罠
〜桜譁祭前日〜
下駄箱に入っていた紙を見て驚愕した。
「お前の秘密をばらされたくなければ放課後、一人で体育館裏まで来い」
秘密?
やばいじゃん。
もしかしてバイトの事がバレてしまったのか?
どうしよう…。
行きたくないけど、行かないとバラされちゃうよね?
しかも、体育館裏って…。
いかにも~って感じじゃん。
本当に憂鬱だ。
放課後
出し物の準備をしているクラスをそっと抜け出して、体育館裏まで走って行く。
…本当にどうしよう
ドキドキしながら体育館裏で待つ。
すると、10分くらいしてやっときた2人組。
…あ
その2人の姿を見て、ひとり無音の溜息をついた。
よりによってこの人達に秘密がバレてしまうとは…
それは、以前私を叩きにきたあの2人組で
「マジで来てるし」
クルクル女は馬鹿にしたように鼻で笑った。
あなた達が呼んだんでしょ?
本気でイライラした。
『こんな所に呼びだして、何か用ですか?私、忙しいんですけど…』
あなた達みたいに暇ではないいんだから!!
「あんた、この前の事分かってなかったの?マジウザイんだけど」
眉根を寄せ、化粧ばっちり女ミホが睨みつけてきた。
『分かりませんが』
「生徒会やめろって話」
『やめません』
あんな事くらいでやめるわけないんだ。
私がミホ達を見据えて答えれば、ミホは怒りと憎しみに歪んだ顔をした。
「お前なんかが蓮さまに釣り合うはずないんだよ!」
『…は?』
蓮様って…
釣り合うも何も、何もないですが。
もしかして私みたいな地味女が生徒会には相応しくないとおしゃっているのか…?
蓮の熱狂的ファンなのか?
…くだらない
そんなことで、いちいち生徒会なんかやめないわよ!
私だって責任もって仕事してるのよ!
私はイライラを抑え平静を装い口を開いた。
『それよりも、秘密ってなんですか?何を知ってるの?』
「は~?そんなもん知らないよ」
……は?
ミホに、尋ねたのだが、眉根を寄せ何だよこいつ?みたいな目で見られたのだ。
じゃぁ、わざわざこんな所にこなくてよかったのね。とんだ無駄な時間だわ。
でも、秘密がバレてなくて良かった。
『それなら、私はこれで…』
クルリとミホ達に背を向け立ち去ろうとした。でも…
「話終わってないんだよ!!」
『…った!』
ミホの低い声とともに、背中をドンと突き飛ばされてしまったんだ。
コンクリートに思いっきりすべりこみ、膝と腕がすりむけてしまう。
腕の方は、そんなにひどく擦らなくて大丈夫みたいだったが、膝からは血が滲み出していた。
不意打ちは卑怯だ…
……痛い
メガネも衝撃で落ちてしまったので、急いでメガネを拾おうとすれば
グシャリ。
あろうことか、手を伸ばしたまさにその瞬間、クルクル女にメガネを踏まれ壊されてしまったんだ。
「ごめんね~。わざとじゃないのよ~」
ケラケラ笑っているクルクル女。
確信犯のくせに!!
私の変身メガネが、もはや原型をとどめていなかった。
どうしよう…私が、溜息をこぼす中、
「これじゃぁ何も見えないね。いい気味~」
「ざまーみろ」
嘲笑いながら、上から見下ろしてくるクルクル女と、ミホ。
ふんだ。
残念だが、私は視力は良いのよ。
そんな事より人の物を壊すなんて許せない!
眉を寄せ、キッと睨んだ
しかし、
『う…』
痛い!!
痛いったら!?
ってか怖い、怖い!その顔やめて!
は、般若がここにいる!?
睨みつけた私と目があったミホは、恐ろしい形相になり、座り込んだ私の髪を引っ張って私を立たせようとしてきた
「あんたのその態度、本気でムカツクんだけど。」
『た、立つから…は、放してっ!』
「ふん」
やっと髪を離してくれたのだが、本当に痛かった…おかげで、私の髪はボサボサ。
ミホの手には、何本も絡みついた私の髪の毛達があって、ミホは、その手を不快そうにパンパンと払っていた。
バラバラと下に落ちていく髪の毛達。
最低!ハゲたらどうすんのよ!?
