出会い
入学して1か月すぎ。
気づけば5月中旬になっていた。バイトも学校の生活にも慣れた。
これといって何事もなく平穏に過ぎていく。
お昼休み。
いつもの様にお弁当を持って屋上に行く。
この屋上に通い続けているが、誰かがこの屋上にくるなんて事は1度もなかった。
いつもの様にお弁当を食べ、仰向けで大の字になって寝ころんだ。
まぁ、足はそんなに開いてないけど…
気持ちいい〜♪
食後にゴロゴロ寝転ぶのって、本当に最高だと思う。日陰になっているので、日焼けする心配もない
そのまま意識を手放した…
あれ…誰かの声がする?
ヒソヒソ話。
しかも一人じゃない。2人?いや3人?
会話はよく分からないが声がする。
でもまだ眠い。
頭が働かない。
「おい」
誰かを呼んでる?
「お前」
また別の声がする。
ってかうるさい。人の睡眠を邪魔しないで欲しい。
私じゃないよね?友達なんていないし…。
それよりも眠いんだけど。
「そこの女!!」
……え…女って…あたし…?
怒りと苛立ちを含んだ声に恐怖を感じ、目が覚めた。はい、覚めましたとも。
恐る恐る目を開けると…
誰…この人?
知らないんだけど。
なぜか私の目の前に、ヤンキー座りをする目つきの悪い金髪くんがいるんだ。
不機嫌な様子で、私を睨んでいるように見えるのは気のせいだろうか?
顔が整っているが、なんだか怖そうだ。
そして金髪くんの後ろには、赤髪くんと黒髪くんがいる。この2人もまたイケメンで…
でも私には、こんなイケメンの知り合いはいないし。
本当、この人達は誰なんだろうか?
そんな事をぼんやりと考えていると、赤髪くんが口を開いた。
「いや~女の子が、まさかこんなところで大の字で寝てるなんて…ねぇ…。」
赤髪くんが、クックッと喉を鳴らして笑っている。
『……。』
……え?
あ!?
私は、自分がありえない態勢で寝ている事を思い出した。
『いやぁぁぁぁ~』
「……っ!?」
『……っ!?』
……い、痛い
慌ててがばりと起き上がった私の頭が、なんと金髪くんの顎に、見事にクリーンヒットしてしまったんだ。
金髪くんは、顎を押さえ悶絶中…
『…だ、大丈「痛ぇじゃねぇか!?」
大丈夫ですか?と言葉を続ける前に、目じりを吊り上げた金髪くんに、睨まれた。
『ごめんなさ~い~!!』
マジで怖い…
睨まないで…こっちも痛かったのよ〜!
「まぁまぁ」
金髪くんをなだめるのは赤髪くん。
そう言いながらヘラヘラと笑ってるし。
助ける気あんのか? 赤髪くん。
思わず正座をしてしまっている私。
何か用なのだろうか?
それとも知らない間に、何かやらかしてしまったんだろうか?
私は、自分のギュッと握った拳を見つめながら考えていた。しかも何か、怖くて顔があげられない。
とりあえず聞いてみよう。
『あの~何か用でしょうか?』
視線を恐る恐るあげ尋ねた。しかし、
「…あ゛?」
と、金髪くんが眉を寄せ低い声で言う。
ヒ~ッ!!
怖いんですけど!?
そんな睨まなくても…
「お前」
そんな時、黒髪くんに呼ばれたので彼に視線を向けた。
背も高く、切れ長の瞳、スッと通った鼻筋、形の良い唇……イケメン部類でも、綺麗系の男の人だ。
でも…この人どこかで見たことあるような。
どこだろう…
記憶の糸をたぐりよせてみる
あ!
バイト先に食べに来てた気がする…多分…
「……。」
『……。』
お~い黒髪くん?
それにしてもなぜ次喋らない?しかも、なぜそんなに私を見つめる?
にらめっこか?どちらか笑うまで勝負か?
それか、先に目をそらした方が負けか?
