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第4話「使い道なんてないのに?」

読んで頂きありがとうございます!


「じゃあ、俺たち2人とも居ないが、不用意に外に出ないように」


「分かりました。お気をつけて」


ここ何日かロイとライヤの2人から、何かと理由をつけて見張られていたルーシャはやっと自由に動けると一安心していた。


やたらと厳重に監視と外出禁止をロイさんとライヤさんに強いられていましたが、怪しいというだけで犯罪者でない私を表立って監禁することは出来なかったようですね。


実際は犯罪に巻き込まれないように守ろうとしての行動だったがルーシャはそれに気づいていなかった。


騎士団の詰所から出たルーシャは念の為騎士団の目につかないように裏手を通りながら街を見て回った。その中で一際賑わう店を見つけたルーシャは情報収集の為、店の中へと入っていった。






昼間から酒に溺れる人間は多く、とある酒場のマスターは今日も冒険者崩れたちに酒を出していた。


料理や酒の注文を捌ききり一息ついていると、こんな酒場には場違いな1人の少女が入ってきた。綺麗な銀髪をした14くらいの子だった。少女は誰かとの待ち合わせにこの場所を選んだのかと思ったがカウンターに1人で座ってきた。


「悪いな、お子様に酒は出せない」


「お酒の種類はもとより知らないので飲む気もありません、あぁ、でも何も頼まない訳にはいきませんよね。ホットミルクをお願いします」


マスターは吹き出しそうになった。ホットミルク!?酒場でホットミルク!?置いてないわ!


「……うちには置いてないな、お前さんでも飲めそうなのは……葡萄ジュースくらいか」


「では、それをお願いします」


マスターは困惑していた。なんでこの少女はこんなに堂々と酒場でホットミルクや葡萄ジュースを頼むんだ。吹き出すのを我慢しながら、本来売り物では無い葡萄ジュースをコップに注いでルーシャに渡した。


「ありがとうございます。マスターさんの右腕は怪我したのですか?」


「なんで分かった?傷口はもう見えねぇのに」


酒場を始める前は冒険者をやっており、その時の怪我によって後遺症で右腕の感覚が鈍いことを見抜かれたマスターは驚きながらルーシャに聞いた。


「動きに違和感を感じまして。この街の防衛は大丈夫なのですか?この広い街を騎士団だけで守っているのですか?」


「街の中で負った怪我じゃないさ。この街を守っているのは騎士団だけじゃねえな。人同士のいざこざは騎士団が出るが、魔物や魔族が来たとなれば魔道士協会や冒険者もこの街の為に戦ってくれる。お前さんが心配するようなことは起きねえと思うぞ」


魔道士協会と聞いてルーシャは表情を曇らせた。岩の肌を持つゴーレムや硬い皮膚を持つオークは剣に対して有利に戦えるが動きが遅く魔法を躱せないので勝機は薄い。素早い魔物でも腕利きの魔道士であれば魔法を当ててくるため魔道士協会がこの街にあるのは厄介だった。


「魔道士協会はどちらにありますか?」


魔族は無意識的に魔法を発動できる分研究が進んでいない。ルーシャは何か情報を得られないかと魔道士協会に向かうことにした。


「ツテがなきゃ相手にされないだろうよ。魔道士は気難しい連中だしな」


「へー。魔法に興味があるかんじ?」


不意に横から声がした。いつの間にか隣に座っている男がいた。マスターはポツリと男の名を言った。


「フォルテ様……」


「んー、諦めな。たぶん才能ないな」


フォルテはルーシャをジッと見ると、吐き捨てるように言った。しかしルーシャは別に自分が使うわけではなく情報として知りたかった為才能の有無等どうでも良かった。


「使えなくてもいいんです。ただ知りたいと思いまして」


ルーシャは魔法を使えるがわざわざ使えると言う必要も無いと判断した。


「知ってどうすんの?使えもしないのに。時間の無駄だと思うよ」


「ただ……知りたいだけではダメでしょうか?」






この女の子……全然怯まないな。


酒場で飲んでいたら魔道士協会という単語が聞こえたのでそこに所属しているフォルテは興味を持ち近づいたのだが、夢見がちな年頃の少女が話していると知ってガッカリした。


いるんだよね、魔法はキレイで~とか、かっこいい~とか言って遊び半分で覚えようとする人。


魔法は才能が9割だ。見たところ魔力はほぼなし。それでも詠唱を完璧にしてしまうと発動してしまうのが魔法の怖いところだ。身体の中のなけなしの魔力を集めて暴発して命に関わる。


だから冷たく突き放すような物言いをすれば、ビビるか怒って諦めるかと思ったんだけど、この子はそんな素振り見せない。それどころか僕が魔道士だと分かって教えてくれと言ってくる。


