異世界転移した先でマコモ湯を勧められた件について
「勇者よ、ここに至るまでの試練よくぞ耐えた。あとは聖人マコモの祝福を施すのみよ」
…思えば勇者召喚とかいうもので転移してから幾年かが経った。
最初は誘拐同然で帰ることができないと酷く癇癪を起こしたものだ。
「ええ司教様、今まで御導きいただき感謝の念に堪えません。ここから私の旅は始まるのですね」
だが、実際は死の間際にいる人間を転移させているらしい。
更には才無き者は金銭と身分を与えて放逐することも。
当時のことはあまり覚えていないが、転移した直後のオレは酷く泥酔していたと聞く。
それを知ってからはこの世界に感謝し、酒を断ち試練を愚直に耐えて修業に打ち込んできた。
「辛く険しい旅路になるであろう。なにせ先代は都を出てすぐに根を上げたものだからな」
試練はそれはもう辛かった。まずはこの世界の文字を学ぶことから始まった。
幸いなことに勇者召喚の効果なのか文字や会話を解することはできた。
だが文字を書くことには適用されず、これが魔法陣を描くことにも関わってくるというのだから大変だ。
「不向きあろう試練にもた耐えた汝ならば、きっと魔王討伐をやり遂げるであろう」
それが終わったら今度は教会で扱う古代言語の学習だった。
これは貴族でも早々学ぶことはない癖に特に魔法だとかの役に立つことはないものであり、何度抜け出そうとしたことか。
正直禁酒を断念するところだった。
「祝福はマコモ様の遺灰を注いだ湯で沐浴することで完了とする」
反面、肉体面での修業は苦ではなかったように思う。
修業と言っても精々草むしりなどの雑務ばかりで……ん、遺灰?
「この神聖なるマコモ湯に―――」
オレは即座に逃げ出した。
逃げ出そうとしたが魔法で捕えられてしまった。
「離せ!そんなうんこみてぇな色の湯に浸かるなんて正気じゃねぇよ!」
「戯言を!マコモ様の神聖なるぱぅわーで浄化されておるから600年間湯を替えていないんじゃぞ!」
「きったな!?先代はどうしたんだよ!」
「先代勇者は身体が弱くてのぉ、出立するときには既に魔王の呪いで全身水疱まみれだったんじゃよ…」
「それみたことか!」
「ちなみに先代は巨乳のないすばでぃ―――」
オレは即座に湯船に浸かった。
どうやら神聖なるぱぅわーという話は本当だったようだ。
歴代最長の潜水記録をもったオレは最強の力を得たらしく、あっさりと魔王を屠ってしまった。
凱旋時、魔王のかけた最後の呪いで勇者の顔はヒキガエルの様に醜い顔だったと民衆は語る。
しかし巨乳のないすばでぃな美女を嫁に迎えて末永く幸せに暮らしましたとさ。
めでたしめでたし