よし。その勝負受けてたつわ
私も負けまいと、黒髪くんを見つめ返した。
でも、なんだろう…
この瞳を見ていると、不思議な感覚に陥ってくる。
この綺麗な瞳…どこかで…
「…お前は、俺のだ。」
……は?
私が綺麗な瞳に見入っていると、黒髪くんがこんな事を言ったんだ。
私は、自分の耳を疑った。
「………俺のだ」
『……っ』
し、しかも、もう1度言った!?
ポカン。
開いた口が塞がらないとはまさしくこの事だろう。
私が面食らってぽかんとしていると、赤髪くんがクスリと笑い口を開いた。
「ゆうと~それじゃぁ凛ちゃんに伝わらないよ~」
赤髪くんって、なんだか口調がかるい感じがする。もしかしてチャラ男なのだろうか?
赤髪くんは少し短めの髪をワックスで自然に流してあり、顔立ちも整っている。だまっていればさわやか系のイケメンなのに…
なんだかもったいない。
しかもこの人、笑い方が胡散臭い。
本気で、笑ってるのか?
どうも作った感じがして嫌だ…
その横で大爆笑している金髪くん。
「…そうなのか?」
赤髪くんに、視線を向け不思議そうな顔で答える黒髪くん。
はい。
普通に意味分かりませんけどーー…
……あ、もしかして黒髪くんて、天然!?
うん。
きっとそうに、違いない。
そんな失礼な事を思っていると、私に視線を戻した黒髪くんが口を開いた
「お前は特待生の花菜月 凛だな?」
『はい…。そうですけど』
黒髪くんは、真剣な顔つきで見つめてくる。何が言いたいんだろうか?
私が首を傾げているとーー…
「花菜月 凛。お前は、俺が決めた女だ。俺のところへ来い」
『…へ??』
あまりの衝撃の言葉に変な声がでてしまった。今まで、そういうセリフ言われた事なかったから、不覚にもドキンと心臓が高鳴ってしまった。
しかし、
その後ろで、赤髪くんと金髪くんは、ヒーもう無理~と言いながら地面を揺るがすほどの大爆笑をぶちまけていた。
『……。』
なんだ。からかわれたのか。
バカにして~!!
無駄にドキドキしちゃったじゃないか。
ひとり無音の溜息を吐いた。
こんなイケメンくんが私なんか相手するわけないよね!!
本当馬鹿にするのもいい加減にしてほしい。
イライラした私はキッと黒髪くんを睨んだ。
私に睨みつけられた黒髪くんは、何で私が怒っているのか理解不能な様で、キョトンとしている
そんな時、やっと笑いが落ちついてきた赤髪くんが口を開いた。
「ゆうと~もう俺から説明するけど良い~?」
「あぁ」
黒髪くんは気分を悪くしたように、眉間に皺を浮かべている。
「この前、生徒会役員を決める人気投票あったよね?」
『そんなのあったんですか?』
赤髪くんが、さも知ってて当たり前みたいな口調で話しかけてきたが、当然知らない私は平然と答えた。
すると赤髪くんは、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしたのだ。
「……。」
『……?』
赤髪くんはポカンとしたまま固まっている。
黒髪くんに視線を移せば、黒髪くんもまた、きょとんとした顔をしていた。
何その、反応…
知らないもんは、知らないんだけど
チッと舌打ちしたのは、金髪くん。
不機嫌オーラが漂っている
何だかこの雰囲気イヤだ…
何、この微妙な雰囲気は?
これじゃぁ、私KYみたいじゃん。
誰も口を開いてくれなかったので、意を決して私から話しかける事にした。
『……あの~?』
すると、ハッとした赤髪くんが苦笑しながら
「あんなに騒がれていたのに知らなかったんだ?友達とかとそういう話しなかったの?」と言った
『あ~いや私、友達いないので』
「……。」
私がそう言うと、赤髪くんは再び固まった。その憐れみの目で見つめるのは、やめておくれ
「じゃ~さ~俺と友達になろ~!!俺は隼人。黒崎隼人~隼人って呼んで!!凛ちゃんの友達一号ね~」
私の両手を握り、ヘラヘラしながら赤髪くんがいう。 赤髪くんは隼人というらしい。
「ねっ?」と隼人は、コテンと首をかしげている。
何で、いきなり私なんかと友達になりたいなんて言うの?しかも今初めて会った人だよ?