私は縛った髪を解き、ミホを見据えた。かなりイライラしたが、必死に心を落ち着かせた
「…な…あんた…」
私を見るなり、驚きの表情をするミホ。
「…い、今すぐに生徒会辞めなさいよ!」
『何回も言いますが、私生徒会やめません』
バッチーン
痛い。
左頬に広がるジンジンとした痛さ。
あろうことか、また叩いてきたミホで…
何なの!?この暴力女!!野蛮人!!
睨みをきかすものの動じないミホ。
「やめるって言うまで叩いてやるから!!」
え……勘弁してよ。
「あ、あんたなんて、少しも可愛くないんだから!」
可愛くないなんて、そんなの自覚済みだ。
それにしても、こういう場合はどうしたらいいのだろうか?
女の嫉妬は怖いね。
そんなに蓮が好きなんだ。
私なんて、チビ呼ばわりだよ?
そんなに心配することないと思うのに、必死になっちゃてさ。
笑えてきた。
思わず笑みがこぼれてしまった。
すると…
バッチーン
左頬に、ジンジンとする痛みが再び広がった
……痛い。
そう、また叩かれてしまったんだ。
…ありえない
しかも、油断してたから口の中を切ってしまう。
じわっと、鉄の味がひろがって気持ち悪い
本気でなんつう力してるんだよ。
しかも毎回毎回左頬ばっかり。
顔変わったらどうしてくれるのよ!?
でも、それほどまで蓮の事が好きなんだと痛感した。それに、そこまで蓮の事を想う事ができるなんてミホ達はすごいと思う。
私には怖くてできないから。
恋愛なんて特にムリ。
人を信じる事のできない私が、誰かを好きになんて……
そんなのありえない。
それに、蓮達は確かにかっこいい。そんなイケメン集団なんかに、私なんかがいるから逆鱗にふれるんだよね…。
誰でも惹きつける彼らと皆に嫌われる私…
確かに不釣り合いよね?
もう睨む気も失せてきた。
こうなったら、ミホが納得するまで叩かれてよう。そのうち気が済むだろう
半ば、投げやりになってしまった。
「何、黙ってるんだよ!!」
そういってまた手を振り上げようとしたので、思わずギュっと目を閉じ、歯をくいしばりその衝撃を待った。
しかし、
『……?』
あれ…
衝撃が…来ない?
「お前ら、いい加減にしろ」
唸る様な低い声が耳に届いた。
この声は…
『……れ…ん…?』
目を開け視界に入ったのは、ミホの腕を掴み睨んでいる蓮の姿で
『ど…う…して?』
どうしてこんな所にいるの?
こんな目立たないところに…
ミホとクルクル女は真っ青になって固まっている。
「一体何のつもりだ?」
蓮はミホの腕を掴みながら、眉をグッと寄せ睨みつけている。
「わ、わ、わたしは……そ…の…」
ミホは、真っ青な顔で視線を泳がせた。
「あ゛?」
「れ、れ、蓮さま…の為…を思って…」
か細い声でミホが言えば、蓮は掴んでいた腕を思いっきり払いのけ、
「は?誰がんな事頼んだんだよ!!」
と吐き捨てるように言った。
「失せろ。」
「次、こんな真似しやがったら女だろうが容赦しねぇ」
「ご、ごめんなさ…い」
私は、バタバタ走り去っていくミホ達を放心状態で見ていた。
何だかミホ達が可愛そうにも見えてしまう私は、偽善者だろうか…?
「リン、大丈夫か?」
『…うん』
私の顔を覗き込み、心配そうな表情で見つめてきた蓮。いつもと違う雰囲気に戸惑う。
「悪かったな。俺のせいでこんな目にあって」
何でそんな悲しそうな顔するの?
