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新たな門出

キロ城塞跡を後にし、俺たちは一度カヒムの街へ戻った。



夕暮れの街は、いつもと変わらない喧騒に包まれている。


行商人の呼び声。


酒場から漏れる笑い声。


それらが、逆に違和感を際立たせた。


――あの城塞の中だけ、時間が止まっていたみたいだった。


「……戻ってきたんだね」


ニアが、ぽつりと呟く。


その手には、まだ剣の感触が残っているのだろう。


指先が、無意識に柄をなぞっていた。


「ニア、お疲れさま。よく頑張ったね」


俺は笑顔でニアを労う。


「1日でレベル20だなんて、凄いよ」


ニアは一瞬、驚いたように俺を見てから、少し照れたように目を伏せた。


「……ありがとう。全部ゼロのお陰だよ」


「でもちょっと怖かった」


正直な言葉だった。


「強くなった実感はある。でも……あのグレーターワイト、ほんの少し判断を間違えたら……」


「そうだね、死んでた」


俺は、言葉を濁さなかった。


ニアは小さく息を吸い、そして、頷いた。


「……うん」


それからは二人とも無言で、ジーナの家に歩いていく。


ジーナは、神殿から戻ってきたばかりだった。


包帯を巻いた腕を軽く振りながら、相変わらず余裕そうに笑っている。


「神官が大げさでさ。呪われてるだの、魔力逆流だの、人を重傷扱いさ」


「数日間は安静にしろってさ」


「安静にしてるタイプに見えるか?」


確かに見えない。


「レベルは?」


俺が聞くと、ジーナは肩をすくめた。


「神殿で測ったんだけど71だってさ。もう少しレベルが上がったと思ったんだけどね。欲張りはダメだね。でもまぁ、正直に言うと、一気にこんなにレベルが上がって、心底びっくりしてるし、うれしいよ」


――止めなかったら腕が破裂していたかも。そしてその先には死が待っていたはずだ。


その事実を、俺たちは誰も口にしなかった。


「本当にあんた達と出会えてよかったよ、ゼロ」


そして、ジーナは少しだけ声を落とす。


「でも‥‥‥わたしは本気で欲張ってた」


「……次は、ちゃんとあんたの言うことを聞くさ」


それは、彼女なりの信頼の示し方だった。





その夜。


俺たちはジーナの家のリビングで、4人で夕食を共にしていた。


いつもより豪華な食事が食卓を飾る。


ローストチキン、肉と野菜の串焼き、大きな焼き魚、野菜がゴロゴロしている俺の大好きなスープ、ふかふかのパン、果物。


俺は串焼きに齧り付きながら、ミユに聞いた。


「ミユのレベルはどこまで上がったんだい?」


「多分74か75です。神殿に行ってないので正確には分かりませんが、ゲームではそれくらいの経験値が入るはずなので」


ミユはパンを小さくちぎりながら答えた。


「ミユはステータスが見えないのかい?」


「この世界は誰もステータスが見えないのです。転生者も同じです。まさか、ゼロ、あなたは見えているのですか?」


ミユはパンを口に放り込み、スプーンでスープをすくって口に運ぶと、俺の方を見つめる。


俺はステータスが見えることを言うか迷ったが、今言うと混乱するかもと考え、また別の機会に言おうと決めた。


「いや、ミユが見えるのか確認したかっただけさ」


強引な言い訳だが、ミユはそれ以上詮索してこなかった。


これでミユとジーナはレベル70台、あとは効率のいいレベル上げでカンストをめざせばいい。


ニアはとりあえず、レベル50には到達させたい。


とすれば、とにかく直近の目的地はただ一つ。


キロ城塞跡の地下ダンジョン。


「4人でキロ城塞跡の地下ダンジョンを攻略しよう」


俺はワインを一気に飲みながら言う。 


この世界のワインは、アルコール度数が低いらしく、口当たりもまろやかで、まるでぶどうジュースだ。


ついつい飲み過ぎてしまう。


「いいですね。あのダンジョン、今のレベルならいい経験値稼ぎになりますよ。4人で行けば攻略もできると思います」


ミユが笑顔で言った。


「あそこの地下に何があるんだい?」


ジーナが豪快にローストチキンを引き裂き、頬張りながら聞く。


「一言で言えば高レベルモンスターの巣窟かな。高難易度ダンジョンで罠も多い」


「で、攻略のご褒美は?」


俺が答えようとすると、遮るようにミユが目を輝かせながら答える。


「強い伝説の武器や最高位防具がゲットできるんです。宝箱には希少アイテムや希少金属のドロップ率も高いです。でも、一番のお宝は、武器能力アップのレシピですね。あれがあれば武器の攻撃力が3割増しになるんです。ゲームでは必須のレシピです」


