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ワイトの夜

悪魔の丘へ続く最後の関門、悪魔の跋扈する山脈の麓で、俺たちは野営をしている。




赤黒い岩肌を背に、焚き火を起こした。


乾いた枝が弾ける音と、温かいスープの匂いが、張り詰めた空気をわずかに和らげる。


各々が簡単な食事を終え、疲労に引きずられるように横になった。




焚き火のパチパチという音と共に、夜は静かに更けていく。




赤黒い岩肌の陰に陣取った俺たちの周りでは、ミユが設置した「魔除けの香」が細い煙を上げている。




だが、その効果を上回るほどの「死の気配」が、山の上からじりじりとはい寄ってきていた。




静かすぎる。




虫の声ひとつ聞こえない。




代わりに漂うのは、腐臭に近い冷たい魔力の気配だ。




皮膚の上を、見えない指でなぞられるような不快感が走る。




俺は静かに刀を手繰り寄せ、身を起こす。




「……何かいるね」




ジーナも気配に気づき、髪の毛を手早く結びながら立ち上がる。




焚き火の向こう、闇の奥から――淡く青白い光が、ふわりと浮かび上がった。




青白い光は夥しい数に増えていく。




数は……三十を超えている!




「みんな起きろ!ワイトの群れだ。夜間で活性化している!」




ニアとミユも慌てて起き出す。




「みんな、この付近でまとまって戦おう、深追いは禁止だ」




俺の声と同時に、全員が武器を構える。




直後、焚き火のあった場所を黒い衝撃波が薙ぎ払った。




火の粉が散り、地面の一部が瘴気に覆われる。




――瘴気が、濃い。


ただの夜襲じゃない。




グレーターワイトも後ろに何体かいるな――俺は直感でそう悟った。




「グレーターワイトが後ろにいる、瘴気に気をつけろ!ジーナは左、俺が右を叩く! ニア、ミユ、中央を任せていいか?」




「わかった、ゼロ」




「はいっ!もちろん」




ニアもミユもやる気満々だ。




「しゃらくさいねぇ……死人は土に帰りな!」




ジーナが地を蹴った。




カンスト昇魂者の圧倒的な速度と二振りの炎の短剣の破壊力で、ワイトの首を次々と撥ね飛ばし、体を引き裂き、燃やしていく。



俺も足に力を溜め、一気に地面を蹴り、大きく踏み出す。




踏み出すと同時に刀を勢よく抜きながら斜めに斬り上げる。




居合い抜き一閃。




核を捉えたワイトが、白い光となって霧散した。




「あ……っ、はぁっ!」




中央では、ニアが孤軍奮闘していた。




冷気を帯びたワイトの爪を剣の腹で受け流し、踏み込む。




だが、うまく有効打にならない。




「ニア、焦るな! 斬るんじゃない、芯を叩き潰すイメージだ。足元を狙って!」




「……分かった!」




俺の指示に、ニアが即座に反応した。




重心を低くし、ワイトの膝を薙ぎ払った。




体勢を崩した死霊の胸元へ、体重を乗せた一撃を叩き込んだ。




そのすぐ後ろでは、ミユが大斧でワイトを真半分に唐竹割りにしている。




「みなさん、グレーターワイトが来ます!」 




ミユの叫びと共に、再びグレーターワイトから放たれた瘴気の塊が三つ、暗闇から迫ってくる。




「ニア、避けろ!」




ニアは気合と共に横一文字に剣を振り抜くと、そのまま頭から飛び込んで瘴気を避ける。




二体のワイトが霧散し、経験値の光となってニアに吸い込まれていく。




不気味な呻き声と共に、奥の闇がさらに深く揺れた。




地面が低く唸り、空気が歪む。


この気配……格が違う。




グレーターワイト三体をお供に、大きな悪魔が姿を現す。




その見覚えのある醜悪な姿は、忘れるはずはない。




しかし、何故ここに?