蓮は悪くないのに…。
『蓮のせいじゃないよ。きっと私が怒らせる態度しちゃったんだよ!』
私の態度もきっといけなかったんだ。睨みつけちゃったし…。だからそんな悲しそうな顔しないで
『あの子たちもきっと蓮が好き過ぎてどうしようもなかったんだと思う。私なんかが、蓮たちの傍にいるから腹がたったんだよ。
もっと美人で明るい人が蓮たちの傍にいたのなら、こんな事はなかったよ。だから私が悪いの!!』
そう、私がいけないんだ。
すると、
「あほ。お前は悪くない」
眉をさげ困った表情を浮かべながら、クシャリと頭を撫でてきた蓮。
『私が悪いの!!」
「俺だ」
『あ~た~し!!』
「頑固者」
『蓮だって~』
お互い、一歩も譲らない感じのやりとりがおかしくなり笑えてきた。
『蓮!!ありがとう!助けてくれて本当にうれしかった!!』
本当だよ。
私なんかの為に女の子に怒ってくれて…。
私がそう言えば、蓮は目を細め小さく笑い、またクシャリと頭をなでた。
「痛いか?」
左頬にそっと触れた蓮。
『大丈夫だよ』
「そうか」
蓮の視線が私の足に向かう。
「足…結構血がでてるな。」
あ…本当だ。
見るとさっきよりも、血が垂れていて…
どうりでジンジンすると思った。
私がぼんやりと膝を眺めていると、ふわりと体が浮いた。
…え?
「保健室行くぞ」
な、なんと蓮は私を抱っこしてきたんだ。
しかも。ただの抱っこではない。
いわゆる、お姫様…抱っこだ。
『蓮……歩けるから…その…降ろして…?』
「うるせぇ。俺様が抱っこしてあげているんだ。ありがたいと思え」
恥ずかしく、しどろもどろに言えば、ぶっきらぼうに答えた蓮。
『…うん…ありがとう』
口はいつも悪いけど、蓮はやさしいね。
~蓮 side~
放課後、俺達2年は生徒会室にいた。
明日の桜譁祭の準備の為だ。
そんな時、伊吹から悠斗に電話が入った。
「あぁ。分かった。こちらも手分けして探す。とりあえず伊吹もこっちへ来い」
「ゆうと~どうしたの?」
悠斗は眉間に皺をよせ、どこか焦った表情で、そんな様子を見た隼人は首を傾げて尋ねた
「リンがいなくなったらしい。今日1日リンの様子がおかしかったみたいだ。」
「何かあったのかな…リンちゃん、どこに行ったんだろう…」
隼人が考えるように呟けば、すかさず翔が口を開いた。
「おそらく、今は桜譁祭の準備で室内は人通りが多い。だから何かあるとすれば、外だと思う。」
俺、隼人、悠斗、翔は外に向かって走り出した
隼人はプール方面、悠斗は校舎裏、翔は、運動場、俺は体育館裏まで探しにいった。
チッ
何で俺こんなに必死に走ってるんだ?
チビのくせに俺に迷惑かけやがって。
ったく、どこに行ったんだよ
「何回も言いますが私、生徒会やめません」
ふと足を止めた先に、リンの声が聞こえた。
誰かといるのか?まだ姿は見えねぇ。
あそこか…?
おそらくあの角を曲がった所だ。俺はそっと近づいた。
すると、バッチーンともの凄い音が響いた。
…もしかして、今の音は――…
そんな時また、バッチーンと響いた。
ありえねぇ。
…何やってるんだ?
俺は走ってその場所に急いだ。すると視界に入ったのは、俺に背を向けている2人の女の姿。
しかも、
「何、黙ってるんだよ!!」
知らない女が大声を出しながら、右手を振り上げている姿だったんだ。
すでにリンの頬は真っ赤になっていて、格好もボロボロだった。
眼鏡もしてない…なぜだ?
なぜこんな事になっている?何があった?
俺の中で何かがプツンとキレた音がした
俺は急いでさらに叩こうとする女の腕を力強く持った。
『お前ら、いい加減にしろ』
本気で頭にきた。俺は、キレそうになるのを必死に堪えた
『一体何のつもりだ?』
「わ、わ、わたしは……そ…の…」
「あ゛?」
「れ、れ、蓮さま…の為…を思って…」
なんなんだよこの女。虫唾が走る
『は?誰がんな事頼んだんだよ?』
『失せろ。』
2度とそのムカツク顔見たくねぇ。早くどっか行ってくれ。じゃないと俺は、女を殴ってしまいそうだ。
『次、こんな真似しやがったら女だろうが容赦しねぇ』
『大丈夫か?』
またこんなに赤くなって…。痛いよな?何でリンがこんな目にあわなきゃなんねぇんだ。メガネも壊されて…
「…うん」
『悪かったな。俺のせいでこんな目にあって』
俺のせいだ。
この前やられたのも、あいつらだったんだな
「蓮のせいじゃないよ。きっと私が怒らせる態度しちゃったんだよ!」
…は?