さすが、ミユはPvEプレイヤーだな。


さも自分の庭のようにダンジョンの詳細を語っている。


俺はそんなミユの姿を見て微笑ましくなった。


ミユの説明を聞き終わると、ジーナは驚いたような声を上げた。


「あそこには、そんな凄いものが眠ってたんだね。近くに住んでいるけど、そんなことは聞いたことなかったよ」


「まぁ、簡単には入れないんだよ。秘密の場所みたいなもんさ。だからモンスターが強い。攻略には高級装備が必要になる」


俺は続けた。


「今の俺の鉄装備じゃ、攻略は半分賭けみたいなもんだけどね」


俺は苦笑いしながら、ワインを飲む。


「金ならあるさ、わたしの有り金、全部吐き出すよ」


ジーナが満面の笑みで即答した。


「有り金?全部?」


ニアが驚いて振り向く。


「で、でも……」


「いいんだ」


ジーナは笑う。


「これからは、あんた達と一蓮托生だろ?」


「それにさ」


壁に掛かる発光棒を指さす。


「これのおかげで、何もしなくても金は入るさ」


「死ななきゃ、また稼げるしね」


ジーナらしい名言だった。




翌日。


俺たちはカヒムの街で買い出しをしていた。


俺とニアの馬。


ジーナとミユは既に馬を持っている。


このゲームでは、単位装置であるサークルピラーを使わない移動では、ウマが一番だ。


回復薬であるアロエ薬と解毒薬。


乾燥肉と水袋。


そして――武器。


カヒムで一番大きな武器屋に入る。


ジーナは今の伝説武器から買い換える必要性を感じてないらしい。


ミユはスターメタルの大斧があるからと遠慮した。


俺はまず、ニアの武器を選ぶ。


ニアに、スターメタル製の剣を選んで手渡す。


スターメタル製の武器は、伝説の武器を除き、無銘の武器では最強の武器だ。


手が刃に触れた瞬間、ニアは目を見開く。


「……軽いし、鋭い」


「切れ味も段違いなんだ。きっと気にいるよ」


ニアは、スターメタルの剣に決めたようだ。


値段はかなりするが、あのダンジョンを探索するなら、最低限の装備だ。


次は俺の番だ。


最低でもスターメタルの刀が必要だな。


しかし、カヒムで最大の武器屋にもスターメタルの刀は置いてなかった。


理由は簡単だ。


刀は癖があるので、プレイヤーもNPCもほとんど使わない。


この世界で高級装備の刀を手に入れるのは大変だな。


そう思いながら、ふと投げ売りコーナーを見ると、端の方に埃を被っている一本の古びた刀らしきものが見える。


俺は鞘を抜き、刀の黒い刃を見て驚愕した。


「これは‥‥‥」


「それか‥‥なんでも失われた街の近くの砂漠から見つけた伝説武器らしいんだが、古びてるし、刃が黒いし、なにより持つと手に瘴気が溢れてきて呪われていて、買い手がなくてね。」


「これ…いくらだ?」


――伝説武器、《黒い刃》。


ゲームで登場する刀の中でも間違いなく最強の一振り。


ゲームではいつも俺が愛用していた武器だ。


瘴気が持つと溢れてくるだって?


ふふ、当然だ。


この刀の鍔は瘴気が出る、だが、この刀は取り付け方が逆になっている。


本来は刃の方向に瘴気が放出され、刃に瘴気を纏わせて攻撃することができるのだ。


価値を理解していない幸運に、俺は内心で礼を言った。


俺は黒い刃を捨値で買い、幸運を噛み締める。


ただ、防具までは金が回らなかった。


ジーナはいつもの青いビキニアーマー、ミユも今着ている白銀の鎧だ。


ニアは、ジーナのお下がりのセクシーな革鎧。


俺は、相変わらず布の服。


(当たらなければどうということはない、か‥‥)


どこかで聞いた名台詞を思い出し、苦笑する。



準備は整った。


「よし、行こう」


「協力して全員カンストだ」


ニアが買ったばかりのスターメタルの剣を握り直す。


ミユは、心なしかいつもより笑顔になっている。


ジーナは、いつもの不敵な笑みを浮かべる。



「面白くなってきたじゃないか」


こうして――

俺たちは、新たな門出を迎えた。


キロ城塞地下。


死と報酬が待つ場所へ。


しかし、この時、死の影が俺たちに近づいていることに、誰も気づいていなかった。


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