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古代遺物 サークルピラー

遺跡を離れ、俺たちはカヒムの街を目指して歩き始めた。


俺はこの先、ちょっと寄っておきたいところがあった。


ゲームなら訪れるべき必須の場所だ。




ゲーム通りだといいが‥‥




「ちょっと寄りたいところがあるんだけど、いいか?」




「こんな辺鄙なところに、まだ何か凄いお宝があるってのかい?」




ジーナの問いにこたえず、俺は丘の上を指さす。


そこにはストーンヘンジのような古びた石柱が見える。




しばらく歩き、俺たちはストーンヘンジのような石柱の輪の前に立っていた。




近づいた瞬間、鼻を突く。


食人族の集落に漂っていた生臭さとも、血の匂いとも違う。


喉の奥がひりつき、胸の奥がむかむかとする、形容しがたい臭気だった。




「……なんだい、ここは」


ジーナが足を止め、露骨に顔をしかめる。




「こんなとこ御免だね。見な、瘴気が溜まってるじゃないか」




彼女が指差した先――円の中央に立つ、一際大きな石柱。


地面から突き出すように立つ白い石柱は、黒く毒々しい瘴気をまとっていた。


表面には古代文字と幾何学模様が刻まれ、その瘴気の奥で、かすかに青白い靄が揺らいでいる。




視界の端が、わずかに歪む。


長く居れば、体に悪い。


そう直感できる場所だった。




――サークルピラー。




俺は、その名を口に出さず、中央の石柱を見つめた。




「あのピラーに触るだけだ」


そう言った瞬間、ジーナは即座に首を振った。




「冗談じゃない。こういうのはろくなもんじゃないんだよ。


 古代の遺物だよ? 禁忌の塊さ」




警戒心は当然だ。


ゲームで見たより、遥かに毒々しく、遥かに異質なものだ。




「登録しないと、使えない」


短く告げる。




「……どういうこと、ゼロ?」


ニアが、不安そうに俺を見る。


彼女も、この場所の異様さを感じ取っているらしい。




「転移装置だ。罪人の地を繋いでる」




それ以上は言わなかった。


細かく説明すれば、余計に怖がらせる。




俺は一歩前に出て、サークルピラーへと手を伸ばした。




石に触れた瞬間、ひやりとした感触が掌に走る。


同時に、体の奥をなぞられるような違和感。




次の瞬間、淡い光が走り、手の甲に紋様が浮かび上がった。


だが、それは一瞬で消え去る。




「……っ」




少し遅れて、ニアも意を決したように近づき、恐る恐る石柱に触れる。


彼女の手の甲にも、同じ紋様が浮かび、消えた。




「これで川のピラーの登録は完了だ」




「……なんで“川”なの?」


ニアが、自分の手の甲を見つめながら尋ねる。




「この地下に川が流れてる。


 さっきの洞窟を進めば分かる」




俺は視線をジーナに向け、顎でピラーを示した。




「次は、あんただ」




ジーナの表情が、はっきりと曇る。




「正気で言ってるのかい?」




彼女はしばらく無言でサークルピラーを睨みつけ、瘴気の向こうで揺れる青白い靄が妙に目に障る。


舌打ち。




「……理屈は分かったよ。でも、信用はできないね」




「危険はない」




「“危険はない”って言葉を信じて死んだ奴、何人も見てきたんでね」




低い声だった。


冗談でも、脅しでもない。




「俺たち二人は、無事だろ」


そう言うと、ジーナは俺とニアを交互に見た。


その視線には、値踏みと――ほんのわずかな迷いが混じっている。




数秒。


それは、彼女にしては長い沈黙だった。




やがて、深く息を吐く。




「……全く。どうしちゃったんだろうね、わたしは」




毒々しい瘴気の中へ、ゆっくりと歩み寄る。




「いつもは、自分しか信じないんだけどねぇ」




そう言って、サークルピラーに手を触れた。




一瞬、青い靄が揺らぎ赤に変わると、手の甲に淡い紋様が浮かび――すぐに消えた。




「……何も起きないじゃないか?」




「登録完了だ。


 別のピラーに触れば、ここに戻って来られる」




ジーナは手を離し、肩をすくめた。




「そりゃ便利そうだけどさ……


 なんだか、いまいち信用できないねぇ」




石柱を一瞥し、踵を返す。




「体に残るわけでもないってのも、拍子抜けだね」




サークルピラーを背に、


俺たち三人はカヒムの街へ向かって歩き出した。




この古代遺物が、


後にどれほど重要な意味を持つことになるのかを――


ニアとジーナは、まだ知らなかった。


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