表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/24

真紅の男

審判の間に戻った瞬間、嫌な空気が肌にまとわりついた。




殺気だ。




俺は反射的に手を挙げた。




「みんな、止まれ」




ミユが先に足を止めた。直後、入り口の重い扉が横にスライドする轟音が響いた。




現れたのは、深紅の重装鎧に全身を覆われた巨漢だった。




鎧の表面は無数の傷と焦げ跡だらけで、戦いの歴史を物語っている。




右手には、俺の身長ほどもある凶悪な大剣を軽々と握っていた。




その後ろに、棘と刃物を無数に埋め込んだ異形の武装サイが一頭。




赤い瞳を輝かせ、低い唸り声を上げている。




「やっぱりな」




男が低く笑った。




声は鎧の奥からくぐもって聞こえる。




「見つけたぞ、メガネ女。こんなところで冒険ごっこか?」




ミユの肩が小さく震えた。




「……帰る時間だ。あいつの元へな」




男は視線だけでミユを値踏みした。




「嫌なら、無理にでも連れて帰る」




ミユは一歩下がり、凛とした声で叫んだ。




「嫌です!」




眼鏡の奥の瞳が強い光を宿す。




「気持ち悪い。女をなんだと思ってるんですか!」




「あんなとこ、絶対に、帰りません」




赤鎧は肩をすくめた。




「おいおい、それじゃあいつに叱られちまうだろ」




薄い笑み。




「お前はあいつの玩具になる運命なんだよ」




「……最低」




ミユが吐き捨てた。




その瞬間、俺は前に出た。




「そこまでだ。本人が嫌がってる。今は俺たちの仲間だ」




刀を一気に抜き、中段に構える。




漆黒の刀身が冷たい光を反射した。




「無理やり連れていくなら、戦うしかない」




間髪入れず、ジーナが俺の横に並んだ。




二本の赤い短剣がキラリと光る。




「かわいい女の子に何言ってんのさ。あんた、女の敵だね」




ジーナの声は低く、怒気が滲む。




「久しぶりに腹が立ってるよ」




赤鎧は俺たちをゆっくり眺め、息を吐いた。




「……面倒くさいな、雑魚の相手は」




大剣をゆっくり持ち上げ、構える。




その構えは完璧だった。




刀や短剣に対する最適な間合い、動きの予測が透けて見える。




武装サイも興奮し、地を強く蹴り、棘だらけの体を震わせた。




いつでも突進できる体勢だ。




空気がピリピリと張り詰める。




その時、ミユが俺とジーナの間から一歩前に出た。 




「待ってください」




赤鎧を真っ直ぐに見据える。




「……私が行けば、この人たちを見逃してくれますか?」




彼女は俺たちに振り向き、震える声で言った。




「私たちが束になっても、勝てません」




ジーナが困惑の表情を浮かべる。




ミユは続ける。




「この前話した、古参の転生者です。対人戦に特化していて、実戦経験が段違い……私たちの動きは全部見切られてます。ここで戦えば、みんな死んじゃいます。私、みなさんに死んでほしくないんです」




