2.日常の終わりに待ち受けるもの
ギリギリになってしまいました。
申し訳ない…。
「はーい、本日の業務もお疲れ様でしたあ♡」
「…………」
「クララベル、ロクロとザイアのHPとMPはもうゼロに等しいよ」
「えぇ? でもギオンさん、お祝いの言葉は大事だと思いませんか?」
「まー……うん、確かに大事だね」
「でしょう♡」
5月5日、午後6時。
警備機関ワルキューレ第6支部の職員待機室。そこで机に倒れ伏すロクロとザイアの姿を見て、拍手をするクララベルと呼ばれた茶髪の女性と呆れた顔をした、ギオンと呼ばれた坊主の男性。
会話に混ざるのも疲れているのか机にいる2人は何も言わなかった。
「最後の最後で銃撃戦になっちゃいましたからねえ……♡」
「運がいいのか悪いのか……、いやこの場合は悪い方か」
「それも相当悪い方ですよ……」
恨めしいと言わんばかりに、ロクロが言葉を紡ぐ。ぶつぶつと言う背中からは黒いオーラが見えており、相当苦労したのだろう。
大規模な摘発計画も第8区画の違法改造屋が最後になった。漸くゴールだと喜びながら店に向かったロクロとザイア。今回ばかりはザイアも口論にならないよう気を付けて喋っていたのだが、店主が強く抵抗。何度かの会話の末、店主がポロリと違反行為を喋ったことで証拠が確定――したのはいいのだが、店主は逃走。午前中のように逃走劇が始まるかと思いきや、まさか店舗の隣にあった倉庫から、無断改造の自動ガトリング砲を5門も持ち出してきたのだ。
「まさかあんなのがあるとは思ってなかったですよ」
「しかも改造したせいで自動でリロードできるし、倍撃てるっていう質の悪さ。あれが島の外に出てたら本当に戦争が始まっちまうだろうよ」
「こっちの銃だけじゃ何も出来ませんからね……」
「まあ、流石に二人だけだと厳しいもんな……」
流石に二人だけでは対応できないと判断。その結果、第8支部の捜査官や第6支部の同僚であるクララベルとギオンも呼んで、店主との銃撃戦が発生したのである。
「それを逮捕出来たんですもの、じゃあハッピーじゃないですかあ♡」
「こっちとしては最後の最後に重すぎるもん来て、今までの疲労が来てんだわ!」
「まあまあ、ザイア。明日から3日休めるんだ。ゆっくり過ごせよ」
ギオンが疲れた顔のザイアを宥めながら、クララベルにアイコンタクトを送る。
流石にクララベルも察したのかそれ以上言葉を紡ぐことはなかった。ようやく落ち着いた待機室の空気を変えるように、ギオンが今度、ロクロに話しかける。
「ロクロ。お前さんは休みどうするんだ?」
「うーんと、明日は友人とカフェに行く予定です」
そうロクロが返すと、ザイアが睨むように視線を向ける。
「お。あの悪ガキ二人か」
「悪ガキって程じゃないと思いますけど……」
「片方はな。もう一人の方が有名な悪ガキなんだよ」
「まあ、彼女は僕らの仕事のライバルですしね……」
頬を掻きながら、明るい自由気ままな彼女を思い出し苦笑する。確かに人を振り回すことにおいては有名であってもおかしくはない。
「私は好きですよ、ああいう子~♡気が合いそうです♡」
「クララベルさんなら言うと思いました」
と言っても当人はクララベルが苦手だと言っていたが。
きっと同族嫌悪なのだろう、とロクロはもう一度苦笑する。
ふと時刻を確認すれば午後6時半。
そろそろ帰ろうかと、ギオンが言い同意するように全員が待機室から出ようとした時だった。島民に配られる小型デバイスから電話の通知音が鳴る。鳴ったのはどうやらザイアのものからだった。一体誰が、とその連絡してきた相手を確認しザイアは「はぁ!?」と大声をあげる。
3人が首をかしげていれば、ザイアが相手を見せてきた。
その相手はワルキューレ第6支部支部長――すなわち自分たちのトップからである。トップからの電話という事は、何か大ごとでもあったのだろうか。
「えっ、もしかして残業……?」
「その場合があるから出たくねえんだけど」
「出ろ、ザイア。逃げると次の休み明け何されるか分からん」
「支部長、怒ったら怖いですもんねえ……」
嫌なそぶりを見せても流石に、出ないわけにはいかない。ザイアが仕方ないと大きく溜息を吐いた後に、応答ボタンを押した。
「こちら、ザイアです」
『ああ、よかった。繋がらないと思って焦ったよ。ザイア中級捜査官』
「……何のご用件でしょうか、支部長」
楽し気な女性の声が聞こえてうんざりしつつも本題を促す。
『仕事終わりに悪いと思っているさ。わたしだって心が痛い。とはいえ、急遽の仕事でね? 断れなかったのさ』
「……ちなみにそれは」
『あ、ザイア中級捜査官。スピーカーにしてもらえるかい? 近くにいるであろうギオン中級捜査官、クララベル下級捜査官、ロクロ下級捜査官にも関する話だ』
「……了解です」
怒りに身を任せ、大きく舌打ちしたくなった感情を抑えながらスピーカーにして、ザイアはデバイスを近くの机に置く。何があったのかと3人が置かれたそれを見遣ると、支部長の明るい声が4人にとある命令を下した。
『やあ、第6支部の選ばれし4人! 機関本部直々の命だ!』
彼の楽しげな声と裏腹に、4人の顔は一気に疲れた顔へと変わっていく。
第6支部の長である彼女は――こうした本部からの無茶ぶりを喜々として受け入れる。巻き込まれた、とばかりに大きな溜息が4つ、室内に響き渡った。
『君たちは4日後に控えたとあるビルで行われるパーティーの警備部隊に臨時で入ってもらうよ!』
次回は5/11 19:00に投稿予定です。