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喫茶店に悪魔と秘密基地を  作者: 夜ノ烏
第一章 殺人鬼と殺り合う話

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無駄話 中編

「グリモワールに選ばれた? 俺が?」


「そう――あの本は生きてるの」


 本が生きている。

 そう聞いて、ティータイムを楽しむ黒い本が浮かんだ。


 ……俺は何を考えているんだろう。


「そして自ら必要とする、『闇を抱えた者』を選ぶ。ただ手に入れただけでは使えない」


「闇を、抱えた者……」


「なにか心当たりがあるでしょう? 後悔や未練、恨みだとか。命と引き換えにしてでも、果たしたい『願い』が」


 心当たりなんて、あるに決まってる。

 そんなの考えるまでもない。


『透真さん、私を――守ってくれますか?』


 俺を頼ってくれた声を、まっすぐな瞳を覚えている。


 果たせなかった約束。

 たとえそれが、「人として間違っていた」としても。


 俺は彼女を、守って見せると誓ったのに。


「……あるみたいね」


 押し黙る俺を見て、なぜか悪魔――アンリエルは悲しそうな顔をしていた。どうして悪魔が、気遣うような顔をするんだろう。


「――言って? その願いを。私が叶えてあげる」


 アンリエルの声は、どこまでも優しかった。

 強要することも、誘導するような真似もしない。


 ただ俺の傷に寄り添い受け入れる。

 そんな彼女の思いを感じさせる、微笑みを浮かべて。


 だから俺は。


「断る。その手には乗らないぞ」


「………………ちっ」


「いま舌打ちしたな!? やっぱり演技か!」


「あるなら言いなさいよ! そうやって、ビビってるから童貞なんでしょ!」


「いまそれ関係ないよね!?」


 なんて悪魔だ。的確に大学生男子が傷つくことを。


「……じゃあ、そっちを叶えてほしい?」


「いらんわ!」


「それじゃ私が帰れないじゃない。責任取りなさいよ」


「責任もなにも不可抗力だろ。別に俺が望んだわけじゃ」


「男ってサイテー。女の敵」


「その話題から離れてくれないかな!?」


 だいたい未経験で責任もなにもないと思う。

 違う。そうじゃない、相手のペースに巻き込まれちゃだめだ。


「はいはい、わかったわよ。もういいわ」


 アンリエルが大きくため息をついて、肩をすくめる。


「もういいって、なにが」


「願うのは、いますぐじゃなくてもいいってこと」


 右手を腰に当てて、渋々といった様子。

 どうやら諦めてくれるわけじゃないらしい。


「その代わり。一緒にいさせてもらうわ」


「……え? 一緒に?」


「当然でしょ。事故だろうとアンタが呼んだんだから」


「いや、それはそうだけど。それは困るっていうか」


「なんでよ? 彼女もいないのに」


「悪かったな!?……じゃなくて、事情があるんだよ。立場的にというか」


 そう。別に俺個人の問題で済むなら構わない。

 けれど、「悪魔」と一緒にいるというのが不味いんだ。


「ん? どういう意味?」


「えっと、俺はアンリエルみたいな」


「アンリって呼んで。なんか普通に呼ばれると、遠い気がする」


 悪魔とはいえ、女の子をそんな親し気に呼べと?

 なんて無茶な。そんな気安さがあれば苦労していない。


「……お前みたいなのを、退治するとこに所属してるから」


「なんでさらに距離開けたのよ」


「気にするとこ、そこじゃないだろ」


「別にバレなきゃ大丈夫でしょ。それに私、負けないし」


「強いのか?」


「可愛いからそう見えないのはわかるけど、悪魔が人間に負けるわけないでしょ」


 可愛いなんて一言も言ってない。

 ……可愛いけど。


「だとしても困るよ。揉め事はごめんだ」


「………ちっさ」


「……いまのは度胸とか器の話だよな? 視線が低いぞ」


「も~めんどくさい。ならこれでいい?」


 アンリが心底だるそうにぼやいた後。

 身体が淡い光を帯びた。


 けれど、そのぼんやりとした白い光は、すぐに治まっていく。


「……角と翼が消えた? それに」


 彼女から感じるのは、さっきまでの異形の気配じゃない。

 まるで――。


「これなら文句ないでしょ? 私はただの人間ってことで」


 そういうと、アンリはさっさと隠し部屋を出ていく。


「あ、おい。ちょっと! まだ認めたわけじゃ」


 呼び止める前に、アンリは部屋を出たところで立ち止まった。


「うわ……そういうこと。アンタの所属してるとこって」


 後ろ姿で顔は見えないけれど、酷く嫌そうな声がする。


「知ってるのか? 『ゼニス』のこと」


「そりゃね、私たちを『いないもの』にした元凶だもの」


 追いついて隣に並ぶと、アンリは険しい顔で基地を眺めていた。どうやら相当ここが嫌いらしい。


「そうなのか? 実は俺、入ったばかりでよく知らないんだ」


「なるほど。アンタが新人で良かったわ。まともなエージェントならいまごろ、私を退治しようとしてたでしょうから」


「あー……やっぱ、そうなんだよな? それなら、っておい待てって!」


 俺の話も聞かず、アンリはさっさと出口へ歩いていく。


「つべこべ言わない。とりあえず、アンタのお家ね。それと」


 彼女は自動ドアが開いたところで立ち止まり、振り返った。


「できるだけ願いは早くしてね?」


 そして――。


「アンタ、もうすぐ死んじゃうみたいだから」


 余りにも笑えない、不吉な言葉を口にした。



◇◆◇


 Anotherview ――九段円くだんまどか――



 「夜」という言葉は極論、一種の呪いだ。


 そのイメージは不穏、不気味、淫猥、危険。

 他に神秘、幻想などもあるが、根本的には違わない。


 夜の公園、夜の病院、夜の墓地。

 夜の名を冠するだけで、勝手に恐ろしい印象になる。


 これが朝や昼なら、そんな印象にはならないだろう。


 だから夜とは呪いであり。

 ここ、夜の御咲ヶみさきがはら学園も例外ではなく。


 他のラインナップ同様、恐ろしく不気味な空間だった。


 仄暗く、人気の絶えた無機質な校舎は、物音ひとつしない。

 その静寂さをもって、生命あるものこそ、場違いな異物であると主張する。


 生者を否定する、非日常的な空間。


 それが私、『九段円くだんまどか』の職場《戦場》だ。


「せめて明かりを点ける許可くらい、貰っておけばよかった」


 正面玄関から中に入り、私はすぐに後悔した。


 暗いのが怖いとか不気味だとか。

 そういった可愛らしい理由ではない。


 校舎内が思ったより暗く、単純に不便だったからだ。

 夜の校舎は、廊下の先が見えないほど真っ暗だった。


「まぁ、わかりやすいのは大歓迎だし。助かるけれど」


 暗闇の中、正面の階段を上がって二階へ向かう。


 学園は広い。

 敷地内全ての調査は、相当な時間がかかるだろう。


 事実、私はそれなりに長い夜になる事を、覚悟していた。

 だから助かった。あぁ、なんてわかりやすい異常。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 そして。

 階段の踊り場までたどり着くと、こちらを見下ろすように。


 ――「それ」は立っていた。


 重い帳のように周囲を覆い隠す闇の中。

 異様なほど白いマスクが笑っている。


 眼と口元を、それぞれ三日月形に穴をあけたのか。

 ソイツはひとりでに、不気味な笑顔を作っていた。

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