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楽園のラジエル  作者: 夏月あおい
青年は空を見上げ天使は羽ばたく
4/40

3.非日常の足音

筆が進んだので連続投稿。


「…………偽物、見つかった?」

「ああ。我々の知識が記された紛い物。どうやら4日後にパーティーで飾られるらしい。(ようや)くチャンスがやってきたぞ」


 楽園島、第6区画。午後8時。


 誰もいない夜の公園のブランコに10歳ほどの白髪のアンダーツインテールの少女が一人座っていた。

美しい陶磁人形(ビスクドール)のような顔立ちに柘榴(ざくろ)のような真っ赤な瞳。大多数がもしも彼女を見れば、美少女、と答える程美しい。白いワンピースに身を包み、背中には小さめの茶色のリュック。そこには一冊の本だけが入っていた。

 そんな彼女は誰かと会話をしているようだが、声の主らしき人物はいない。だがそれを気にせず、彼女は口を開いた。



「上手くやらないと、だね?」

「そうだな……もしかしたら今も見られている可能性はある。相手も我々と同じ力を使えるのだから」

「……でも、せめてあの本だけでも燃やさないと、『七つの大罪(セブンス・シン)』まで奪われちゃう……」

「そうだな。流石にそれは阻止しなければならない」



 焦った様子の少女と、それに同意する低いテノールのような声。

 だが焦るのは当然だった――命がけで奇襲をかけたのに、相手にまさか返り討ちに合うとは思っていなかったのだ。更にその影響もあってか、持っている魔術書の中でも強大な七大魔術『七つの大罪(セブンス・シン)』まで本から消えていた。

 あれらは世界に放っていい魔術ではない。元々魔術書に封印の意味で記録されたものなのだから。


「ねえ、ラツィ。今の所島に影響はありそう?」

「……調べようにも、この島自体いくつかの魔術が使われているからな……探知が出来ない。せめて一つでも手元にあるなら、話は変わってくるのだが」

「そっか……」

「エル。これは我のせいだ。相手の力量を、人間を侮っていた」


 そう言った声色に滲む後悔を察し、エルと呼ばれた少女は何も言わなかった。ラツィと呼ばれた声はしばらく無言だった。二人の間に気まずい沈黙が走る中、小さな音にエルが気付いた。

 見れば、どうやら人が公園に来たようだ。流石に夜遅くに幼い少女がいれば問題になってしまうだろう。今ここで目立つのは避けたかった。


「…………別の場所に行こう、ラツィ」

「ああ。我は空から見張っておく」

「うん。ありがとう」


 彼女が空を見上げる。既に真っ暗な夜空が広がり、星の輝きが良く見える。今夜の月は満月ではないがほぼ丸い。人々の会話曰く、次の満月は4日後のようだ。


「…………楽園島、か」


 少女が何かを唱えれば、周りに何かの魔方陣が浮かび光り輝く。だがそれは刹那の事であり、人々にとっては何が起こったか理解することは出来ないだろう――何故ならば、それこそが魔術の本質だからだ。

 本来、魔術とは人が扱える類ではなく――神と呼ばれる存在が使う力の事。

 だからこそ、この島は歪んでいる。

 楽園と称するこの島に、神など存在しないのに人が魔術を使っている。もっと言うならばこの島そのものに幾重(いくえ)もの魔術が使われているのだ。その蛮行(ばんこう)は、世界を見守る神にとって許されないものである。


 だからこそ。



【――我が神よ、どうか待っていてください。私が必ず全ての魔術の封印をやり遂げましょう――】



 そんな少女の決意の言葉を、空の上から一匹の大鷲が聞いていた。




次回更新は5/11 22時予定です。

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