偽りの姿
学校での姿は、偽りの姿。
「友達なんていらない。」
ほっといてよ 一人が好きなの!!
学校では地味なメガネ女子が出会ったのは
イケメン5人がいる生徒会
「俺が決めた女だ」
「俺が守る」
「大切な仲間だ」
「俺といい事しよ?」
「こいつは俺の女だ。」
それと、再会した 昔好きだった
幼馴染の彼
「俺は諦められね~」
「覚悟しとけよ?」
彼女が失っている過去とは?
今、始まる…
「リンちゃんおつかれさま~」
笑顔で話しかけてきたのは、バイト先の店長
崎川昴さんだ。
短めの明るいブラウン系のヘアーの店長は、おしゃれメガネをかけたイケメンさん。
見た目年齢は20代前半に見えるが、実際は分からない。年齢不詳だ。
『お疲れ様でした。お先に失礼します』
ぺこりとお辞儀し、更衣室に向かう。
軽くウェーブがかかったミルクティブラウンの長めのフルウィッグを外し、黒髪をいつものようにふたつにしばる。
仕上げに眼鏡をかければ、普段の姿の完成だ
ここ「キャンディカフェ」でバイトをするのは、私立桜譁高校に通う高校1年生の花菜月 凛15歳だ。
キャンディカフェはちょっと変わっていて、女の子はメイド服、男の子は執事服である。
しかし「おかえりなさいませご主人様…」
などというセリフは、もちろんない。
接客はごく普通のカフェなのだが、半年に一度お客様による人気投票みたいなものがある。その人気投票で上位に選ばれると、ボーナスが貰えるという仕組みだ。
お客様も、女性だけではなく男性も多い。
スタッフも皆接客には丁寧だし、何よりも料理がおいしいからだ。
リピーターが増えに増え、かなりの人気カフェだ。
しかも、時給がかなり良い。
お金がたくさん必要な私にとって、本当にありがたい働き場所だ。
店の裏口のドアを少し開け、誰もいないかそっと覗き、確認できたら素早く出て自転車に乗る
なんとまぁ、はたからみたら、あやしい行動ですね。
本当。
なんでこんなにビクビクしなきゃいけないって?
そりゃぁ…
私の通う桜譁高校はバイト禁止だからだ。
校則を破ったことがバレたら…と思うと怖い
普通の生徒だったら校則ぐらい~と思うだろうが、私には重要だ。
特待生の私にとっては。
***
「ただいま』
バイト先から自転車で10分のところに我が家がある。
「お姉ちゃんおかえり~」
そう答えたのは、小学4年生弟の凛久だ。
「おかえり」
ニッコリ笑うのは、母、麻理。
『パパ…ただいま』
仏壇の前に座り、手を合わせながらボソリと言う。
8年前、天国に行ってしまったパパ。交通事故だったらしい。
らしいというのは、私は知らないからで…
……というよりその頃の記憶がない。
すっぽりと記憶が抜け落ちていて、気付けば病院のベットの上だったんだ。
最後の記憶は、確か夏休みに入ったばかり(そのあたりもうろ覚え)だったのだが、目を覚ました時には季節は変わり、なんと秋になっていて…
軽くタイムスリップした感じで、自分でも不思議な感覚だった。
記憶のない私には、パパが亡くなったなんて信じられなくて、その当時たくさん泣いた。
なんせ、パパのお葬式にでた記憶もない。薄情な娘なんだ。
"どうして私は病院に寝てたの?"
"どうして私は記憶がないの?"
