悠斗SIDE
~悠斗 Side~
俺が、凛を初めて見たのは、北校舎の屋上だった。
ここ北校舎の屋上は言わば穴場スポットだ。
一人になりたい時に、よくここにくる。
いつもの様にハシゴを登って上のスペースに寝ころぶ。空が近いこの場所は、俺のお気に入りの場所だ。
ぼーっと空を眺めながら、クリームパンを頬張った。俺は、甘いものが大好きだ。
昔はここまで好きではなかったが、あの時がきっかけで俺は好きになった。
甘いものを食べると、昔の記憶を思い出すんだ
そう、あの子の笑顔をーー…
昔の思い出に浸っていると、ガチャリと屋上のドアが開く音がした。
……誰だ?
1人の時間を邪魔されたくはなかった。
俺以外の誰かがくるのは、初めての事。少し気になった俺は、起き上がり上から見下ろした。
視界に入ったのは、小柄な女の子。黒髪を2つに縛りメガネをかけている。
真面目そうな感じだ。
顔は……よく見えない。俺がジッと見入っていると…
「フフ良い場所みっけ!ここを私のオアシスに任命よ!」
……は?
俺は、自分の目を疑った。
だってその女の子は、変なポーズをとっているのだ。
一体あれは、何キャラだ?
本気でビビった。1人芝居だ…
ありえねぇ。
……変な女
思わず笑みがこぼれた。
するとこちらに向かって歩いてくる彼女。
(やべぇ…。笑ったのバレたか?)
俺は、身を潜めた。
彼女はそのままタンク下に座り、お弁当を食べ始めた。どうやらこちらには全く気付いている様子はない。
(まいっか。どうでも…)
また寝ころんだ俺は、ぼんやりと空を眺めながら、残りのパンを食べた。
しかし、彼女はから揚げちゃんがどうとかブツブツ言いだし、また彼女の存在が気になりだしてしまった俺。
しかも彼女は機嫌がいいのか、鼻歌まで歌いだした…。
やべっ。
この女、面白い…。
こんな変な女初めて見た。
普通、女っていうのは1人で食べるのを嫌がるんじゃないのか?なのに何でこんなに楽しんでる?
1人が好きなのか?
そんな事をぼんやりと考えてると、だんだんと彼女の声がしなくなった。
気になった俺は起き上がって彼女の方を覗いた
…は?
……寝てるぞ…
そこには、平気でコンクリートの上に寝そべる彼女の姿があったのだ。
何でかはしらないが、俺は気持ちよさそうに寝る彼女をしばらく見続けていた。
次の日
まさか今日もさすがにいないよな?
授業後、俺は早めに屋上に向かった。
まだ来ていないな…。
さすがに友達と食べるか…?
ってか、俺は何期待してんだよ…
俺はいつもの様に上で寝ころぶ。
今日の空は、薄く雲って青空は見えないが、雨の降る気配はない。
ぼーっと昼ごはんを食べていると扉が開いた。ガチャリと開く音になぜか、嬉しいと思ってしまう自分がいた事に戸惑った。
雨の日以外、彼女は毎日やってきてここで一人でお弁当を食べている。
そして鈍感なのか、あいかわらず上にいる俺には気づかない。
それでも、昼休みのこの時間が、俺は心地よかったのだ。
***
この日、隼人と隼人の従兄である崎川昴の店に行った。
オープンして約1年。
口コミが広がり今じゃ人気店だ。メイド服には興味はねぇが、ここのパンケーキには興味がある。
「あぁ いらっしゃい」
「ちわ~」
『…どうも』
軽く昴さんと挨拶し席につく。
そしてふと、周りを見渡した
……は?
俺は驚愕した。ある人物から目が離せない。
髪の色も違うし、メガネもしていないがあれは、あいつだ。屋上で、何回もメガネをとってる姿を見ている。ただし、寝顔だかな。
絶対にそうだ…と思う。
でも、雰囲気が学校と全然違う。
…違うか?
以前何回か、学校内で見かけた時のあいつは常に無表情だった。何事も冷め切ったあの目
あいつの笑顔が、昔のある人物と重なる…
……似てる?
んな、まさかな…。
頭から離れない。
「ゆうと?」
ずっと目で追っていたのを隼人に気付かれたらしい。俺は、彼女から隼人に視線を移した
「あの子気になるんだ?」
『…そんなんじゃねぇ。』
気になるのは確かだ。でも、ほっといてくれ
「で?」
『…あ?…あぁ……』
しかし俺がいくら否定したとしても、納得はしないだろう。隼人は、ちょっとした人の表情でも読み取るのがうまいんだ。
俺は、屋上の変な女について簡単に話した。
「そういうこと。昴んとこ行って聞いてくんよ。」
そう言って、隼人は席を離れて昴さんの方に歩いて行った。
その間にパンケーキが運ばれてきた。しかも彼女によって…
「…あの…何か?」
『いや。…何でもない。』
オロオロしている彼女が話しかけてきたおかげで、ハッとした。
どうやら、じーっと見入ってしまったらしい
名札には凛音とかかれている。
やっぱりあの子じゃない。
違かった事実に、溜息がこぼれた。
彼女が去った後、パンケーキを口に運んだ。
『……。』
…うまい。人気店だけあるな。
ページ5 パンケーキを食べ終わったころ、隼人が帰ってきた。
ニヤニヤ笑っている。
何だよ?
会計を済まし、昴さんに挨拶をしに行った。
「また来いよな?」
『はい』
「じゃぁね。すばる~。」
店を後にし、会話を始める。
『分かったのか?』
「あぁ。あの子、花菜月 凛ちゃんっていうらしい。桜譁はバイト禁止だからね~。わけありかね?」
『…そうかもな。』
凛音は、偽名だった。
リン…
あの子と同じ名前。
後日、彼女が特待生だと知った。
* * *
生徒会室にて
「なぁ。悠斗。お前決めたのか?」と蓮が質問を投げかけてきた。
『何がだ?』
「何って庶務だよ!庶務。」
『あぁ。』
「誰だよ?」
『花菜月 凛』
「誰だよそいつ?」
『1年の特待生』
「変なのじゃねぇよな?」
『変わった子』
俺がそう言えば、一瞬キョトンとしたが「変じゃねぇか~」と可笑しそうに、蓮はケラケラ笑っていた。
『俺は絶対あの子が良い』
もしかしたらあの子かもしれないんだ。
まだ確証はないが…。
「へ~」
俺がそう言えば、ニヤリと笑った隼人も加わった。
『ただ、引き受けなさそうな気がする。』
あいつ、他人とあまり関わりたくなさそうだもんな。特に学校では。
「そういうと思って、もう手は打ってある」
ニヤリと口角をあげた隼人の手には、3枚の写真があった。
制服姿の彼女が、バイト先の裏口から出入りする写真と、バイト姿の写真。
その写真をマジマジ見て「おもしれ~」と呟く蓮
それらを持って、屋上に向かったのだった。
〜悠斗 SIDE END 〜