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楽園のラジエル  作者: 夏月あおい
青年は空を見上げ天使は羽ばたく
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1.捜査官のいつもの仕事

 5月5日午前9時、楽園島第6区画。天候は晴れ。


 一般の島民が暮らす区画の、建物が入り混じる細い路地を急いで走っている男が1人。汗だくになりながら抱えているのは、大量の拳銃である。だが、ここにおいて拳銃というのは別に持っていても珍しいものではない――何せ楽園島において重火器や武器の類は持つことが許されている。

 では何故逃げているのか。


「ひっ、ひっ、ひぃ……ッ! な、なんでバレた……!」

「待て、ハヤマ・ユーベル! ()()()()()()()()()で逮捕する!」


 ただ、持つことは許されていても改造等するには島の許可がいる。

ハヤマは第6区画で許可なく重火器等の改造を行い、更にぼったくりとも呼べる程高い金を吹っ掛けていた。とはいえ偽造の許可証を作り、今まで誤魔化せていたのに今日になって急にバレるとは思わない。

 昨日の客たちに怪しい人間はいなかった、寧ろ高く吹っ掛けても支払ってくれた新規の客がいて笑顔を浮かべていたというのに。


 そんなハヤマの後ろを追いかけるのは、茶色のトレンチコートを羽織った男。胸元(むなもと)にある両翼の生えたエンブレムこそ楽園島警備機関(けいびきかん)ワルキューレの証。逮捕権を持つ島最大勢力の一つであり、彼はその捜査官だ。

 背後の圧が徐々に縮まっていくのに耐え切れず、持っていたいくつかの改造拳銃を道にばら撒く。狭い路地で少しでも転倒するリスクを増やし、その隙をついて距離を取ろうという作戦だ。

 それは功を奏したのか、後ろで苦戦するような声が聞こえ微かながら余裕が生まれる。


「っ、くっそ……!」

「ひ、ひひっ! あばよワルキューレ!」


 その小さな慢心(まんしん)こそ、大きな隙になるというのをハヤマは気付いていなかった。



 パンッ、と軽い音。


「……はぁ?」


 音と同時に、視界が揺れていつの間にか遠くに見える青空と薄暗い建物がハヤマの目に映りこむ。じわりと頭の、特におでこの辺りがじんじんと痛んだ。ぽかん、とした彼を他所にかちゃ、と軽い音が鳴った。一体何が起きたのか、理解できないまま呆然としていれば、背後から来ていた男も合流する。

 この状況は、ハヤマにとって詰みだ。


「ナイスだ、ロクロ」

「ザイアさんこそありがとうございます」


 細身の黒髪の男――ロクロが持っていた拳銃を腰のホルスターにしまう。ハヤマの近くには撃ったのであろうゴム弾が転がっていた。

 ザイアと呼ばれたトレンチコートの男は頷きつつ、拾った改造拳銃を見てうんざりとした顔を浮かべる。ロクロが心配そうに、手に持っていた拳銃を見て納得する。

 ハヤマが捨てた拳銃の殆どが、最近流行りの火力型改造拳銃だったからだ。


「火薬量を増やして、雷管を補強してやれば速度も火力も上がる奴だ。って簡単に言っても細かいテクニックが必要だから、許可証がないと禁止されてるってのに」

「その許可証も多額のお金が必要ですから……こうして大量の違法者が出る。僕らの仕事増えまくりですよ」

「頭痛くなってきた。あーあ。俺もう帰るわ。デート(仕事)の相手よろしく」


 そう言って踵を返そうとしたザイアを、コートの首元部分を掴み逃がさないように掴むロクロ。

 捜査官の中では非力ではあるが、少なくとも1人なら逃がせないほどではない。



「ジョークやめてくださいよザイアさん。この後もデート(仕事)が沢山あるっていうのに1人でさせる気ですか」

「ジョークには乗るもんだぜ、ロクロ。……はぁ。いい加減早く休日にしてほしいもんだ」

「まあまあ、この件が終わったら休みですから。今回ボーナス出すって支部長も言ってましたし、やる気出してくださいよ」

「それがないとやってられねえよ。ったく」



 やれやれと溜息を吐いたザイアが、手慣れたようにハヤマに手錠をかける。もう抵抗する気力もないようであっさりと受け入れた。

 最近流行っている武器の無断改造業者の摘発(てきはつ)のため、ロクロ達は3日間程そればかりを繰り返しており、朝から夜までずっと追いかけっこや銃撃戦で、お互い疲弊していた。

