―第7話「双刃(そうじん)の決起」―
祓本部――五重の塔の最上層。
そこは、かつて蓮=アカツキが幾度も任務の報告をしていた部屋だった。
今はもう、古き書が焼け焦げ、天井には封呪の痕跡が残るだけ。
イザナが、ゆっくりと刀を抜く。
その刃には、かつての蓮から譲られた紋が彫られていた。
「……準備は、いい?」
「もう躊躇はないさ」
アカツキの目に、ためらいはない。
今の彼女は、蓮であり、そして“紅蓮の鬼姫”だった。
二人が足を踏み出した瞬間――
階下から、轟音とともに昇ってくる気配。
「“鬼狩り特級部隊”……来るわよ」
刹那。塔の扉が吹き飛ぶ。
舞い込んできたのは、白銀の仮面をつけた4人の剣士。
「鬼姫アカツキ、並びに叛逆者イザナ。討伐命令が下っている」
「それで……私たちを止められると思ってるの?」
イザナの声が冷たい。
「構わん。ここを突破する」
アカツキは、炎を纏った双剣を構える。
次の瞬間、空間が軋む。
――“炎と刃”の交差が始まった。
◇ ◇ ◇
一方、祓本部の最奥。
厳重な封結界の中に立つのは、祓の長官――上導タケル。
その背後には、一人の少女が横たわっていた。
年端もいかぬ姿――だが、その身体からは禍々しい“鬼気”が漏れている。
「“鬼神の器”か。
あの鬼姫アカツキに抗える唯一の存在となるか……」
その少女の名は――サクラ。
アカツキがまだ人間だったころ、護りきれなかった唯一の「家族」。
「皮肉なものだな。鬼を憎んでいた者が、
鬼を倒すために“鬼”の力を用いるとは」
上導は静かに手をかざす。
サクラの胸元に刻まれた、黒い紋が脈動を始める。
「さあ、目を覚ませ。
“白鬼サクラ”――貴様こそが、アカツキを屠る刃だ」
◇ ◇ ◇
戦いは、塔の中段にまで迫っていた。
鬼姫の炎が天井を灼き、イザナの刃が敵の心臓を貫く。
だが――その数は減らぬ。
まるで無限に湧き出るかのように、鬼狩りたちは現れる。
「……これ以上は、消耗戦になるわよ」
イザナが肩を切られて膝をつく。
「なら、突破するだけだ」
アカツキの双剣に、紅蓮の焔がまとわりつく。
「――“火裂・零式”」
轟音。爆風。絶叫。
塔の壁が崩れ、敵も味方も吹き飛ばされた。
燃え上がる炎の中、アカツキはイザナを抱えて飛び出す。
目指すは、最上階――
そこに、すべての鍵がある。
だが、そこで彼女を迎えたのは、
一人の少女だった。
白い髪。黒い瞳。
あまりに懐かしい――“あの日”の面影。
「……サクラ……?」
少女の唇が、わずかに動いた。
「姉さま……あなたを、殺しに来ました」
サクラの背から、黒き双翼が現れる。
それは――“鬼神”の力。
かつて守れなかった妹が、今、自分を殺すために立っている。
鬼姫アカツキは、ゆっくりと刃を構える。
「ようやく……本当の罰が、始まるのかもしれないな」