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俺の特別じゃない恋人さん

作者: 薫納豆
掲載日:2026/03/07

特別じゃない恋人。

だって、俺にはアレがないから。


放課後になったら、すぐに賑やかになった。


俺は、あの子に顔を向ける。

いつも通り、目が隠れそうなくらいに髪が長いあの子は、本を読んでいる。


じっと見てもドキドキはしてこない。

まあ、これもいつも通り。


俺は移動し、空いた席に座る。

この子の隣。


そして、俺はため息を吐く。

若干、苛々してくる。


いつになったら皆はいなくなってくれるのだろう。

この、特別じゃない恋人さんは、誰かがいると口を開くことすらできないというのに。


まあ、俺は、のぞきこんだりするんだけど。


入学式が終わって数日後、それが今。

部活何するかとかさ、そういうのは、どうでもいいから。


早く皆いなくなっちゃえ。




「…何?」

何ときた。

しかも、相変わらずこっちを見ない。見てくれないんだ、この子は。本から目をそらさないで。

でも、俺には話しかけてくれるんだ。

「うん。また、書いてきたよ」

ありがたいな。

「そう、作家になりたいから」

可愛らしい夢。

作家になる。漫画家じゃなく、小説家か、ライトノベル作家に。

「本は、好き」

俺は?

「…早く読んで。君からの感想がほしいから」

俺の目を見てほしいな。

あらら、顔を後ろに向けちゃった。誰もいない後ろに。


…。


「文章力があることは、分かってるから。しっかり」

まあ、これは、数日前から、そうだよな。

出会った頃から。文章力だけには、自信がある。

「え…。

そういうセリフの方がいいの?」

俺は笑顔でうなずく。

そして、俺は特別じゃない恋人の、良かった点と、悪かった点の全てを言う。


嘘は、吐きたくないから。

ありのままの俺を見てほしいから、皆に。


しっかし。

コクコクうなずきながら聞いてくれたり、本当に、この子は可愛いな。

恋は、あり得ないけど。残念ながら。

向こうの気持ちは知らないけど、どうなんだろう。告白されても困るんだが。俺だから。

「別に」

あらら、からかい失敗。


と、そこに雑音が現れる。




「何すか、俺は何も入らないすよ、部活なんか」

と、俺は言う。

実に迷惑そうに。

だって、雑音だから。雑音でしかないから。

先生だったら、もう少し丁寧に言うけど、この人たちは、ただ産まれた順番が数個上でしかない奴らだから。

「だから、何回も言ってるじゃないっすか。俺は部活には入らない、特に文芸部には」

文芸部は何があっても入らない。


あの特別じゃない恋人も、部活に誘われないし、だから、本当に何の縁もできない。

関係を持ちたくない、作家に遊びでなりたい奴らなんかとは。


『お前、元人気作家らしいじゃないか』

『しかも、有名な会社の小説家だったんだって?』


…。

雑音でしかないくせに、ニヤニヤしやがって。


確かに、俺は、中学生だった頃、小説家だった。

ただの小説家じゃなく、人気小説家。


けど、あんな人たちのせいで、俺は嘘を吐くのが大嫌いになったし、結局作家生活を諦めた。


また、戻れと?

あんな、くっそ汚い世界に?


遊びで作家になりたい奴らに、最も言われたくないことを言われたから、


「んなことは本当にどうでもいいんで、もう恋人の所に戻っていいですか? 俺の愛している子を1人で待たせるとか、部長たちもゴミですね」

笑顔で俺は言ってやった。


本当は、産まれてから1回も、人を愛せたことはないのに。好きにはなっても、恋愛感情は持てたことないのに。


盛大の嘘。

あの特別じゃない恋人との関係を失うのは何をされても嫌だから。




「終わった?」

心配してくれてもいいのに。

「手本になる本、教えて」

手本になる本か。

「…笑ってる」

いや、ほんと。

「笑い声出した」


手本になる本。

あいつらが絶対に言わないセリフだ。

素晴らしい、なんて可愛らしくて真面目な子なんだろう。


「またそれ。

本当に私のことが好きなの?」

相変わらず俺を見て話してくれない。


本当に好きだ。

好きだから、言う。

からかいもあるけど。


特別じゃない恋人。

恋愛感情のない恋人は、特別じゃないよな。

好きなのになぁ。


ありがとうございました!

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