えた女の子。彼らは何時も無言で創作の再現をする。わたしはもちろん叔父の創作活動の内容を知らない。なので、どんな話なのか想像するのも、わたしにとっては非常に楽しい。
少年の影が少女の影と手を繋いで現れる。きっとラブロマンスね。二人が仲良さそうに歩く真似をするが、少女が唐突に少年から離れてしまう。きっと二人は引き裂かれたのでしょう。よくあるお話だ。代わりにオジサンが少年と同じ姿勢で現れる……時間の経過を現してるのでしょう。ああ、引き裂かれた二人がまた会うというラブロマンスなのでしょう? 良いお話……と思っていたらいきなりオジサンが立ち上がり、ちびっ子たちが走ってきてオジサンをこかしたり小突いたり……叔父は何を考えてるんだろう?
ラブロマンスだと思ったけど、もしかしたらあのオジサンの演じてるキャラクターの妄想話とか? オジサンのキャラは変態なの? 心なしか女の子に小突かれて嬉しそうにしてるし!?
というか、どこからが彼らのアドリブかも分からない。いや、だからこそ想像が膨らんで面白いのだ、と私は思う。
きっと、叔父は変態親父のお話を書いているんじゃないかしら。妄想の世界では子供で恋人もいるという哀れなオジサン……なんて……マニアック!
と思っていると叔父が頭を抱えて唸る。そして、書きかけた原稿を放り投げる。それを見て亡霊たちは、しなびたもやしのようにしょんぼりしながら、渋々次の話の再現をしようとする。そんなに変態親父が良かったの?
続いて、マダムが一人二役の立ち回りをこなしていく。右に左に左右に動き、自身に向かい合う形で右往左往。それぞれ体の使い方が違うから別人の役なのだろう。……というか、足元に居るオジサンは何をやってるんだろう? 口をすぼめながら上唇を捲り、変な顔しながら女の子を押さえつけている。女の子も丸まってミノムシの様な動きをしながら、これまた変な顔だ。
……やはり、今日の叔父は変態プレイにいそしむ中年男性の話に夢中なのだろうか!
後ろで必死に一人二役してるマダムはきっとオジサンの旦那で「どうしよう、うちの旦那が変なの!」「元からじゃないか、気にしたら負けさ!」「でも前にも増して変なの。まさかタコの真似しながら娘にもそれを手伝わせてるのよ!?」とかなんとか。更に追い打ちをかけるように、少年がオジサンを斬り倒すモーションを取る。……ああ、変体過ぎて斬られちゃったのね。
とか考えていると、叔父がまたまた唸る。そして、書きかけた原稿を放り投げる。やはりしなびた菜っ葉の様なしょんぼりした雰囲気を纏って、亡霊たちは次の再現をしようとする。
……なんだろう、あれ。オジサンが腕でわっかを造り、そこに入ったり出たりしながら少年と少女が喧嘩している。そこにマダムが通りがかり、同じようにオジサンの腕に出入り。そうすると喧嘩が止む……なにこれ。
やはり、叔父はオジサンを変態にしたいのかもしれない。というか、その奇天烈プレイに付き合う少年少女とマダムのキャラが一体何なのか分からない。そもそも、オジサンがずっと中腰で足がぷるぷるしているが、それは良いのだろうか。だれか止めてあげろよ。明らかに苦しそうじゃないか! あ、こけた。足がつったらしい。めっちゃ悶えてる。めっちゃのたうち回ってる。助け求めてるけど……?
ん? なんだろう? 唐突にみんな止まった。(呻いてるオジサンは別だ)そして、一斉にオジサンの方を向いて……皆で一斉に蹴った! 何で!? なにが有ったの!? 叔父よ、何を思い描いたらこうなるんだよ!!
そして、オジサンを皆でなんとか助けている間に、叔父がまたも唸りながら原稿を投げ捨てる。
そして今度は女性陣は出て来ず、男性陣がそれはそれはキリリとポーズをとる。腰に手を当てているようだ。女性陣は、両の手を使い、男性二人の背後で手を細かく振って派手に見せる。……なんだろう?
腰に手を当てる……牛乳か!? 牛乳の早飲みなのだ! 腰に手を当てるならそれしかない!
と思っていたが、途端に腰から刀を抜くようなポーズを決める。なんだ、牛乳じゃないのか。
と思っていた矢先に男性陣が変な踊りを踊り始める。体を左右にぐにゃぐにゃと揺らしたり、ズボンのすそを左右に引っ張りながらしゃがんだり、MPを取られそうな踊りだ。というかいったい何なのだこれは!
やはり牛乳なのかもしれない。牛乳と見せかけて牛乳に異物が混入していたか……いや、今日の叔父はオジサンにアブノーマル趣味をさせたい違いない。という事は、腰から刀を引き抜くようなモーションは、実は牛乳瓶を投げ捨てたのだろう。その牛乳にきっとスライム化する毒でも入っていたからだ。そうに違いない。……ついには人外プレイとは!! 叔父の趣味の広さを思い知った気がする。
が、皆の動きが止まる。またもや、またしても叔父が呻いて頭をかきむしり、原稿を投げ捨てたのだ。そして、これまた水でふやけた煎餅のごとくぐったりしている皆が次の再現に移る。
……しかしこれもまた何なのだ。マダムとオジサンが体を使って大きなアーチを造り、そのアーチの中でちびっ子たちが元気に跳ねまわっている。彼らが亡霊じゃなければうるさくて誰か書斎に飛び込むだろうぐらいに跳ねている。縄跳び……ではなさそうだ。オジサンもマダムも動かない。そして次第にちびっ子たちが跳ねるのを止め、ゆっくりと横になる。
どうしよう、この変態プレイ、超級者過ぎてなんなのか分からない。きっと、子供たちが跳ね回るのに萌える変態をオジサンにさせたいのだろう。
オジサンとマダムには変化はな……あ、またオジサンが足をちびっ子に踏まれた。唐突にアーチを崩して先ほどの子供たちばりに跳ねまわる。そして、呆れた様子の他の亡霊たち笑われる。
とここで叔父がため息をついて席を立った。
すると亡霊たちは煙のように消える。私も書斎のドアから離れておくことにする。決して怒られるわけではないが、念のため、というやつだ。
書斎から出ていた叔父と目が合う。
「やあ。……紅茶を飲みたくなってね。どうだい?」
「え? ……ん?」
私は先ほどの亡霊たちの動きが、ティーポットの中の茶葉だと気付くまでに少々かかった。
「なに? どうしたの? なんでそんな何かに気づいたかのような顔をしているの?」
「え? いや、うん」
私は叔父とともに、リビングへ紅茶を飲みに行くことにした。
どうしてこうなったぁぁああ!!
そして
ほとんど後書きで描くようなことが無いという……
亡霊たちが何のかと聞かれても、正直何も考えておりません
姪は『亡霊』と考えていたようですが作者的には『悪戯妖精』とかの妖精とかをイメージしてました
(しかしビジュアルはハゲ親父だ)
ここまで読んでいただきありがとうございました