欲望同盟
まだ夜が明けきらぬ暗闇の早朝。
黄色い鎧の男の居城――「本能の砦」。
罪人の地の南東、黒い岩山を削り取るように築かれた要塞は、まるで巨大な獣の顎のように大地へ牙を突き立てていた。
その最上階。
黄色い鎧の男の私室へと続く廊下を、青い鎧の男が足早に進む。
赤い厚絨毯が、足音を吸い込む。
廊下の両脇の壁には、女性を歪んだ欲望のままに描いた絵画が所狭しと飾られている。
「写真の代わりに自分のあの行為を画家に描かせて、しかも飾ってコレクションか。相変わらず下品で最低な奴だ」
青い鎧の男はそう吐き捨てると、壁を極力見ないように歩を進める。
青い鎧の男は大きな扉の前で一度立ち止まり、深く息を吐き、ノックをする。
「こんな時間に誰だ?」
「俺だ。至急、報告がある」
「青か。入れ」
重厚な扉が軋みを立てて開く。
むせ返るような淫靡な匂いと、くぐもった淫猥な音に青い鎧の男は一瞬たじろぐ。
部屋の中央、黄金のダブルベッドに腰掛けているのは、全身を黄色いローブで包んだ男。
乱れた金髪と、ほのかに上気した顔が愉悦を含んでいる。
ベッドの上には三人の女たちがいた。
青い鎧の男の視線に、恥ずかしそうに慌てて体を隠す。
「……第三偵察隊が壊滅した」
青い鎧の男が低く告げる。
黄色の男は一瞬だけ眉を動かした。
「ミユか?」
黄色の男は、羞恥に固まる女達に屈辱的な奉仕を命じながら報告を聞く。
「悪魔の丘のサークルピラーの前で、転移してきたミユ達と交戦。全滅した。映像は――これだ」
青い鎧の男が水晶球を差し出す。
それは『ことづての宝玉』で送信された最期の記録だった。
宙に映し出される光景。
黒髪の男が、居合い一閃で隊員の体を両断する。
一瞬だけ黄色の男の笑みが止まった。
それはこの世界に来て初めて見せる表情であった。
強いな‥‥‥。
だが次の瞬間、再び歪んだ笑みを浮かべる。
「……まあいい」
短剣の女が舞うように複数の隊員を同時に斬り伏せる。
そして、神聖な光を纏う片手剣の女。
黄色の男は、ゆっくりと立ち上がる。
「ほほう、そそる女どもだな」
声は低く、湿っている。
「ミユの女狐は無事か」
「確認できる限りではな」
「あの気の強そうな金髪のポニーテールの女は?」
「おそらく無事だろう」
「ならば良い。ミユとあの金髪ポニーテールを必ず連れて来い」
青い鎧の男は、わずかに眉を顰めた。
「なぜ、女に、ミユに固執する?」
「男なら当然だろう。気に入った女は力ずくで穢す。それが弱肉強食、この世界の掟だ。ミユは特別だ。俺たちのいた世界の女だからな。こっちのNPCとは訳が違う。若くて、ウブで、すれてなくて、あっちの方の経験もない、初物さ」
黄色い男は、より屈辱的な奉仕をするよう女達に命じる。
女達は絶望した目で従う。
青い鎧の男は思わず目を背ける。
「ミユは特別だ。ミユは俺だけのものだ。あいつを完全に俺色に染め上げてやるんだ」
黄色い鎧の男は、顔を上気させながら、上機嫌で言い放った。
こいつ、完全に色欲に支配されている。
青い鎧の男は、黄色い鎧の男の浅ましく快楽を貪る姿を見て呆れる。
だが、こんな奴でも俺より強い、なんて不公平なんだ。
青い鎧の男は両手を強く握りしめ、話題を変える。
「ところであの刀使いの男、相当できる。あいつも、もしかしたら有名なPvPプレイヤーなのかもしれない。いや、もしかしたら‥‥‥」
「男なんてどうでもいい。プレイヤーだろうが、NPCだろうが、束になっても俺の敵じゃない。お前も含めてな」
黄色い男は快楽に震えながら言い放つ。
青い鎧の男は怒りを抑えながら、下を向くしかなかった。
「現地雇用の連中も総動員だ。最低限の砦の守備隊を残して、全員で捜索しろ。各地のサークルピラー近辺や、大きな街はしらみ潰しにしろ。青、お前が直々に指揮を取れ」
青い鎧の男は無言で頷く。
「それと、ついでに女どもを補充して来い。俺の女の好みは知ってるよな?そっちの方も期待してるぞ、青」
青い鎧の男は無言で頷くと、踵を返してそそくさと部屋を後にしようとする。
その背後で、黄色の男は、水晶球から宙に映し出されたミユの顔を指で優しく撫でる。
「欲望同盟は、欲しいものを必ず手に入れる」
その頃、俺たちは何も知らないまま、アリカラに向けての旅路を進めていた。




