第7話「ライヤさん、なぜ私を誘拐したのかお聞きしても?」
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ルーシャはベッドの上で目を覚ました。手足が拘束されている訳でも無くただ綺麗なベッドに横たわっていた。
ライヤさんに眠らされた時はこのまま殺されるか牢獄に閉じ込めるかと思いましたがそうでも無いようですね。やはり不確定な要素を手元に置いて監視しておきたい……と言った状況なのでしょうか。
「ルーシャ起きているか?」
ノックと共にロイの声が聞こえた。ルーシャが返事をするとゆっくりと扉が開きロイと一緒にライヤが入ってきた。ライヤの独断での行動ではないとルーシャは理解した。
「ルーシャ、今回は本当にすまなかった!部下であるライヤの行動は俺の責任だ。どんな処分でも受ける覚悟だ」
突然ロイに頭を下げられたルーシャは困惑しながらも、頭を上げるように諭す。
「状況が飲み込めないのですが、ロイさんは悪いことをしたのですか?」
「部下が1人の人間を誘拐するのを許してしまった」
ロイに深刻そうな表情で伝えられて、ルーシャは自分の考えが間違っていたと知った。今回の誘拐はライヤの独断だった。私を危険だと判断しての行動ならばライヤが咎められることはないと思っていたが、別の理由で私を誘拐したのだろうか、とルーシャは思考を巡らす。
「ライヤさん、なぜ私を誘拐したのかお聞きしても?」
ルーシャに問いかけられたライヤは肩をビクッと揺らした。
「隣町から戻ったら詰所にルーシャちゃんが居なかったから、街で聞き込みをしてスラム街の方で見たって人がいたんだ。ルーシャちゃんがまた危険な目に会う前に攫ってでも安全なとこにいて欲しかった。でも、今考えると睡眠魔法で攫われる方が怖かったよね……本当にごめん」
ライヤさんは本当に心配が行き過ぎてこんなことをしたのですか?私達魔族にはよく分からない感情ですね。でもライヤさんには感謝しなければ、例え格下だと思っていた相手にも思わぬ一手で負けてしまうこともあると言うことを学ばせて貰いました。
ルーシャがデュラハンの姿であれば、睡眠魔法など効かなかったが、負けた後に言い訳するのは戦士の恥だとルーシャは敗北から学ぶ姿勢をとっていた。
「謝らないでください、それよりも見事な魔法でした。事前に詠唱して保持しておくのは難しいと聞いた事があります。なぜあそこまでの魔法を使えるのに騎士団にいるのですか?」
ルーシャはライヤに親身になっている訳ではなく、ただ純粋に自分の強みを発揮できる場所があるのに剣が主力の騎士団にいるのか疑問だった。
ルーシャはライヤの答えを待っていたがロイとライヤがポカンとしてこちらを見ているので首を傾げた。
「俺はルーシャちゃんを無理やり攫ったんだよ?睡眠魔法まで使ってさ、もっとこう……怒るとか幻滅するとかないの?」
「いいえ?」
「「いいえ!?」」
むしろ私は敗北を教えてくれたライヤさんに感謝してるくらいなのですが、戦闘経験があるとバレると、せっかく二人が私を弱者だと思ってくれているのに余計な情報を与えてしまいますし黙っておきますか……
「ルーシャ……本気か?」
「嘘を言う必要はないので」
「本来であれば犯罪者として地下牢行きだが……」
ロイがライヤを見て言い淀む。団長として、副団長を失うのは辛いのだろうとルーシャは察する。
二人まとめていなくなってくれれば少しは戦力や、統率力が落ちるのかもしれませんね……ですが勝ち逃げは許しませんよ?ライヤさんにはいつかこの街に攻め込んだ時にリベンジしたいのですから。
「その必要はありません。帰りが遅かったので心配になって迎えに来てくれた……そうですよね?ライヤさん」
まぁ……いつかその時がきたら私の手で殺しますが。
「っ……!!ルーシャちゃん、ありがとう……!」
話が纏まったため、ロイとライヤは部屋を出た。
「ルーシャちゃんはこんな俺を許してくれるのか……!」
「あぁ、俺も彼女優しさに救われたから分かる。なんとかして彼女に受けた恩を返したいという気持ちもな。だがな俺たちが思っているよりも彼女は強い。だからあまり焦るな。今回みたいなことを二度と起こさないようにな」