やっぱりこの人、胡散臭い。 そんな偽の友達、私はいらない…。
ぐっと拳に力が入った
『……あ、いや「ごちゃくちゃうっせんだよ!!話それてるじゃねぇか!!早くしろよ!!」
お断りします。と言おうとしたところ、金髪くんの怒鳴り声に遮られた。
金髪くん短気だね。
もはやキレキャラだね。
「ごめんごめん。じゃ単刀直入にいうよ~」
『…はい』
隼人の言葉に、コクンと頷き返事した。
すると、隼人はニヤリと笑って口を開いた
「花菜月 凛ちゃん。あなたは生徒会役員に選ばれました~!!」
『…。』
は?
『……はぁ~~?』
意味わからない。
ってかこれはドッキリか?
いつも目立たない私をおちょくって、あとでみんなで笑うのか?
「おめでとう。同じ生徒会役員同士頑張ろうね。ちなみに俺は副会長。ちなみに2年だ」
金髪くんを指さして 「あっちの金髪が、書記の一之瀬 蓮2年生。」
黒髪くんを指さして 「そして最後にあいつは生徒会長の神崎 悠斗。あいつも2年だ。」
「覚えた?」
隼人の説明に私は、コクリと頷いた。
何と、3人のイケメンさん達は、生徒会の方々だったのだ。本当、驚きだ。
あ!?
リン。流れに飲まれれちゃダメよ!?
私は忙しいんだ。バイトもあるし。生徒会なんてやっている場合ではない。
それに、人とあまり関わりたくない。
『生徒会なんて私には無理です!!ごめんなさい!!』
確かに私は、はっきりと断った。
だがしかし、私を見つめる隼人の目の色は勝利の色そのもの。
もしかして、何か企んでる…?
私がビクビクしていると、ニヤリと口角をあげた隼人が口を開いた。
「そんな事いっていいのかな?断る事はできないと思うよ。リンちゃんは、キャンディカフェって知っている?もちろん知ってるよね?」
『……っ!?』
なぜその名を今ここで?
バレたのか?
変装はバッチリだったはず。
いや人気店だし。ここで慌ててはいけない。
『その、キャンディカフェがどうしたのでしょうか?』
平静を装って尋ねる。
うん。
絶対大丈夫………だと思ったのに、
「そこのバイトの凛音ちゃんって凛ちゃんでしょ~?」
『……』
チーン。終わった。
凛音はバイト先での名前だ。
店長にお願いして偽名を通している。
「証拠は、あがってるんだ!!」
金髪くんが、にやりと口角をあげたまま正座した私の前に、その写真を落とす。金髪くんは、どこか楽しげだ。
『あっ…』
その写真は、私が接客中の写真と、制服姿の私が店の裏口に入っていく姿の写真。なぜこんな写真が…?
警察に事情聴取されている気分だ。
終わった。
私の高校生活終わった…
こんな事バレたら、特待生の権限である授業料免除がなくなってしまう。貧乏だから当然、私立の高い授業料なんて払えない。
そしたらやめなくちゃいけないよね…
はぁ。
転校ってどうしたら良いんだろう。
また新しい制服買うのか?そしたらかなりの出費だ。
下を向きながら、顎に手をあててそんなことをブツブツ言ってると、
「だから、言ったでしょ?」
いつの間にかしゃがみこんで、私の目の前にい
た隼人。目線が同じで、視線が絡みあった。
『……。』
ちっちかい〜!?顔近いんだけど!!
ってか、何が言いたいんだ?
すると、隼人は私の顎をクイッとあげ、フェロモンたっぷりの表情で見つめ
「もう逃げられないんだよ」と言った
そんな近くでフェロモン放出しないでよ!!
