第9話 魔王からの言伝
お久しぶりです。
先の展開に悩んで時間が空いてしまいました。
申し訳ありませんm(_ _)m
「ルーシャ様」
ルーシャが夜の街を散策していると、ふいに後ろから声をかけられた。振り向くがそこには誰もいない。しかしながら自分の足元の影が揺らめいていることに気が付いた。
「貴方は……確か隠密兵団のシャオニンさんですね?」
「さすがは四天王が1人デュラハン様、その通りでございます。此度は言伝を持ってきました」
なんでしょうか?人間の街に来てからあまり日は経っていませんが、まさかもう撤退とか?
「魔王様より1度報告に戻るようにとのことでございます」
完全な撤退ではなく報告の為に戻ると聞いてルーシャはほっとした。まだこの街を調べ尽くせていないからだ。
「分かりました。今から戻りましょう」
ルーシャはシャオニンの持ってきた言伝通りに魔族領に戻ることにした。
「ルーシャをどこに連れていく気だ?」
気を抜いていました……まさかこんな夜更けにまで現れるとは……
ルーシャは振り返り、その姿を見ると頭を悩ませた。
騎士団長ロイさん。どこから聞いていたのでしょうか?最初から聞かれていたのならばここで殺す必要がありますね。
「ルーシャの影に潜む魔物よ。今すぐルーシャの洗脳を解き解放せよ。さもなくば貴様を斬る!」
ロイの言葉にルーシャは洗脳されていると勘違いしてくれていることに気が付いた。
これなら殺す必要はありませんね……いや、私は何をほっとしているのでしょうか。どうせいつか殺すと言うのに。
ルーシャは自分の思考に戸惑った。ただの市民ならともかく騎士団長など、相手の戦意を削ぐためにも殺したほうがいい。だというのに今殺さなくていいと分かってどこか安心している自分がいた。
「ひっひっひ。この小娘は魔王様が手元に置きたいと言っていましてね。連れていかせて貰いますよ」
ルーシャはシャオニンが話を合わせてくれたことに心の中で感謝した。
「なっ!魔王が直接……!?だめだ!させてなるものか!」
ロイが剣を構え揺らめく影へと剣撃を放つ。どれだけ斬っても影は揺れるだけでそれ以上は何も無かった。
「ひひっ。無駄ですよ。では死んでくだされ」
ロイの首目掛けて鎌の形を成した影が一直線に放たれる。
ロイは自分の首筋に迫り来る鎌を見て悟った。避けることは出来ないと。
俺はまたしても守れないのか?魔王の元に連れ去られたルーシャがどんな目に合うかなんて想像もしたくない。くそ。どうしていつもこうなんだ。俺は、俺たちは常に無力だ。
「危ないっ!」
何が起こった?俺の身体があったはずの所にルーシャが立っている。突き飛ばされたのか?いや、待て、そんな……待ってくれ!!
ロイが手を伸ばすも虚しく鎌はルーシャの片腕を切り落とした。
「ルーシャ様!?何を!?」
「ルーシャ……そんな……なぜ!」
相手の魔物も驚いている。恐らく精神支配を掛けていたのに動けたことに驚いているのだろう。いや、そんなことはどうでもいい。今すぐ治療しなければ。血を流し過ぎれば命を落とす。
ロイは落としかけた剣を握り直し魔物目掛けて斬りつけた。しかし結果は同じように見えたがシャオニンは口を開いた。
「あわわ……今すぐ直さなければ上から何と言われるか……」
ロイはその言葉にハッとした。この魔物はルーシャを連れてくるように命じられたのだから死なれては困るのだろう。もう俺の剣が通じないことは分かった。ならば説得するしかないだろう。
「おい、貴様もルーシャに死なれては困るのだろう?こちらには助ける術がある。今は見逃してくれないだろうか?」
騎士団長であるロイにとって命乞いに等しい行為であったため屈辱だったがルーシャの為だと割り切っていた。
「……仕方ありません。今は手を引きましょう」
シャオニンはルーシャの身体の製作者である四天王の人形師ナーキスに殺されてしまうのではないかと怯えて人間にルーシャの治療を任せることにした。
「行ったか……早くルーシャを教会に連れていかなければ……!!」
ロイに背負われて運ばれているルーシャはさっきの自分の行動に疑問を抱いていた。
なぜ……なぜ私はあんなことをしたのでしょうか?人間との戦争に勝つために潜入しているのに、人間を庇うなんて。
どうせ侵攻を開始すれば何千、何万という人間を殺します。なのに、目の前でロイさんが殺されるのを無視出来ませんでした。
シャオニンは私を反逆者として報告するのでしょうか?