「ワールドボス……コラプトデーモン!」




ミユも息を呑む。




悪魔の口が赤黒く光ってビームのように瘴気を吐き出し、俺たちの近くの地面を爆砕した。




「ジーナ、グレーターワイト三体、頼めるか?」




「あいよ、あのデカブツはゼロに譲るよ。」




「ミユ、ニアを頼む、コラプトデーモンのビームに気をつけてくれ」




「分かりました、ゼロさんは、コラプトの倒し方、知ってますよね?」




「もちろん。俺がやるから、ニアと二人でやつにビームを吐かせてくれ」




俺はコラプトデーモンが振り回す鋭い爪の生えた十本の腕を掻い潜りながら、懐に飛び込み、勢よく斜めに袈裟懸けにする。




黄色い気持ちの悪い粘液が吹き出す。




やはりな、ゲームと同じか。




強酸性の体液、触れるとただでは済まない。




なのでこいつに通常の斬撃は悪手だ。




唯一の攻略法は、ビームを吐いた瞬間、一瞬無防備になる口を攻撃すること、それだけだ。




俺は慎重に、噴き出る体液とコラプトデーモンの振り回す腕を避けて、必殺の間合いで止まる。




早くビームを吐け!ビームは遠距離にしか吐けない。




腕を避けながら横に目をやると、ジーナは三体のグレーターワイトを見事な体捌きで翻弄し、互角以上に渡り合っている。




コラプトデーモンの口がニアやミユの方を向いて赤黒く光り始める。




よし、終わりだ!




その時、不意にコラプトデーモンがこちらを向く。




「またか!こんな時にまたゲームと違うのか!」




俺に向かって勢よくビーム状の瘴気を吐く。




「くそっ……いっけぇぇぇ!」




俺は一歩も引かなかった。




いや、引けなかった。




たとえ相打ちになったとしても、三人が助かれば、それでいい。




恐怖を力に変え、全力回避で瘴気のビームを右に左に避けながら、コラプトデーモンがビームを吐き終わる瞬間を待つ。




瘴気のビームが俺の右腕に広範囲に掠る。




皮膚に鋭い痛みが走り、瘴気が触れたところから感覚が鈍り、肉が爛れ、腐り始める。


――まずい。このままじゃ、腕が使えなくなる。




「ぐっ、‥‥‥」




俺は思わず膝をついてしまう。




同じタイミングで、コラプトデーモンも瘴気のビームを吐き終わった。




くそっ!今がチャンスなのに!




だがその刹那、俺が作った一瞬の隙間に、勢よくジャンプしたニアがいた。




ニアは剣を一直線にコラプトデーモンのだらりと開いた口に突き刺し、貫く。




凄まじい叫び声と、十本の腕を勢よく振り回す衝撃波と共に、コラプトデーモンの体が光り、点滅を始める。




「爆散します!ニアさん、離れてください!」




ミユが鋭く叫ぶ。




ニアは慌てて駆け出し、飛び込んで避ける。




轟音と共に、もの凄い量の黄色い体液を撒き散らして、コラプトデーモンは跡形もなく消えた。




ちょうどジーナも三体のグレーターワイトを血祭りにあげたようだ。




真っ赤になった炎の短剣を両手に持ち、薄ら笑いを浮かべて近寄ってきた。




そして、……静寂が戻った。




グレーターワイトに吹き飛ばされた焚き火の残り火の炎だけが、ぱちぱちと音を立てている。




「私、……やっつけたの?」




ニアは剣を握ったまま立ち尽くし、やがて、大きく息を吐いた。




その瞬間、彼女の腰の測定器が青色に変わる。




「ニアさん、レベル40です。頑張りましたね」




ミユは晴れやかに微笑む。




「ニアさんコラプトデーモンはワールドボスですから、倒したのは、本当に凄いです」




「本当に……私が倒した……。私、ちゃんと戦えてた……?」




「ああ。ニアに助けてもらった。あのままだと俺は死んでたかもしれない。命の恩人だよ」




俺は、ニアに近づき目を見つめ、握手を求める。




「ニア、ありがとう」




「いいえ、……こちらこそ。いつもありがとう、ってゼロ?その腕!大変!早く治療しないと!」




ニアは慌てて皮袋から火傷薬と高級アロエ薬を取り出し、俺に差し出す。




高級アロエ薬を飲み、ニアに火傷薬を塗ってもらうと、痛みは消え、傷はかなり良くなる。




夜の闇はまだ深く、悪魔の丘に向かうのは夜が明けてからだ。




だが、焚き火を囲む四人の絆は、この戦いで確かに強まった。




「さて……夜はまだ長い。またモンスターが来るといけないから、俺が見張るよ。みんなは少し休め」




俺たちは再び火を囲み、明日の朝に備えてあらためて英気を養うことにした。


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