見えざるもの
「実は二人に、お願いしたいことがあるんだよ。これから効率の良いレベル上げをするって言ってただろ? わたしも仲間に入れてくれないかい?」
ジーナは、にこにこしながら言った。
だが、その目は――真剣そのものだった。
「断る理由はないよ。命を助けてもらったし、武器ももらったし。それにジーナが一緒なら心強い。こちらからお願いするよ」
「よーし、そうと決まれば前祝いだ。どんどん飲んでくれよ。美味しい料理も用意させたから、存分に食べてくれ」
宴会が始まってから、どれくらいが経っただろうか。
気づけば俺たち三人で、ワインボトルを三本も開けていた。
ジーナも酔いで顔が上気していて、くだらないジーナの話にも大笑いし、とても上機嫌だった。
そんな中、話題が発光棒の話になった。
「提案だけど、発光棒で一儲けしてみないかい? 三人でたんまりこさえてさ。あれは便利だ。売れば必ず儲かる。この私が保証するよ」
俺もニアも即座に了承した。
いつの世だって、お金はあったに越したことはない。
だが、材料の話になると、ジーナは首を傾げる。
「このレシピの中で一つだけ、見たことないものがある。ヒカリゴケ? どこにあるんだい、そんなもん。せっかくレシピを手に入れても、材料がなきゃどうにもならないねぇ」
ジーナはワインを一気に飲み干しながら、苦々しい顔をしてため息をつく。
「カヒムの街のすぐ近くの湖の湖底に生えてる、多分な」
俺は、ゲームで何度も通った湖を頭に思い浮かべながら言った。
「……は? あんたは本当に、なんでも知ってるんだねぇ」
ジーナは不敵な笑みを浮かべ、嬉しそうにグラスにワインを満たす。
――知っている場所、知っている素材。
なのに、もしかしたら、ないかもしれない。
ふと、そう思う。
その時はその時だ。別の場所を教えればいい。ヒカリゴケは、この世界のどこにでも生えている。
それからもしばらく宴会は続き、俺たちはご馳走をたらふく食べ、ワインもかなり飲んだ。
ニアは最後には椅子に座って机に向かい、倒れるように酔っ払ってへたり込んでいた。
やがて宴会はお開きとなり、俺はそのままリビングの長いソファで寝ることになった。
ニアは客間のベッドを使わせてもらうことになり、メイドさんらしい女性二人に両脇を抱えられながら、千鳥足で消えていった。
アルコールの力と、屋内で眠れるという安心感。
そしてソファの心地よさも相まって、俺は一気に眠りに落ちた。
ふと、妻と一緒に晩酌している光景が脳裏に浮かぶ。
満面の笑みで抱きついてくる娘の姿も。
――夢なら、目を覚ませば戻れるはずだ。
だが、この世界は……俺を逃がしてくれない気がした。
ニアを一人で残していくことも気が引ける。
緊張が解けたせいか、自然と溢れてきた涙とともに、俺は深い眠りへ落ちていった。
⸻
翌日、朝食をご馳走になり、ジーナと俺、ニアの三人で湖へ向かう。
ジーナとニアは、鎧ではなく二人とも同じ服を着ていた。
目の覚めるような鮮やかな青いタンクトップ調のシャツと、白いミニスカートは、ジーナの趣味だろう。
俺たちはオアシスのような風景の中をのんびり歩く。
この辺は安全なはずだ、ゲーム通りなら。
すぐに湖へ到着したが、俺の指定するポイントまでは、なんだかんだで結構歩かないといけない。
俺たちは湖畔に沿って歩く。
湖畔をのんびり歩きながら、俺は湖面に石を投げて遊ぶニアを見て、微笑ましく思った。
ニアは今朝、ジーナの家で風呂に入れてもらったようで、髪の毛も肌も汚れが消えて艶が出ており、本当に貴族の高貴な品格を纏っているように見えた。
ポカポカした休日の昼の散歩のように、のんびりとした雰囲気。
娘と公園に行く時も、こんな感じだったな。
また娘と公園に行きたい。
一緒にシーソーをしたい。
そんなことを考えながら、目的の場所へ辿り着く。
やる気満々のジーナが俺の指示も待たずに、止める間もなく湖へ飛び込み、潜って探し始めるが、もちろん何も見つからない。
「どこにも光るコケなんて生えてりゃしないよ。
今度こそ、ガセネタかい?」
苛立つジーナと、心配そうに俺を見るニア。
俺は改めて場所を指さした。
「ここだ。
とにかく、この真下の湖底を鎌で無差別に刈ってくれ。見えなくても」
「バカバカしい。何も起きなかったら、ただじゃ済まさないからね」
そう言いながらも、ジーナは再び潜る。
すると、ジーナが鎌を振るった場所の湖底が青白く光る。
透明だったコケが刈り取られた瞬間――青白く光ったのだ。
「はは……見えなかっただけかい。
それにしても、あんた本当に凄いねぇ。ゼロ。最高だよ」
湖から上がったばかりの濡れた服のまま、ジーナが俺に抱きついてくる。
「あんたと、ますます離れられなくなりそうだよ」
「わかった、わかった。
じゃあ三人で、大量採取といこうか」
俺とニアも湖に入り、コケを刈り取る。
一時間後。
三人それぞれ、大きなカゴいっぱいにヒカリゴケを採取することができた。
足取りも軽く、ジーナの家へ戻る。
その夜。
暗闇の中、馬をトップスピードで走らせる馬の姿があった。
馬上には少女が一人乗っている。
眼鏡をかけた少女は、ツインテールの髪を派手に揺らしながら、何度も不安そうに後ろを振り返っていた。
険しい表情に、余裕はない。
早く逃げなきゃ。
でも、どこへ?
考えた末に選んだのは――カヒムの街。
「人が多いところなら……見つかりにくいはず」
少女の装備は、やけに整っていた。
武器も鎧も、まるで最強クラスのように緻密な装飾が施され、銀色に鈍く光っている。
少女の胸は、焦燥でいっぱいだった。
早くカンストしなきゃ。
大変なことになる。
少しでも遠くへ逃げなきゃ。
後悔することになる。
――あの男達が、ここに来る前に。
遠くに、カヒムの街の灯りが見える。
それは希望か、それとも――。