リンは何を言っているんだ?どうみたってお前は被害者だろ。
「あの子たちもきっと蓮が好き過ぎてどうしようもなかったんだと思う。私なんかが、蓮たちの傍にいるから腹がたったんだよ。
もっと美人で明るい人が蓮たちの傍にいたのなら、こんな事はなかったよ。だから私が悪いの!!」
何さっきの女庇ってるんだ?
本気で意味わかんね。
『あほ。お前は悪くない』
どうみたら、お前が悪くなるんだよ。
「私が悪いの!!」
『俺だ』
「わ~た~し!!」
『頑固者』
「蓮だって~」
このやり取りにバカバカしくなって笑った。本当、リンはどうしようもねぇ
「蓮!!ありがとう!助けてくれて本当にうれしかった!!」
微笑んで言うリンの姿が可愛く見え、思わず笑みがこぼれた
『痛ぇか?』
見る限り赤くなった左頬は、本当に痛々しい。あの女どんなバカ力で叩いたんだよ。
「大丈夫だよ」
『そうか』
でも、強がっているのバレバレだぞ…。
はぁ…リン。
足もケガしてるじゃねぇか。
『足…結構血がでてるな。』
血が垂れているので本当に痛々しい。抱っこで連れていくか?
まぁ、とりあえず手当てしないと。
『保健室行くぞ』
「蓮……歩けるから…その…降ろして…」
リンが顔を真っ赤にして、恥ずかしそうにするので、俺まで顔が火照るのを感じた。
『うるせぇ。俺様が抱っこしてあげているんだ。ありがたいと思え』
俺こんなキャラじゃなかったよな?
リンが歩きたいって言うなら、歩かせればいいものを。
こんな変な女ほっとけばいいのに。
なぜ俺はここまでしている?
なぜ?
分からない…
「うん。ありがとう」
リンの笑顔を見ると、ドキリとしてしまうんだ
保健室に着き、手当が終わるのを待っている間俺は、みんなに電話した。
『あぁ。見つかった。今、保健室だ。後で行く』
「蓮、お待たせ。終わったよ…それじゃぁクラスに戻るね?」
『クラスはもういいって。伊吹も生徒会室にきたって。ほら、行くぞ。チビ』
「もぉ~チビじゃないもん。」
何でかは知らないが、ぷくっと膨れているリンが可愛くみえて仕方がねぇ。
俺、目おかしくなったか?
ありえねぇ。
『どう見たってチビじゃねぇか』
本気でありえねぇ
どうしちまったんだ…俺は…
こんな変な女なんて、興味ねぇ。
そう
興味ねぇんだ。
『リン戻るぞ』
とにかく、早く戻った方がいいよな?
翔、何だかキレそうな声だったし
あいつ怒ると怖ぇんだよな
マジ勘弁。
「え…え…!?」
そんな時、何故かリンが慌てていた。
なんでだ?何を照れてる?
「蓮…手…」
…手?
思わず手を繋いでいたらしい。
意識すると俺まで恥ずかしいじゃねぇか。
『いいから行くぞ』
生徒会室の近くまで、手を繋いだ
気まずいのか2人で終始無言だった。
たかが手だぞ?
なぜ、こんな気持ちになるんだ?
クソ
わかんねぇ
生徒会室に戻るなり、みんなリンを見て固まっていた。そりゃそうなるよな。
左頬の湿布、包帯グルグル巻の両膝、髪はおろして、メガネはしてない。
~翔 side~
蓮から見つかったと電話があったのは、皆が生徒会室を出て探しに行った10分後だった
今、保健室で手当てをしているという。
俺は、リンを傷つけたやつを許せない
おそらく、俺達の周りに纏わりついている女どもだろう。
はっきり言って、目障りなやつらだ。
あの子が何をしたというのか?
リンは、他の女とは違う。
俺達がいても顔色一つ変えないで、淡々と仕事をこなす
色目を使ったり、媚びたりしないし
仕事も早く、丁寧だ。
全くもって生徒会には、必要な存在だと言える
それなのに…
クソッ
イライラする。
蓮とリンが生徒会室に戻ってきたとき、俺達は言葉を失った。
左頬に貼られた湿布、足の包帯。
メガネはなぜかかけておらず、いつも縛っている髪はおろされていて
俺のせいでこうなったと言っていた蓮
やはりな…
おそらく彼の過激なファンがリンにこんなひどい事をしたのだろう。
…それにしても酷い。
やったのが女だとしても許せない。
同じ目にあわせてやろうか?
