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和解と決意

宿屋の食堂。




俺たち4人は、朝食をとっていた。




重い沈黙が場を支配している。




いつまでも続くのか……。




すると、ニアが静かにナイフとフォークを置いた。




「ゼロ。この後少し時間ある?」




声は平坦。感情の色はない。




俺は頷く。




ニアの部屋に移動すると、ニアは扉を閉め、椅子に腰かける。




「まず確認。あなたは堕落の女神の神官――ヤオに対し、従属契約の上書きを行った」




「命を救うためだ」




「分かっている。私はその是非を問わない」




即答する。




「問題は“結果”なの」




視線が鋭い。




「従属契約は、主従関係を生む。あなたは彼女の新たな“主”になった」




「そうかもしれない。だが、俺が主従関係で接すると思うか?」




「いいえ。あなたはそんなことは絶対にしない」




ニアは間髪入れない。




「でも、構造は変わらないじゃない」




机に指で三度、軽く叩く。




「仮に契約が成立している場合、彼女は無意識にあなたを最優先する」




「どういうことだ?」




「現在、我々は四人。意思決定は合議制に近い均衡で成立している」




淡々と続ける。




「そこに“絶対服従”の一名が加わるとどうなるか」




俺は答えられない。




「あなたの発言は、意図せずとも重くなる。他の意見は相対的に軽くなる」




冷徹な分析。




「それは健全ではない」




「俺はそんなつもりはない」




「つもりの話ではない。構造の話」




ニアは切り捨てるように言う。




「さらに対外的リスク」




「リスク?」




「男女の従属契約が露見した場合、あなたは“女を支配する男”と見なされる可能性がある」




俺は沈黙するしかない。




「しかも女神官を男がやらしい従属契約下に置いたとなれば、間違いなく宗教勢力を敵に回し、さらにそんな私たちの味方は誰もいなくなる」




理屈は通っている。




俺は反論できない。




「そして、あなた自身の心理も……」




「俺の?」




「あなたは“救える命は救う”という信条で動く。その信条は尊い。でも、利用されやすい」




ニアの視線が俺から逸れない。




「“触れるだけで救える”と言われれば、あなたは、また必ず実行する」




「当然だ」




「では今後、“より重い代償”を要求されたら?」




その問いには、答えが出ない。




俺は今まで、考えたことがなかった。




「あなたは境界線を持つべき」




ニアは穏やかな声で言う




「私は感情で止めたのではないの。パーティーのため、そしてあなたのために異議を唱えただけ」




俺は静かに反論した。




「だが、……あの場で街まで運んで助かる保証はなかった」




「分かっている」




「なら――」




「あなたの行動が最適解だった可能性は高い」




ニアは俺を見つめながら続ける。




「でも、私たちに事前に了承がなかった」




「時間がなかった」




「何秒かはあった!」




鋭い目線ではっきりと言う。




「あなたは私の拘束を振り切った。その一瞬で単独決定をした」




確かに事実だ。




あの時、俺はリーダーではなく、ただの“救う者”だった。




「私はそれを問題視しているの」




怒っていない。




だからこそ、それが重い。




「あなたは英雄ではなく、パーティーのリーダー。リーダーが独断で動けば、パーティーは崩壊するわ」




ニアの正論に、俺はぐうの音も出ない。




俺はゆっくり息を吐く。




「……俺は、みんなを守るつもりだった」



「そんなことは知ってる!」




ニアは即答する。




「だからこそ、自制を求めてるの!」




ニアは一歩、距離を詰める。




「あなたは強い。だけど強さは暴走しやすい」




目が揺らがない。




「私は、あなたのブレーキ役になるわ!」




わずかに間を置き、




「――あなたが、誰かの“主”になる構造は、私は望まない」




一瞬だけ。




ほんの一瞬だけ、理性の奥に熱が見えた。




だが、すぐに消える。




「私はヤオに敵意はない。排除もしない。でも契約内容は寺院で確認する。条件次第では無効化方法を探す」




「そこまでする必要があるか?」




「ある。依存関係はパーティーを腐らせるから」




ニアは淡々と言う。




「もし彼女があなたに過度に依存した場合、私は彼女に相応の対応をする」




ニアの目と言葉に迷いはない。




「これは私情ではないわ。全てパーティーのためだもの」




静寂が部屋を支配する。




俺は目を閉じる。




独断。




英雄気取り。




境界線のない善意。




……図星だ。




「……分かった。次からはみんなに相談して了承を得られるようにする。俺は一人で戦っているつもりはない。ブレーキが必要なら、ニアに任せる」



ニアの瞳が、わずかに柔らぐ。



「もちろん、引き受けるわ。みんなのためだもの」




ニアは話は終わった、という安堵の顔を浮かべる。



俺は扉へ向かい、手をかけると背後からニアの声が響く。




「最後に一つだけいい?」




俺は振り返る。




「あなたが誰を救うかはこれからも自由。でも、“どう救うか”は私たちの問題」




俺は扉を閉めて部屋の外に出る。




廊下に残る静寂。




俺は天井を見上げた。




ブレーキがいるということは、


俺は無意識に暴走しているということだ。




そして――




誰かに止めてもらえる立場にいるということは、かけがえのない仲間がいることに他ならない。




もう、自分の判断だけで行動してはならないということか……。




こうして新たな物語が、静かに始まった。


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