小さい頃、1度だけお母さんに聞いた事がある。でも、その直後「リン…ごめんね…」と涙を流した母の姿を見てからは、聞けなくなってしまったんだ。
いつも笑顔の母でいてもらいたい…そう思ってたから。
それまでずっと、専業主婦だった母は、慣れないパートを始めた。
昼は、スーパーで働き、夜は居酒屋で。
それまで家の手伝いなんてした事があまりなかったが、少しでも母の負担を減らしたく、家事など頑張った。
お金がないので高校も諦めようと思ったが、
母に猛反対され、先生が勧めてくれた授業料免除の桜譁高校を受けた。
一生懸命勉強し、はれて授業料免除の桜譁高校の特待生になれたんだ。
「じゃぁ、行ってくるわね」
女手一つでここまで育ててくれた母には感謝している。
2人の子供を子育てしながら、お金を稼ぐ事がどんなに大変かという事は、自分なりに理解しているつもりだ。
だから私は、高校生になったら働いて少しでも生活費を稼ぎたかった。
少しでも、母の力になりたい。
母を楽にしてあげたい。
そう思ったんだ。
『行ってらっしゃい。あまり無理しないでね!!』
「ありがとう」
柔らかく微笑んだ母は、仕事に向かった。
* * *
ピーピッピー
カーテンからこぼれる陽の光に目が覚める。目覚まし時計を見ると6時。
ヤバッ、ちょっと寝坊した。
急いで起きてお弁当と朝食を作り始める
遅くまで働いている母の為に、朝は私が料理をするようにしている。と言っても簡単なものだけどね。
お弁当も、もちろん自分で作る。
ついでに母の分も。時間がないから昨日の残りのから揚げも入れちゃうけどね。
アハハ~。
6時30分に、急いでリクを起こす。
『リク、おはよう。起きて?』
「……お…は…よう…」
リクは朝が苦手だ。
毎朝の事だが、ボーッとしている。
『リク、遅れちゃうよ?』
「…………う……ん………」
とにかく動きが鈍いんだ。
「…いた……だきま…す」
『リク、箸がバラバラだよ?』
「…あ………まいっか…」
リクは、本当マイペースだなぁ。
ま、それでも弟が可愛くて仕方が無い。
「リン、リク、おはよう。」
『おはよう。お弁当ここに置いておくね?』
「リン。いつもありがとうね」
起きてきた母に私がそう言うと、母は申し訳なさそうに笑みをこぼした。
『いいって~昨日も遅かったんでしょ?もうちょっと寝てればいいのに…。』
すぐに無理をする母。
そんな母を、私はほっとけない。
『それに、家事は結構好きだよ』
それは本当だ。
特に料理は、好き。
おいしいって言われると、嬉しくなちゃうんだ。
「「行ってきま~す」」
「行ってらっしゃい。気を付けてね」
母に見送られ、リクと一緒に玄関をでる。
『リク、車に気をつけるんだよ?』
車というのは危険だ。
居眠り運転、余所見運転、飲酒運転、暴走車…
ニュースでよく、色んな事故を耳にする。
いつどこでそういう車と出くわすなんて分からないんだ。
だから、リクにはいつもこう言っている。
"少しでもおかしな車がいたら、その車から離れる事。"
"車が止まってくれると思い込まない事"
"たとえ信号が青でも、横断歩道を渡る時は確認する事"
心配性だって分かっている。
でも、これ以上大切な家族を失いたくないんだ
「うん。お姉ちゃんこそ、自転車気をつけてね?」
『ありがとう』
私は自転車で、リクは歩いて、家から別々の方向へ向かう。
小学校は割と近いが、桜譁高校は自転車で20分ほどの距離。
電車で通うのはお金がかかるので、自転車で通っている。
***
始まる5分前に教室に入る。
今日も絶妙なタイミングだ。
あんまり早くても、特に話す相手もいないからつまらないしね。
誰とも挨拶をかわす事なく、窓際の一番後ろの席に座る。
席は、クジで決めた。
クジ運がいい私は、一番いい席だ。
ちなみに2~3か月に1回クジびきで席が変わるらしい
先生が来るまで、ぼんやりと窓の外を見ていた。窓からは中庭が見え、桜の花びらが春風に乱れるように美しく舞っている。
…綺麗
ここで少し学校について説明しよう。
各学年、A組からF組まである。
ちなみに、私はA組だ。
体操服やシューズは学年ごとに色が違う。
1年は赤、2年は黄色、3年は青の信号カラーだ
建物は南校舎と、北校舎がある。
各学年の教室があるのは南校舎。
1年は1階、2年は2階、3年は3階にそれぞれクラスがある。
反対に視聴覚室や理科室などがあるのは、北校舎。
渡り廊下で繋がっているが、授業や用事がないかぎり北校舎には行かない。
クラスの担任がやってきた。
伊藤先生。
少し小柄の先生で、40代の男性教諭。
基本ニコニコ顔だが、怒ると意外と怖い
さっそくHRが始まった
「入学して1週間たったがもう慣れたか~?
ここで生徒会役員を決める投票について話をするーー…」
私は、先生に視線を向けたまま、
"今日の夕飯は何にしようかな…?"
などと、ぼんやりと考えていた。
まぁ視線はちゃんと先生に向けているので、聞いていますアピールはできている。
先生も、まさか私が実は何も聞いていないなんて思わないだろう。
今日はバイトが休みだから、夕飯は私が作るんだ。
昨日は、お母さんがオムライスを作ってくれたから、今日は………う〜ん。
あ、忘れてた。
オムライスで思い出したけど、今日は、確か卵が安かったんだ。帰りにあそこのスーパーに行かないと。
4時だっけタイムサービスは。
早めに行って並ばなきゃな…
ちなみに毎朝、広告チェックをしている私。
自転車で通う家と学校の間に、スーパーが4店舗、ドラックストアが2店舗もある。
ドラックストアもお菓子が安いので、意外とあなどれない。
私の大好きなチョコも大抵ここで買っている
少しでも安く買いたいんだ。
たった1円。されど1円。
1円を笑うものは1円に泣くんだ。
すでに主婦の心得が身についている私。
いつでも結婚できそうだ。
……って、相手いないし。
まぁ、今のとこ恋愛なんて興味ないし、する気もない。恋愛には女のトラブルが付きものだしね。
彼氏いない歴=実年齢の私が言うのも変だけどさ。
もうこりごりだ。
今は、ただ平穏に学校生活を送りたいだけだ
それはもう、ひっそりと。
目立たないように。
空気みたいな存在でいい。
卒業アルバムを見て、こんなやついたっけ?