いや、それ以上の苦痛を与えるべきだ。
悠斗の方からどす黒いオーラを感じたので、視線を流せば、悠斗は眉間に深い皺をよせていて
その表情から悠斗も完璧キレているのが分かった。
一番最初に口を開いたのは伊吹だ。
「リン!!だ、大丈夫?」
「大丈夫だよ」
真っ青な顔をした伊吹が、リンに近づき問いかければ、ニコリと微笑んだ彼女。
「どうして俺に内緒でそんな所に行った?」
眉を下げ、悲痛な声を出す伊吹。
この前の事があってから、守るっていってたもんな。
こいつはこいつで守れなかったという後悔で苦しんでいるに違いない
「ごめん。伊吹。秘密が、ばれちゃうと思ったの…」
秘密…
バイトの事だよな?
『何で俺達に相談しなかった?』
できるだけ、笑顔で聞いてみた。
俺達を頼ってほしかった。
どうして一人で抱えこむんだ…
俺の問いかけに、リンは目を伏せた。
「…こんなくだらない事で、みんなに迷惑かけたくない」
迷惑じゃないのに。
俺は少なくとも頼って欲しかった。
そう思っているのは、やっぱり俺だけではなくて、
「俺達がリンちゃんの事、迷惑に感じると思う?」
そんな風に思っているなんて悲しいな…なんて隼人は言っている
その言葉で、彼に視線を向けたリン。
「……。」
「俺達、心配したんだよ?」
「心配?」
隼人が言えば一瞬だが、彼女の目が揺らいだ気がした。どうしたというのだろうか?
「友達でしょ?」
「…友達…。」
ボソリと小さく呟いたその言葉は震えていて…友達という言葉に怯えているように感じた
一体どうしたのだろうか?
しばらくの間沈黙が続いたが、沈黙を破ったのは悠斗の不機嫌な声。
「蓮、誰がやった?」
座りながら腕を組み蓮を見据えている悠斗。
悠斗の瞳は怒りに燃えていて…
「多分2年の女だ。見たことがある」
2年の女か…。
同じ学年なら、やりやすい。
どうしてくれようか?
「許せねぇ」
殺気を放つ悠斗。ただならぬ雰囲気を感じ取ったリンは慌てふためている。
俺はオロオロするリンの姿を見て、段々と冷静を取り戻した。
だって、こんな悠斗を初めて見たから。
「ゆ、ゆうと、私大丈夫だよ。きっと私が悪いんだから、悠斗が怒る事ないよ?ね?」
「リンは悪くねぇ。俺は絶対見つけ出す。」
「でもね、蓮がガツンと言ってくれたからきっともう何もしてこないよ」
「……。」
リンが宥めるように言えば、眉間に皺を寄せたままではあるが、少し冷静さを取り戻した悠斗
そしてリンは、俺達に顔を向けた。
「みんな、心配してくれてありがとう」
リンのとろけそうなほど甘い笑顔に、頬がみるみる紅潮した。
あの笑顔はダメだな…
リンのメガネをとった姿は初めてみたが、予想以上に可愛かったんだ。
パッチリした大きな瞳、小さい鼻、小さい桃色の口。本当に、可愛い顔をしていて。
愛くるしい顔。
思わず見入ってしまう。
「あぁ。」
リンに、ああ言われたら悠斗もそう言うしかないよね。
でも、納得してない様子だけど。
「そういえば、リンちゃんメガネどうしたの?してないじゃん。もうコンタクト?バイトじゃないのに?」
隼人が不思議そうに、リンの顔を覗き込んだ
「メガネ壊れちゃったんだ~。コンタクトは、してないよ」
ばつが悪そうに、アハハ~と笑うリン。
さっきの女達にやられたんだろうな。
「じゃぁ見えないじゃん!!」
伊吹がびっくりしている。
そりゃそうだな。
「大丈夫。私、目いいよ!!」
…は?
「「「「「はぁぁぁ~?」」」」」
一斉に俺達は驚いた。