俺の頭の中で即座に理解し、納得した。




こいつは古参のPvPプレイヤーだ。




おそらく対人特化スキルで武器も装備も対人特化。




武器の特性や攻撃範囲の理解、相手の動きの読み――おそらく全てが俺より上だろう。




もし負けたら、ジーナも、ニアも、ミユも……。




どうする?分の悪い喧嘩だ‥‥‥。




こっちは四人だ、策があれば‥‥‥。




時間さえあれば解決策を模索できるはずだ。




「ミユも一緒だ。全員で赤い扉の奥へ行くぞ」




俺は即断した。




「みんな、今は勝てない。逃げる!」




ニアが俺のすぐ後ろにつく。




だが、ジーナは納得がいかず、一人で突進する。




「ふざけんじゃないよ。昇魂者がおめおめ尻尾を巻いて逃げられるかってんだ。わたしが、あいつがどのぐらい強いか測ってやるよ」




「ジーナ、やめろ!」




俺は片手に刀を握ったまま、ジーナの方に走る。




「ふっ、雑魚プレイヤーか、モブかは知らんが、終わりだ!」




ジーナは素早い動きで赤い鎧の男に近づき、大きく跳躍すると二本の短剣を必殺の間合いで突き立てようとする。




赤い鎧の男は、落ち着き払い、ただ鈍く光る鋭い大剣を横一閃に目にも止まらぬ速さで振り抜いた。




俺はジャンプしてジーナに体当たりし、なんとか奴の大剣の間合いから外させることに成功した。




「うっ」




しかし、その代償に焼けるような鋭い痛みが背中に広がり、生暖かい血が腰のベルトを伝って腹部まで広がる。




痛い、夢なんかじゃないリアルな痛みだ。




俺は急いで腰の高級アロエ薬の瓶を取り出し、蓋を開けると、ピンク色の液体を一息に飲んだ。




全回復の薬で痛みが和らぎ、傷が塞がるはずだった。




だが、変わらず背中には焼けるような痛みがある。




前回は全回復したぞ?どうなってるんだ?まさか、プレイヤーに負わされた傷は治らないのか?




とにかく、今はここを逃れるのが先決だ。




しかし、あいつは只者ではない。




太刀筋を完全に読んだつもりだったが、僅かに剣先が伸びてきた。




俺が避ける方向に体を捻り、剣の軌道を修正したに違いない。




「ゼロ!」




「大丈夫?」




ニアとミユが同時に叫ぶ。




「大丈夫だ。心配ない」




「ゼロ……」




ジーナが、自責の念を滲ませながら呟く。




「気にするな。傷は浅い。それより、早く逃げるぞ。俺に考えがある。みんなで勝つんだ」




「みんな、行くぞ」




俺は呆然とするジーナの手首を掴み、走り出した。




「走れ!」




一番近い赤い扉に向かって全力疾走する。




背後で赤鎧の声が響く。




「お前、なかなかやるな。PvPプレイヤーだろ?楽しみだぜ。ふふ、だが逃げるのはいい判断とは言えないな。この城塞ダンジョンは一本道で逃げ道がないのは、お前ぐらいのプレイヤーなら知ってるだろ?」




直後、地響きがした。




武装サイの突進音だ。




俺が振り返ると、呆然と立ち尽くすミユに向かってサイが突進していた。




「ミユ!何してる?早くこっちに来い!」




俺は踵を返すと、刀を鞘に納め、ミユに向かって全力で走る。




背中の痛みがズキンズキンと脈打ち、足を運ぶたびにその衝撃で痛みが身体中に広がるが、それを気にしている暇はなかった。




突進してきた武装サイの巨体がミユの目の前まで迫る。




サイが棘の付いた頭の角を突き出し、まさにミユに突き立てようとしたその刹那、サイの棘のついた頭部に火花が散る。




俺は大きく踏み込み、目にも止まらぬ速さで刀を抜き、全身全霊の力で横に払った。




俺の放った居合い抜き攻撃は、見事サイの頭部にヒットし、サイの突進軌道をわずかに逸らした。




サイはミユをかすめて壁に激突し、派手な音を立てながら、壁面の石タイルが崩れる。




「ミユ、早く行くぞ!」




「でも、私があいつの言うことを聞けば‥‥‥」




俺は無言でミユの腕を強く掴むと、強引に引っ張って走る。




ジーナとニアは赤い扉の奥で待っている。




俺はミユの腕を引っ張って赤い扉を潜った。




背後から武装サイの咆哮がダンジョンに反響した。




誰も見捨てない。




それが俺の選択だ。




だが、どうやってあいつを倒す?あいつに勝てるのか?




勝ち筋を見つけなければ……。




俺は赤黒いダンジョンフロアを奥に向かって走りながら、それだけを考えていた。背中の傷は熱を持ち、耐え難い痛みを発していた。




だが、この後のあいつとの決戦が、まさか、あんな終わり方になるとは、この時の俺もみんなも、全く予想できていなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