 とはいえ仕事はきちんとこなさなければならない。薄暗い路地を出ればワルキューレ専用のランプ付き自走車と同じ支部の捜査官二人が待っていた。

 


「お疲れ様です。ザイア中級捜査官、ロクロ下級捜査官」

「容疑者をこちらに連行いたします」

「よろしくお願いしますね」

「頼んだ」








 ハヤマを乗せた自走車はワルキューレ第6支部へと向かっていく。漸く一息つけるとばかりに、ザイアはコートのポケットから煙草を一本取り出す。

 手慣れた様子でライターで火を付け、口に咥える。美味そうに噛み締めながら口から毒を吐き出していくのをロクロは眺めていた。



「好きですよね、煙草」

「犯人も捕まえられたしな。この時に吸う煙草が一番美味い」

「僕は、未だにその良さが分からないです」

「お前さんは分からなくていいんだよ。こんな自傷行為の良さなんて」



 ケラケラと笑い飛ばしながら、ザイアは視線を移す。

 ロクロも同じように移せば、路地から出た道路の向かい側は商店街だったようで様々な人が行きかっている。雑談をする主婦、売り物を明るい声でアピールしていく店主たち、母親の周りで遊ぶ子供。

 島に住む彼らの生活がそこにあった――強いて他と違うところがあるとするならば。

 子供以外の人間は重火器や刀、槍といった様々な武器を所持している事だろうか。



「本来は俺らみたいなのがいなくても、勝手に解決してそうだけど」

「そんなのが出来るのはほんの一部ですよ。本当に襲われたりした時は僕らが対応したほうが早いです」

「まあ、確かに。大体の人間にとっちゃ御守りだもんな」

「物騒な御守りですけどね」



 武器社会のこの島でも咄嗟に武器を扱えるのは、本当に少ないことをロクロたちも理解している。そして大半は扱いきれずどうしても事件や事故は起こってしまうものだ。

 だからこそ楽園島警備機関ワルキューレがあり、捜査官(自分たち)がいる――すべてはこの島の平和を守るために。


「そろそろ次に行きますか?」


 一服が終わったのかポケット灰皿に煙草を仕舞い込み、伸びをするザイア。欠伸も浮かべながら時刻を確認。午前10時半、まだ仕事は始まったばかりだ。



「んだな。次どこだ~? 俺、ここ3日間摘発(てきはつ)ばっかで疲れたわ」

「僕も同じですよ、ザイアさん……」

「そうげんなりすんなって。期待してるぜ」

「今度はちゃんと冷静にお願いしますよ。ハヤマが逃げたの、ザイアさんがあいつと口論になったのが原因なんですから」

「わーってるよ。にしても、ほんと助かってるよロクロ。さっきの早撃ちがなかったら逃げられてたからな」



 そう言って、近くにある別のランプ付き自走車に先に乗り込んでいくザイア。溜息を吐きながらロクロもその後を追っていく。その時ほんの一瞬だけ、白い髪の子供が商店街の人込みに紛れていくのが見えた。

 それだけなら別に気にすることはなかったが――ロクロが見たのはその少女の周りを飛んでいた鳥の事だ。


「……見えてない、鳥?」


 本来鳥が、子供の近くにいたのなら人の喧騒が聞こえそうなものだが聞こえる様子もなく、更にそもそも周りの人々から、その鳥は見えていなかったように思えた。

 あれは一体、何だったのか。


「おーい、ロクロ? 早く乗んないと走り出すぞー」

「あっ、ちょ、待ってッ!」


 自走車が走り出したことに焦り、急いで乗り込む。

 一瞬の出来事はあっという間にロクロの記憶から抜け落ちることになる。



次回 5/11 18:00に更新予定です。

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