「はい!ロイ団長!」
二人が出ていったあとルーシャは身支度を済ませて、ここを出る準備をしていた。警戒こそされていないが敵兵の詰所で寝泊まりするのは居心地が悪かった。
ルーシャは詰所の入口付近でロイに声を掛けられた。
「もう行くのか?強制するつもりはないが詰所に居ていいんだぞ」
「……スラムには屋根のない所で寝泊まりしている人も居ました。なのに私だけが特別待遇を受けるのは間違っているとは思いませんか?」
ロイは何も言えなかった。騎士団としても治安維持の為にスラムを無くしたかったが権力も金も足りなかった。結局問題を見て見ぬふりをして放置していたのだ。
まさかルーシャは自分の特別待遇に疑問を覚えて、もっと困っている人がいないか自分の目で確かめに行ったのか?その結果スラムに辿り着き、その生活を目の当たりにした。だからルーシャはここを出ていこうとしているのか。15歳ほどの少女とは思えない行動力と考えだな……
「そうかもな……」
「では、お元気で」
腕力でルーシャを引き留めることは出来るのかもしれない。でもそれでは、ライヤがしてしまった事と同じ過ちを犯してしまう。ルーシャを本当の意味で引き留めたいなら困っている人々を救い、ルーシャが心置き無く過ごせる街にしなければいけないのだろう。
ロイは小さくなっていくルーシャの背中を見えなくなるまで眺めていた。そして拳を力強く握りしめた。
問題から目を背けるのは終わりだ。
「騎士団のトップ実力は分かりましたし、魔道士協会からは警戒されてしまいました。治療魔法使いの情報はクローリアさんの所で引き続き集めるとして、次に行くとしたら冒険者協会でしょうか」
酒場のマスターに冒険者協会の場所も聞いておけば良かったと若干後悔しながら、ルーシャは街の中を彷徨っていた。
「もしかして酒場に居た子?」
後ろから声を掛けられたルーシャが振り返ると背中に剣を背負った筋肉質の男がいた。
この男……無駄のない筋肉に手のマメ。無骨ですが手入れのされた大剣。中々の実力者のようですね。
「あっ、怪しい者じゃないぞ!直接渡せなかったけど飲みたがってたホットミルク喜んでくれたかな~って思ってな!」
「あの時買ってきてくれた人でしたか。あの時はありがとうございます」
実際は他の飲み物を知らなかっただけだが、わざわざそれを伝えることはしなかった。
「へへっ、良いってことよ!それでお嬢ちゃんなんか困ってんのか?さっきからこの辺ウロウロしてないか?」
「実は冒険者協会を探してまして」
「そいつは運がいいな!俺は冒険者協会のもんだからな!」
ルーシャは大剣使いの冒険者と共に冒険者協会に向かった。かなりも近い位置にあったのに見つけられなかったことにルーシャは恥ずかしさを覚えながら協会へと入っていった。
「なっ!ドボザの野郎めっちゃ可愛い子連れてやがる!!」
「なんだとぉ!?」
「なんであの筋肉ダルマなんだよ!だったら俺でもいいだろ!!」
冒険者協会の中はそこまで広くないため、ほぼ全員からの視線を受け、さすがのルーシャも身構える。
「安心しな嬢ちゃん、このむさ苦しい野郎どもから守ってやるからよ」
「1番むさ苦しいのはお前だよ!」
大剣使いの男が決めゼリフを言うとすかさず野次が飛ばされる。
「ところで嬢ちゃんは何しに来たんだ?」
「1番強い人のお話を聞きたくて」
武勇伝を聞きたい……だと!?
冒険者とは武勇伝を語りたい人種である。それが可愛い少女であるなら尚更である。ええ!すごい!、お強いんですね!と言われたいのである。
勿論ルーシャはトップの実力を測るための指標にするために話を聞きに来ただけだが、そんなこと冒険者達が知る由もなかった。
「野郎共!今日こそ冒険者協会一の実力者を決める戦いを行う!」
「「「おおーー!!」」」
「優勝者にはあの銀髪の美少女とお話する権利が与えられる!」
「「「うおおおおおお!!!」」」
なんだか騒がしいですね……トップの実力が知れれば、それで良かったのですが。ですがせっかくなのでその他の冒険者の力量も見ておきましょう。
ルーシャはあわよくばトドメまでさして欲しいと思いながら冒険者達と共に訓練場に進むのだった。