表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/22

地獄で笑う女

青い服の女からもらった薬をニアが患部に塗ってくれた。

ひんやりとした感覚が、火傷した肌に気持ちいい。


痛みがだんだんと治っていくが、傷は完全には治らず、

焼けただれたピンク色の部分が生々しく残っている。

どうも即効性はないようだ。


この痛みは、夢と感じるにはリアルすぎる。

傷の治り方も、ゲームのそれとは違う。


夢じゃない。


その考えに至った途端、全身に寒気がした。


「……ニア、急いでここから立ち去ろう」


俺はゆっくり立ち上がりながら言った。


「爆発音が大きすぎる。

 他のモンスターや追放者が寄ってくる可能性がある。」


ニアは周囲を見回し、小さく頷いた。


「……分かった、ゼロ」


俺たちは青い女の馬の蹄の跡が残る方向に歩くことにした。


確か、カヒムの街に向かう最短ルートのはずだ。


疑いながらも、俺は過去の知識に頼るしか方法がなかった。


皮袋の中の乾燥肉で簡単に昼食を済ませ、

川の流れを辿りながら、俺たちは歩き続ける。


「ニア、おそらくこの先に、厄介な場所がある」


「……何?どうした、ゼロ?」


「“コソ泥の食卓”って呼ばれてる、食人族の集落だ」


ニアの表情が険しくなる。


「……食人族?」


それも無理はない。

食人族なんて普通、漫画かゲームの中だけの話だ。


「他に道はないの?」


「初期レベルで安全にカヒムの街方面に進むなら、

あいつらの集落を通り抜けるルートが一番危険が少ない。

 それに最短コースなんだ」


ニアは少し考えてから、覚悟を決めて言った。


「ゼロ、私はおまえを信じるよ。そのルートで行こう」


集落に近づくにつれ、異臭が漂い始めた。


腐肉と血の臭い。


嫌でも、この場所の正体を理解させる臭いだ。


標識なのか、それとも警告なのか、

串刺しにされた頭蓋骨や、

木に骨を紐で結び、それをたくさんぶら下げた、

まるで大きな風鈴のようなものが道々に並び、

風に揺られて嫌な音を奏でていた。


ゲーム通りだな。

ここの敵の弱さも、ゲーム通りならいいが……。


このままできるだけ気づかれずに集落に接近し、

気づかれたら脇目も振らず、

全力で街方面に走り抜ければいい。


今までの「ゲーム経験」では、よほど運が悪くなければ弓矢が直撃することもないだろう。


だが――

胸の奥に、嫌な予感が引っかかる。


まださっきの火傷は、

ズキズキと自己主張するように痛みを刻み続けていた。


俺は以前のように無謀に無双する気にはなれなかった。


いよいよ集落が見えてきた。

お決まりの骨で飾り立てられた、巨大で異様なモニュメント。


だが――


「……静かすぎないか」


ニアが低く呟く。


確か集落の入り口には見張りが四人いるはずだが、誰もいない。


俺たちは姿勢を低くし、

民家や遮蔽物の影に隠れながら、

足音を殺して慎重に進む。


やがて風に乗って怒鳴り声や叫び声が聞こえてくる。

嫌な予感が、確信に変わる。


集落の中央にある広場の方へ、視界が開けた。


そこには、死体が転がっていた。


一体や二体ではない。

十体以上の食人族が、地面に伏している。


切り裂かれた喉。

急所だけを正確に抉られた痕。


「……これは……」


「――はははっ!」


楽しげな声。


露出の多い青い服。


さっきの女だ。


女の両手の短剣が閃く。


蝶のように舞い、蜂のように刺す――

そんな表現ですら、生温く感じる。


槍を構えた食人族数人が、四方八方から一斉に突進する。


槍が迫ってきた刹那、

女は軽々とかわしながら真上に高く跳び、回転し、

着地と同時に全員の喉を掻き切った。


大斧を振り回す巨躯の食人族には、

連続したバック転から、建物の壁を使った三角跳び。


空中で、首が落ちる。


血が噴き上がった。


女は笑っていた。


「楽しいねぇ!」


――別次元だ。


その言葉が、ぴったりだった。


最後の二人が同時に崩れ落ち、集落は沈黙する。


女は二本の短剣を振って血を払うと、腰の鞘に納め、こちらを見た。


「おや」


軽い調子で言う。


「素人さん。

こんな危険な場所に来ちゃいけないよ。」


冷たい視線が、俺とニアを射抜く。


「ここは、まだ――


あんたたちには早い場所だ。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