ぐらいの立ち位置でかまわないんだ。
「… … …以上だ。」
…あ…
すぐに自分の世界に入り込んでしまう私。
気付けば、先生の長話は終わっていて、結局何にも聞いてなかったんだ。
まいっか。
どうせ大したことないだろうし。
そう思う事にした。
午前の授業が終わり昼休み。
お弁当を持って北校舎の屋上へ向かう。
この屋上は私が学校で唯一心休まる場所だ。
私には、1人でくつろげる場所が必要だった
それは、初めての昼休み時の事。
一人でお弁当を食べようとすると、周りの女の子たちが、こちらを見ながらヒソヒソ話をしているのが目に入った
人を馬鹿にしたような薄笑いを浮かべているクラスメイト達。
どうせ、けなしているのだろう。
はぁ…
ひとり無音の溜息をついた。
友達とあまり深く関わりたくないのは事実。
中学の時は友達関係で散々な目にあった。いじめ、陰口、裏切りなど。
友情なんて、こんなもんだと思い知らされたんだ。もう、友達ごっこなんてまっぴらだ。
親友?友情?その言葉に吐き気がする。
気持ち悪い…
一見、仲よさそうにしてるけどさ、あなた達本当に仲良いの?
誰かしら我慢している子はいる。心の中では、お互いどう思ってるんだろうね?
一人なら気楽だよ?
嫌われないようにビクビクしなくていいし。
人にどう思われようが私は何も感じないが、ジロジロ見られるのは、いささか不快なわけで…
大好きなご飯くらい、くつろいで食べたいと思った私は、別の場所で食べようと心に決めたんだ。
で、見つけたのは北校舎の屋上。
クラスがある校舎からは離れているので、わざわざこんな所にくる人もいない。
ガチャリと屋上のドアを開けた。
気持ちのいい四月の風が首筋を撫でる
『ふふ。良い場所みっけ!!』
誰もいないから本当落ち着く。
穴場スポットだね♪
右人差し指で床を指し、左手は腰に当てた。
『ここを私のオアシスに任命よ!!』
嬉しさのあまり、変なキャラ演じてしまう。
しかも声がでかかったので、屋上に自分の声が響き渡った。
……やば
だ、大丈夫だよね?誰もいないよね?
キョロキョロと見渡し、誰もいないことを確認する。
ふー。やれやれ。
誰かにこんな姿見られたら、もう恥ずかしくて明日から学校来られないよ。
ってか、あの場所いいじゃん。
ちょうど日陰になっているタンク前。
私はさっそくそこに座り、お弁当を広げた。
『いただきまーす』
さぁ、リンちゃんお手製お昼ご飯を食べるとしよう。やっぱり、から揚げちゃん最高だね
フフン♪
あっという間に食べ終えた私。
でもまだ昼休み時間は充分あるので、携帯のアラームをセットし、メガネは邪魔だから胸ポケットにしまって、寝る準備をした。
最初、壁にもたれ掛って寝ようとしたが、首が痛いので迷わず寝ころんだ。コンクリートがひんやりとして気持ちが良い。
柔らかい春の風が頬をなで、あまりの心地よさに、すぐに睡魔がやってきた。
意識が遠のく前に、誰かが小さくククッと笑った様な気がしたが、半分寝ていた私は特に気にすることもなく眠りにおちていった。
***
「ピーピーピー」
携帯のアラームが鳴る。
少しボーッとしながらアラームを止めた。
午後の授業まであと10分。
「よしっ」
気合を入れ立ち、屋上を後にした。
…あれ?
教室に向かう途中、何か忘れている気がして歩みを止めた。
えー…っと…
あ!
メガネ!メガネ!
慌ててメガネを装着。
メガネは実はダテメガネである。変装する為の必須アイテムだ。
いまだメガネの存在になれない私。
うっかりである。
***
午後の授業を終え、自転車に乗りスーパーへ行く。タイムサービスの卵もゲットできて気分がいい。
今日はバイトが休みだ。
バイトは、週4日程やっている。もっと稼ぎたいが、特待生の私には勉強も妥協できない
帰って夕飯を作った後、予習、復習をし、だいたい寝るのは23時頃。
そして朝は5時30分に起きる。