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価値の売り方

カヒムは喧騒の街だ。




いや、正確には――



朝から、金の匂いがする街だ。




露店の呼び声。


金属の打ち合う音。


獣の鳴き声。




人の声と音が混ざり合い、街そのものが「稼ぐ準備」をしているようだった。




俺たちは前日の夜遅くまで、三人で発光棒を作り続けた。


気づけば四百本近い数になっていた。




そして今。




朝市を回り、そのすべてを売り切ったあと、


通り沿いの食堂に腰を下ろしている。




「……あれは、見事だったね」




ジーナが、まだ少し興奮の残る声で言った。




「飛ぶように売れるとは思ってたけどさ。


完売した上に、予約まで入るとはね」




ニアも、嬉しそうに頷く。




「松明と比べて、あそこまで“差”を見せられると……」




俺は水を一口飲み、肩をすくめた。




「物の価値は、性能じゃない。伝え方だ」




朝市で、俺がやったことは単純だ。




――まず、松明を一本借りる。




「これ、明るいですよね?


でも片手が塞がる。火がついている。


雨が降ったら、それで終わりです」




そう言って、水桶に突っ込む。




火は、あっさりと消えた。




次に、発光棒を一本取り出す。




「これは、火じゃありません」




水に沈めても、光は消えない。




周囲がざわつく。




実演の最中、背中に視線を感じた。


――もし、売れなかったら?




そんな不安が浮かんだ瞬間、俺は意識的にそれを切り捨てた。




「触っても熱くない。火事にならない。


布で包めば――」




布を巻き、即席のランタンにする。




「こうやって腰に下げられる。


洞窟探検でも使えるし、子供のそばでも安全です」




そして、最後にこれだ。




「一本で一晩持ちます。


松明三本分の燃費で、値段は松明二本分」




――理屈が通れば、人は納得する。




列はすぐにでき、在庫は消えた。


現物がなくなっても予約が入り、


定期的に買うという話にまで発展した。




「ほんと、あんたは何者なんだい」




ジーナが呆れたように笑う。




「商売人に向いてるよ」




「さすが、ゼロ」




ニアは、少し誇らしそうに微笑んだ。




食堂の奥では、即席のステージで踊り子が舞っている。


酒に酔った男たちの歓声。




その近くで――




「なぁ、姉ちゃん。その大斧、俺たちによこしな」




「スターメタルだろ?


あんたにゃ、荷が重すぎる」




酔っ払いの声。




俺は、思わず目を凝らした。




――眼鏡。




この世界に、眼鏡は存在しない。




しかも、装備は明らかに高レベル。


青白く光る、スターメタル製の大斧。




「あの眼鏡の子……転生者だな」




ジーナもすぐに気づいた。




「……断定はできないけど。


あの鎧、最上位シリーズだよ」




絡まれている少女は、斧の柄を強く握り直す。


指が白くなり、視線が落ち着かない。




――強い。


だが、場慣れしていない。




俺は立ち上がった。




「ちょっと、お兄さんたち」




できるだけ穏やかに、低姿勢で声をかける。




「いい品があるんですが、


お試しで、もらってくれませんか?」




「なんだお前、邪魔するな」




睨まれるが、俺は皮袋から発光棒を取り出した。




ジーナの家用に別に取っておいたものだ。




「これ、差し上げます」




酔っ払いは一瞬、言葉を失う。




「朝市で売ってた、あれか」




「……こんなに、いいのか?」




「もちろん。


それより――」




俺は、声を落とす。




「その大斧、呪われてるって噂、聞いたことありませんか?」




男たちの動きが止まった。




「命を吸う、ライフスティーラー。


ほら……あの子の顔。


あまり血色が良くないでしょう?」




視線が、少女に集まる。




そして、俺の背後。




機嫌の悪そうなジーナを見つけ、


小声で何かを囁き合った。




「呪いは、面倒だな」


「あの女、知ってる。ヤバい奴だ」




やがて男たちは、発光棒を抱え、そそくさと去っていった。




「甘いねぇ」




ジーナが肩をすくめる。




「とっちめないと、またやる連中だよ」




「でも」




ニアは、柔らかく微笑んだ。




「私は、ああいうゼロ、嫌いじゃありません」




少女はようやく斧から力を抜いた。


肩で息をしながら、こちらを見る。




「……ありがとう、ございます」




声は震えていたが、


目には、はっきりと安堵があった。




「一緒に、どう?」




俺は席を示す。




「落ち着いて話そう。


君の装備のことも、ここじゃ目立つ」




少女は迷い、そして小さく頷いた。




――強さだけじゃ、世界は回らない。


何を選び、どう使うか。




価値は、振る舞いで決まる。




それが正解だったかは分からない。


ただ、あの場で選べた最善は、それだった。




少女の眼差しは、


警戒と迷いを残しながらも――


確かに、次の居場所を探していた。


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