デスゲーム
突然、運営のアナウンスコールと共に、緊急テレポートが行われた。
気付けば、そこは始まりの街の大広場だった。
そこは、イベントなどで人が大勢集まり、とても賑わっている場所だった。
見れば、今も人がたくさん集まっている……が、様子がおかしかった。
明らかに、よくない表情だった。
冷や汗を掻く人、震える人、涙をぽろぽろと流す人……。
「一体……皆、どうしたんだ?」
流石に不審に思い、オレは近くの男性プレイヤーに話しかけた。
男性プレイヤーは、強張った表情に声が震えかけ、返した。
「オマエ……ニュース見てないのか?」
「ニュース……ですか?」
「ああ、メニュー開いて、現実のどっかの放送局のチャンネルに繋いでみろ……」
オレは指示に従い、メニューを開き、チャンネルを繋いだ。
EFOの世界は、現実世界の状況把握のため、チャンネル接続サービスが施されていて、現実に起きているニュースが見れる。
そして、空中にいくつもの映像が浮かんだ。
「そ、そんな――これは一体!?」
そこには、EFOの運営会社の本社が何者かに襲われている、映像だった。
激しい銃撃と血が飛び散り、職員達は次々と死んでいった。
オレの表情を見た、男性プレイヤーが淡々と言った。
「EFO製作の批判者達による、テロだ」
「て、テロ?」
「そうだ。元々、このゲーム、否、このVRゲーム制作成功には、大きな穴が有ったんだ」
「穴、ですか?」
「うむ。確かに、VR世界に人間が進入出来たという事実は素晴らしいモノだ。
オマエは――この、ヘッドギアの仕組みは知っているか?」
急に話しが代わった、オレは当たり前のように答えた。
「人間の五感情報をヘッドギアから、脳に直接送り込んでるんですよね?」
「それは、嘘だ」
……え、嘘?
「ヘッドギアが脳に情報を与えている? 逆だ。脳と意識が完全に持っていかれているのだ」
「脳と意識が……逆に、持っていかれている?」
「そうだ。人間の五感の神経と意識をまるごと、EFOのバーチャル世界にぶち込む事に成功した、天才が居てな、そいつがこの世界を作っちまったって訳だ。つまり、現実世界の体は蛻の殻って事だ」
つまり――オレ達の脳や意識が完全にこの世界にコンバートされている。
人間の本体は、脳と言われている。
その、脳が本体の体で機能しない……という事は――
「ログアウトするには、絶対に運営のコンソールに接続することになる」
「おお、察しがいいな、少年。その通り、この世界から出るには、運営のドでかい、プログラムの塊みたいな所をオレ達の脳が通る、だが――このニュースを見れば……チッ」
現在、運営の本社が壊滅されている――ってことは、オレ達の命は完全に向こうが握っている。
つまり、オレ達は人質――なのか。
<<こんにちわぁ~。哀れな、人質さん達。このテロの首謀者? の、人で~す>>
大広場の上空に突然、映像が流れだした。
そこには、黒い服に黒いマスクでライフルを持った、テロの首謀者を名乗る奴が映っていた。
<<今、君たちのデータが君たちの体に送り込まれる、回路をぶっ壊しました~>>
「クッ……やはり、壊されたかッ……」
男性プレイヤーが拳を握り、ギロリと映像の男を睨む。
そういえば、何故、この人はこの事件についての情報をたくさん、知っていたのだろうか?
そんな疑問を抱いても、首謀者の声は鳴りやまない。
<<つまり、君たちはログアウトできませーん。あ、怨むなら、このゲームの制作者怨んでね? 僕たちは、ちゃーんと止めようとしたんだもーん。こんなの危険過ぎるって。だから、それを見せ占めるために、君たちを使った、悪いね~>>
首謀者の声を聞くたび、泣き叫ぶ人々。
帰りたい、ここから返せ、ママー。大切な人の名を口ぐちに叫ぶ、プレイヤー達。
この事を知れば、友達や母さん達は、皆、泣くのだろうか……。
そもそも、友達と言える人がオレに存在していたのだろうか……。
現実に帰った所で、本当にオレの居場所が有るのだろうか……。
クソッ、考えるだけで泣いてしまいそうだ。
<<でも~、そんな理不尽な君達にー、チャンスを与えよう~>>
……チャンス?
<<このゲームをクリアすればー、回路が自動復旧される、プログラムを施しました~。でも、クリアするためには、七つの神器が必要なんだね、うん>>
…………七つの神器?
<<神器を持つ者を「神器持ち」と言う。神器は自然的に、そう、ナチュラルに特定のプレイヤーの元に行きまーすッ!>>
まさかっ…………!
オレは急いで、メニューを開き、持ち物を確認した。
隣の男性プレイヤーは「どうした?」と言ったが、無視。
そして、装備のリストをスクロールしていくと、新規プレイヤーに貰える、最低限の防具と武器の後に――魔剣――ドレインブレード。その表記の横に浮かび上がる、「神器」と言う、文字。
マジかよ…………。
<<では、プレイヤーの皆さん。ぞーんぶんに、ゲームを楽しんでね~。この、地獄のクソゲーをッ!>>
――と、映像は途絶え、消えた。
その後、プレイヤー達は、膝を地面に落とし、絶望的な顔をし、泣き叫んだ。
何で、泣いてんだ? ――死ぬわけじゃ、あるまいし。
「何で、泣いてんの? 帰れないだけで――って、おい。まさかっ」
「その、まさかだ」
男性プレイヤーが言った。
「オレ達がゲームオーバー、つまり、この世界でHPがゼロになった時、一度――あの、回路を通る。そう、死んだ時、オレ達の意識は永遠にあの破壊された、プログラムの中をさ迷うことになる。現実にも戻れなし、この世界にも戻れない、死んだも同然だ」
――クソッ、そういう事か。
と、オレの隣で男性プレイヤーがしゃがみ込み、頭の額を地面に擦りつけ、土下座した。
そして、
「すまない! 実は、オレは、このゲームの制作者の一員だ。オレ達の事をオマエらまで、巻き込んですまない! 少年、オマエの未来、時間を奪うような真似をして……本当にすまない!」
「…………大丈夫ですよ」
「何……?」
「どうせ、上司や社長の都合や事情で、あなたもこうなったんでしょ? なら、仕方ないですよ」
そう、世の中は理不尽だ。オレも、その中で生きてきたもんだ。
今更、未来や将来だの……悔む要素も全くない。
「……オマエがそう言うのなら……そうだ、この世界の情報、オマエにとって必要な情報を必要な時、オレが提供する。せめてもの……償いのつもりだ」
「はい、そうして下さい――では、オレはもう行きます」
男性プレイヤーは立ち上がり、
「待ってくれ、名前を教えてくれッ!」
そう、叫んだ。
オレは、フッと微笑み、
「神器持ちの一人――アル。それが、オレの名だ」