きっと……するのでしょうね。四天王デュラハンは裏切ったと。
あぁ、作戦の一部だったとか言って誤魔化せないでしょうか。私だって何故庇ってしまったのか分からないのに魔王軍からも見放されたらどうしたらいいのか分かりません。
「ルーシャ!しっかりしろ!もうすぐ教会に着くからな!」
別に切り離された腕は痛くないのですが……一生懸命運んでくれているのにそれを言うのは野暮かもしれないし黙っておきましょう。
「すまない!急患だ!!」
「けが人はどこですか!?」
ロイが教会の中で声を上げると奥からクローリアが小走りで出てきた。
ルーシャは見た事ある建物だと思ったらクローリアの住んでいる教会だったと思い出した。
「ってルーシャ!酷い怪我だ……!何があったんですか!?」
「魔物が街の中に入り込んだ。くそ……!俺のことを庇って……!」
「取り敢えず切り離された腕を渡してください!まだ繋げられるかもしれません!」
クローリアはロイから腕を受け取るとルーシャの切断面にあてがい、詠唱を始めた。
ルーシャは、ぼーっと詠唱を聞いていた。以前クローリアに傷を直してもらった時よりも長い詠唱だった。
詠唱が終わり、傷口が光に包まれる。光が晴れると切り離されていた腕はしっかりと繋がっていた。
「よかった……ほんとうによかった!」
クローリアが感極まってルーシャに抱きついた。ルーシャは戸惑いながらもクローリアの背中に手を回す。
「ありがとうございます。腕を直してくれて」
クローリアは一切疑うことなくルーシャを治した。オートマタだとバレなかったのはクローリアが抜けているからなのか、それともナーキスの技術が凄まじいのか。ルーシャには分からなかったが取り敢えず人間じゃないとバレなくてよかったと一安心した。
「夜分遅くに済まなかったな」
「いえ、むしろこの教会に連れてきてくれてありがとうございます。他の教会だと取り合って貰えなかったかもしれなかったので」
ルーシャはクローリアをマジマジと見つめた。ロイさんに限らず私はクローリアさんも殺せないのでは無いでしょうか。
兵士を何度でも戦線に復帰させる厄介な存在で、チャンスがあれば殺らなくてはならないはずなのに。
ルーシャはクローリアの首筋に片手を当てる。
今、本当に殺そうとしたら殺せる。
「る、るーしゃ……?」
どうやら……殺すことなんて出来ないようです。自分でも殺せないし、見殺しにも出来ません。
私は魔族でクローリアさんもロイさんも人間だと言うのに。
「ルーシャ。何故あの時俺なんかを庇った?」
「何故……でしょうね?」
「2人して何言ってるの?そんなのルーシャが騎士団長さんのことが大事だったからじゃないの?」
ルーシャはクローリアの言葉にハッとした。
大事……?ロイさんのことが?でもそうだとすると辻褄があってしまいます。
「そうだったら嬉しいが……俺は騎士……」
「そうですね。私はロイさんのことを大切に思っているのかもしれないです。そしてクローリアさんのことも」
ロイはあまりの嬉しさに絶句し、クローリアはルーシャのほぼ告白な言葉を聞いて顔を真っ赤にした。
共に過ごして情が沸いた程度の意味でルーシャは言ったのだが、2人がそれに気づくことは無かった。
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「ルーシャ、もう行くのか?」
魔王城の一室で、銀髪の少女が部屋を出ようとすると男が呼び止めた。
「ええ、定例の報告は済んだのでナーキス様には顔を見せに来ただけです」
「そうか……気をつけてな」
半年前、ロイさんを庇ったことにより裏切りと判断されるかと思っていましたが、魔王城に戻ってもそれに関して全くの音沙汰無し。今もこうして諜報活動を続けています。
「では、行ってきます」
本作は完結となります。
ここまで読んで頂きありがとうございました。