「やっぱり魔道士協会の方なんですね!少しでいいので教えて頂けませんか?」


全然引かないルーシャに溜息をついたフォルテは諦めたように口を開いた。


「分かったよ。ただ話を聞いてもガッカリすると思うよ。僕の魔法は地味だからね」


フォルテはそう言うと小声で詠唱をして魔法を使った。するとフォルテの身体が薄く光った。


「今の魔法はどのような効果があるのですか?」


「魔法耐性の上昇だよ。ただあくまで上昇で無効化じゃない。魔族の使う魔法は威力が高すぎて戦場で意味がなかった」


あぁ、今でも思い出す。何年もかけて己の手で完成させたオリジナルの魔法を仲間たちにかけて魔族と対峙したあの日を。


結論から言って無意味。そりゃ人間の放つ魔法を防げる程度の防御力じゃ、魔族の魔法は防げなかった。それでもそれなりにダメージの軽減は出来ると思っていた。それすらも叶わず仲間の腕は1発の魔法で切り飛ばされた。



「魔族の使う魔法の威力……人間の魔法なら効果があるということですか?」


「まあね。だが国家間での戦争でも起きない限り活躍するタイミングはないと思うよ。あーあ。何年もかけて作った魔法だったんだけどな」


そう言うと少女は俯いて震えていた。魔法を遊び半分で使うと危ないから言いたくなかったのもあるが、もう一つ理由があった。フォルテは自分の魔法をあまり話したくなかった。しかし少女があまりにも純粋な目で教えを乞うものだから話してしまった。


少女の反応を見るにこの後、そんな魔法しか使えないのかとバカにされるか偉そうな態度で否定したことを謝罪でもさせるのかと思ってしまった。


しかしこの少女は違った。





この青年の魔法を魔族内で広められれば勝率が一気に上がるじゃないですか!


ルーシャは自分の運の良さに震えていた。たまたま入った酒場でこんな逸材に会えるとは。魔族は攻撃魔法を使えるものはいるが防御魔法は使えない。だが原理が分かれば使える者も出てくるかもしれない。


ルーシャは顔を上げフォルテの両手をとった。


「とてもすごいじゃないですか!」


「すごい?使い道なんてないのに?」


「仲間を守る為の魔法を作るなんて素敵じゃないですか、まさに私が求めていた魔法です!それに使い道がないなんてことありません」


ルーシャの言葉にフォルテはハッとした。そうか、この少女はこの魔法の防御力なんてことは気にしてなくて、仲間を守るための魔法を作ったことを褒めてくれているのか。「求めていた」というのはこの子にも守りたい人が居るのかもな。ならば僕のすることは一つか。


「君の名前は?」


「あっ、すみません。名前も言っていませんでした。ルーシャと言います」


「さっき聞いたかもしれないが僕はフォルテだ。さっきは悪かった。才能がないから諦めろなんて言って……人間は誰しも少なからず魔力を持っている。だから待ってて欲しい、君も安全に使える魔法になるように頑張るから」


魔法自体の魔力の消費を抑え、詠唱の中に魔力制御も組み込んだ上で強度を上げる。そんな、魔法を効率化したうえで効力を上げるなんて前例はない。だけどやって見せようじゃないか。1度出来上がった魔法が弱かったからって挫折した情けない僕を、奮い立たせてくれたルーシャの為に。


「マスターこれお会計!ルーシャの分も!」


フォルテは勢いよく立ち上がるとお金を多めに置いて走り出した。このあと教えてもらう為の交渉をしようとしていたルーシャは驚いて声を上げる。


「えっ!?どこ行くのですか!?」


「完成したら君に一番に教えに行くから!」


フォルテが居なくなり取り残されたルーシャは唖然としていた。


完成してるじゃないですか……人間の魔法を防げたら十分なのに。いや、人間と対立する気があると見抜かれて逃げられてしまったのでしょうか。魔法を見ただけでは使い方なんて私では分かりませんよ……


ルーシャが落ち込んでいるとマスターが1杯の飲み物をルーシャの前に置いた。


「あのフォルテ様がやる気になるとは、お前さんすごいな。ほらホットミルク。なんで落ち込んでんのかは知らんが元気だせ」


「無かったはずでは?」


「お前さんが飲みたがってると知って店に来ていた客が買ってきてくれたんだ。その客は……もう帰ったか」


わざわざ買ってくるお人好しが人間にはいるのかと困惑しながら、ルーシャはその客が来たらお礼を言っていたと伝えて欲しいとマスターに頼んだ。



ルーシャが大きなチャンスを逃したことに落ち込み、ちびちびとホットミルクを飲む姿があまりにも可愛らしくて、酒場中の視線を集めていることにルーシャが気づくことはなかった。



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