俺の特別じゃない恋人さん
特別じゃない恋人。
だって、俺にはアレがないから。
放課後になったら、すぐに賑やかになった。
俺は、あの子に顔を向ける。
いつも通り、目が隠れそうなくらいに髪が長いあの子は、本を読んでいる。
じっと見てもドキドキはしてこない。
まあ、これもいつも通り。
俺は移動し、空いた席に座る。
この子の隣。
そして、俺はため息を吐く。
若干、苛々してくる。
いつになったら皆はいなくなってくれるのだろう。
この、特別じゃない恋人さんは、誰かがいると口を開くことすらできないというのに。
まあ、俺は、のぞきこんだりするんだけど。
入学式が終わって数日後、それが今。
部活何するかとかさ、そういうのは、どうでもいいから。
早く皆いなくなっちゃえ。
「…何?」
何ときた。
しかも、相変わらずこっちを見ない。見てくれないんだ、この子は。本から目をそらさないで。
でも、俺には話しかけてくれるんだ。
「うん。また、書いてきたよ」
ありがたいな。
「そう、作家になりたいから」
可愛らしい夢。
作家になる。漫画家じゃなく、小説家か、ライトノベル作家に。
「本は、好き」
俺は?
「…早く読んで。君からの感想がほしいから」
俺の目を見てほしいな。
あらら、顔を後ろに向けちゃった。誰もいない後ろに。
…。
「文章力があることは、分かってるから。しっかり」
まあ、これは、数日前から、そうだよな。
出会った頃から。文章力だけには、自信がある。
「え…。
そういうセリフの方がいいの?」
俺は笑顔でうなずく。
そして、俺は特別じゃない恋人の、良かった点と、悪かった点の全てを言う。
嘘は、吐きたくないから。
ありのままの俺を見てほしいから、皆に。
しっかし。
コクコクうなずきながら聞いてくれたり、本当に、この子は可愛いな。
恋は、あり得ないけど。残念ながら。
向こうの気持ちは知らないけど、どうなんだろう。告白されても困るんだが。俺だから。
「別に」
あらら、からかい失敗。
と、そこに雑音が現れる。
「何すか、俺は何も入らないすよ、部活なんか」
と、俺は言う。
実に迷惑そうに。
だって、雑音だから。雑音でしかないから。
先生だったら、もう少し丁寧に言うけど、この人たちは、ただ産まれた順番が数個上でしかない奴らだから。
「だから、何回も言ってるじゃないっすか。俺は部活には入らない、特に文芸部には」
文芸部は何があっても入らない。
あの特別じゃない恋人も、部活に誘われないし、だから、本当に何の縁もできない。
関係を持ちたくない、作家に遊びでなりたい奴らなんかとは。
『お前、元人気作家らしいじゃないか』
『しかも、有名な会社の小説家だったんだって?』
…。
雑音でしかないくせに、ニヤニヤしやがって。
確かに、俺は、中学生だった頃、小説家だった。
ただの小説家じゃなく、人気小説家。
けど、あんな人たちのせいで、俺は嘘を吐くのが大嫌いになったし、結局作家生活を諦めた。
また、戻れと?
あんな、くっそ汚い世界に?
遊びで作家になりたい奴らに、最も言われたくないことを言われたから、
「んなことは本当にどうでもいいんで、もう恋人の所に戻っていいですか? 俺の愛している子を1人で待たせるとか、部長たちもゴミですね」
笑顔で俺は言ってやった。
本当は、産まれてから1回も、人を愛せたことはないのに。好きにはなっても、恋愛感情は持てたことないのに。
盛大の嘘。
あの特別じゃない恋人との関係を失うのは何をされても嫌だから。
「終わった?」
心配してくれてもいいのに。
「手本になる本、教えて」
手本になる本か。
「…笑ってる」
いや、ほんと。
「笑い声出した」
手本になる本。
あいつらが絶対に言わないセリフだ。
素晴らしい、なんて可愛らしくて真面目な子なんだろう。
「またそれ。
本当に私のことが好きなの?」
相変わらず俺を見て話してくれない。
本当に好きだ。
好きだから、言う。
からかいもあるけど。
特別じゃない恋人。
恋愛感情のない恋人は、特別じゃないよな。
好きなのになぁ。
ありがとうございました!




