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知識無双

ジーナは一通り品を集め終わると、まとめていた髪をほどき、ふっと思い出したように言った。


「そうだ。私がこの集落に来た理由、まだ言ってなかったね。知りたいかい?」


「レアアイテム、『発光棒』のレシピだろ?」


俺がそう口にした瞬間、空気が凍りついた。


ジーナの笑みが消え、視線がナイフのように鋭くなる。


彼女の右手が、無意識のように腰の短剣の柄に触れた。

「……なんでそれを?」


「邪魔はしない。俺たちも一緒に行かせてくれ」


「いや、そうじゃない」 


険しい表情。


値踏みするように、俺の顔をじっと見つめる。


「ここにあるって、どうして知ってるんだい? 出回るはずのない情報だよ」


「……それは、秘密かな」


一瞬の沈黙。


次の瞬間、ジーナは喉を鳴らして豪快に笑った。


「ははっ! そいつはいいや。秘密があるやつほど使えるってもんだ」


短剣から手を離し、肩をすくめる。


「まぁ、ここで会ったのも何かの縁だ。あんたたちも来な。ガセネタかどうか、確かめようじゃないか」


そう言って彼女は、集落の最奥――石造りの、古びた遺跡へと歩き出した。


遺跡の中は、耳が痛くなるほど静まり返っていた。


壁一面に刻まれた古代文字。


意味は分からないが、ゲームではここに触れると自動翻訳の魔法が走った場所だ。


中央には祭壇があり、その上に真円の平たい石が置かれている。


緻密な幾何学模様が、深い溝となって刻まれていた。


「……何もないじゃないか。くそっ、あの情報屋、ガセネタを掴ませやがったね」


一通り探し回ったジーナが、苛立ち紛れに舌打ちする。


俺は、円形の石の前に立った。


「これがキーストーンだ。こいつが鍵だよ」


「……は?」


「起動させるには、液体が必要になる。この溝に、水を流し込むんだ」


ニアとジーナの視線が突き刺さる。


ジーナは目を細めた。


「そんなヨタ話、にわかには信じられないねぇ。本気かい?」


答えず、俺は彼女の腰の皮袋に手を伸ばした。


「おい」


即座に、手首を掴まれる。万力のような力。


「本気でやるつもりかい?」


「見てれば分かるさ」


一瞬の逡巡の後、ジーナは指の力を抜いた。


溝に沿って水を注ぐと、液体が魔法回路のように広がり出す。


――次の瞬間。


ズズズ……という腹に響く重低音とともに、円形の石がゆっくりと沈み始めた。


だが、違和感があった。


沈み方が一瞬だけ引っかかる。


ゲームで見たスムーズな動きより、わずかに“重い”。


「……っ!」


同時に、祭壇奥の壁が左右に割れ、地下へ続く階段が姿を現した。


「……すごいねぇ……」


ジーナは完全に呆然としていた。


「なんでこんなこと知ってんだい、あんた。何者だよ」


「……経験、かな。それがこの世界で全部合ってるかは分からないが……」


知っている。だが、同時に“少し違う”。


このわずかなズレが、いつか致命的な牙を剥く予感がして、背筋に冷たいものが走った。


三人で慎重に階段を下りる。


地下は、見慣れた小さな墓所のような空間だった。


中央に石棺。奥の石台には、淡く光る碑文が浮かんでいる。


「……これだよ!」


ジーナが駆け寄り、手をかざした瞬間、光が弾けた。


【発光棒のレシピを習得しました】


「よしっ! これで松明はいらない。消えない、熱くない。最高だ!」


彼女は拳を握りしめ、心底嬉しそうに笑うと、俺たちを振り返った。


「あんたのおかげだよ。二人も習得しな。その権利は十分ある」


俺とニアも、碑文に触れる。 


光が走り、知識が流れ込んだ。


ゲームのシステムメッセージではない、重みを伴った「理解」としてレシピを把握する。


「ほんと……何者なんだい、あんた」


ご機嫌な声でジーナが言う。


「俺自身も、まだよく分かってないんだ」


知識を使えば、道は開く。


だがその分、戻れない場所へ踏み込んでいる気がした。 


そう答えた次の瞬間――視界が揺れ、ジーナが勢いよく飛びついてきた。


「ははっ!」


理由も説明もない。


ただ「面白い」という感情だけで動く女。


「気に入ったよ! ゼロ、だったね?」


部屋の奥には、さらに続く闇があった。


ジーナが俺から離れ、その先へ一歩踏み出しかける。


「……この先も行けそうだね。行けるのかい?」


「行かないほうがいい。罠がある」


俺は即答した。


「準備なしで行くと、帰れなくなる」


数秒、ジーナは俺の瞳の奥を覗き込むように見つめ――ふっと肩をすくめた。


「……ま、あんたが言うならそうなんだろうね」


そして、悪戯っぽく笑う。


「じゃあさ、ゼロ。次も一緒に来ようよ。そのお嬢ちゃんも連れて、三人でちゃんと準備してさ」


階段を上り、馬の方へ歩き出しながら、彼女は振り返った。


「カヒムの街に案内してあげるよ。レシピのお礼と――あんたへの興味込みでね」


俺とニアは、顔を見合わせた。


「……いいのか」


「もちろんさ! こんな面白い奴、放っておけるわけないじゃないか」


ニアは何も言わず、指輪に触れたまま、俺から視線を外さなかった。


騒がしくて、危険で、底知れない実力を持つ女。


俺たちは、この女に「見初められた」瞬間から、もう後戻りできない道に足を踏み入れたのだと、嫌というほど理解していた。

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