強者の価値観
嵐のような時間が終わり、女は——まだ足りないと言わんばかりに、肩を回しながら近づいてきた。
視線が、俺の腕で止まった。
「……あんた、まだ火傷してるね。」
「あぁ、あの時はありがとう。」
俺がそう答えるとほぼ同時に、ジーナはピンク色の液体が入った小さな瓶を放ってよこした。
「これを飲みなよ。」
反射的に受け取る。
「上級アロエ薬さ。ケチらず使うのが生存率を上げるコツだよ。」
躊躇はなかった。
蓋を開け、青臭い少し苦味のあるピンクの液体を飲み込んだ瞬間、体の奥に熱が走る。
痛みがすっと引き、皮膚が再生する。
「全回復、上級アロエ薬はゲームと同じなんだな。」
「ゲーム?何だいそりゃ?」
ジーナは笑う。
「こちとら紙装甲だからさ。高級回復薬は必需品なのさ。」
軽い口調だが、経験者の重みがあった。
「で?」
視線が再び俺に向く。
「死に損ないのあんたたちは、何しにここへ来たんだい?」
敵意はなさそうだ。だが、油断もしてない。
「俺たちはカヒムの街へ向かう途中だ。」
「カヒムだって?」
女の眉が、わずかに上がった。
「ほぅ……、初期レベルで歩いて行ける所じゃないよ。あんな小物で死にかけたやつが随分と無謀じゃないか。」
そう言って、くるりと踵を返す。
「私はジーナ、カヒムの街から来たんだけどさ‥‥」
その言葉に、ニアの顔がパッと明るくなり目を見開いた。
「カヒムの街の人間なの?」
「ま、そうなるね。」
軽い調子で言いながら、ジーナは倒れた食人族の死体を足で転がす。
「で、あんたたちは?」
視線が、今度はニアに向く。
「私はニア、こっちがゼロ。2人とも昨日罪人の地に来たところだ。」
「ようこそ、新入りさん。地獄の罪人の地へようこそ。」
ジーナは笑った。
「私も同じ、追放者の成れの果てさ。」
「おふたりさん、ちょっと待ってな。」
そう言って、食人族の集落の家々に入り、次々と物色を始める。
毛皮。
武器。
装飾品。
金になりそうなものが馬の背に、無造作に積み上げられていく。
中央の広場をはじめ、集落には、殺された食人族の死体が転がっていた。
男女の区別はない。
どこかで泣き声がした。
ふと目をやると、粗末なテントの隅で子供が泣きながら震えている。
注意深く周りを見渡すと、食人族であろう生き残りたちがこちらを見ている。
鬼のような形相で睨みつけてくる老人。
視点の定まらない呆けたような妊婦。
俺は、足を止めた。
――地獄だ。確かに罪人の地は地獄だ。
だが、この地獄で生き延びるには、彼女のようにならなければならないのか――その答えが、まだ出なかった。
ジーナは気にも留めず、品を漁っている。
「使えるもんは使う。それがここの掟。それだけさ。」
その言葉が、やけに重く胸に残った。
ジーナは一瞬だけ子供の方を見るとすぐに視線を戻し、淡々と荷物を集める。
ニアは何も言わず、視線を伏せた。