このフェロモン男め!!
はぁ~
逃げられないか…。
どうするか。
すると「隼人」と低い声で黒髪さんが呼んだ。
チロリと視界にはいった黒髪さんは、眉間にシワを寄せ黒いオーラを放っていた。
断ったから怒っているのだろうか?
「あ~悪ぃ。」
フッと笑った隼人は顎から手をどけ、離れてくれた。
『あの~?選ばれたとは一体どういう事か教えて下さい。』
どうやって生徒会役員を決めるのかも私にはさっぱり分からない。
隼人は説明してくれた。
生徒会役員といのは、重要職務の5人は、学校内の人気投票で決める。
みんなの支持は大切だからと…。
つまりベスト5が生徒会役員になるという事。残りの庶務1人は生徒会長の権限で決められるらしい。
ちなみに、4月末に人気投票を行い、任期は6月から来年の6月までという事。
うん?
会長と知り合いでもないぞ?
しかもなぜこんな目立たない私なのか?
『なぜ、私なのですか?』
私よりもっと、社交的な方がいると思うのだけど…。しかも、よりによって私だよ?
「それは、生徒会長の悠斗に聞いてくれ。決めたのは悠斗だ。」
隼人は、ニタニタしながら神崎先輩に視線を向けたので、私も神崎先輩に視線を移した。私がジッと見つめれば、神崎先輩は私を見つめ返して来た。
絡み合う視線。
神崎先輩の真剣な眼差しに、どきり、と心臓の鼓動が大きくなる。
しばしの沈黙後、神崎先輩は口を開いた。
「…気になったからだ。」
『……っ!?』
それって、どういう意味!?
そう言いたい言葉を飲み込んで、神崎先輩を凝視した。
相変わらず、真剣な表情の神崎先輩。
どうやら、からかってはいなそうだ。
まぁ、特に深い意味はないのだろう。
なんせ、天然男だから…。
さっきの俺のだ宣言の事もあったし、真剣にとらえちゃだめだね。
「イヤか?」
こちらをジッと見つめてくる彼。
吸い込まれそうな、この漆黒の綺麗な瞳を見ていると、やっぱり不思議な感覚に陥るわけで。
…なんだろう。
懐かしいような、胸が温かくなるようなこの感覚は…
でも、私なんかで本当にいいのだろうか?
まぁ断ったところでバイトの事はバレてるんだし、今さら転校なんてそれも厄介だ。
生徒会を引き受ければ、バイトの事はだまっててくれるという事だよね?
よしっ。決めた!?
『私、やりますね。生徒会』
不安が隠しきれないが、引き受けるしかないんだ。
「そろそろ飯行こうぜ~腹減った。」
話が終わった直後、一之瀬先輩はダルそうに屋上の扉に向かって歩き出した。
そうか、お腹が空いていたから、イライラしてたんだ…
一之瀬先輩は、案外可愛いかもしれない。
「あぁ」
一ノ瀬先輩の背中を見つめていれば、私の右斜め前にいた神崎先輩が「リン」と呼んだので、視線を移した。
「放課後、生徒会室に来いよ」
私がコクリと頷けば、神崎先輩は満足そうに、フッと笑って、一之瀬先輩の後をついて行った
今、笑ったよね?一瞬だけど…。
なんか、会った時からずっと無愛想だった彼
しかもたまに、イライラしてたし。
今、笑ったのは意外だった。
「そういや~まだだったねー」
ヘラヘラしながら後につづく隼人。
バタンと屋上の扉が閉まり、やっと1人の空間に安堵した。
はぁ。疲れた。
久しぶりに、学校で会話したかも…。
引き受けたけど、私なんかが上手くやっていけるのかな…?
それに、あの隼人。
ヘラヘラしてるけど、あの作った笑顔…はっきりいって苦手だ。ヤンキーちっくな一之瀬先輩より、ある意味恐い。
はぁ。
壁にもたれかかったまま、空を見上げた。