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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

DQN王子の婚約者ですが、私は悪女ではありません!!~DQN令嬢の結婚~

DQN系オラオラ(ガチ)王子

 私の婚約者の第四王子を人は皆こう言う。



 スーパーDQN王子と…。




 それは何の変哲もない一日になるはずだった穏やかな昼下がり。


「そろそろ兄貴たちぶっ殺そうぜ!」


「いきなり何を言ってらしているのでしょうか?おほほ。まだ春は遠いのですけど」


 王宮にあるゲストルームの一室にて私の婚約者であるラザロスがとんでもないことを言いだした。


「何言ってんだよ。春まで待ってたら遅いっつーの!今すぐぶっ殺さなきゃ!間に合わなくなっちゃうじゃないか!」


 ラザロスは剣を鞘から抜いてぶんぶん振り回す。そのたびに部屋にあるお高い調度品がバラバラに壊されていく。こういう奇行は多くの人に目撃されている。だからこそ良くない噂が飛び交っているわけで…。私は眉間に手を当てる。


「ラザロス殿下」


「俺たちは婚約者だぞ。呼び捨てでいいって言ってるじゃないか!」


「殿下。ラザロス殿下。あなた様の兄上様たちは我が国が誇るべき偉大なる方々です。徳でもって臣民に慕われる第一王子殿下。武でもって覇を謳い王国を守護する第二王子。文でもって政を大過なく治める第三王子。この三人が我が王国を纏めて他国の侵略から守っているのです。その三人を殺すだなんて、それはとても恐ろしい罪でございますよ」


「は?お前、俺の婚約者のくせに、他所の男を褒めるの?なに?何様?」


 第四王子の目が怖い。すごい冷たい目で私を睨んでいる。そして私に近づいてきて両手を掴み、頭よりも上にあげさせられて無理やり立たされた。彼は左手だけで私の両手を抑えつける。女の私にそれを振りほどくことはできない。


「褒めるとかそういうことではありません!ただ事実を申し上げているだけです!」


「気に入らないな。兄貴たちを褒める言葉がお前の唇から出てくるのがな」


 ラザロスの右手が私の唇を撫でる。噛みついてやりたい…。だけどそんなことをしたら、彼に何をされるのか。考えただけでも恐ろしい。


「殿下。なぜそのような恐ろしいことを考えたのですか?血が見たいならいつものようにドラゴンを狩りに行くなり、盗賊団や海賊船を襲えばいいでしょう?」


 このラザロスはれっきとした王族だ。なのにDQNなんて言われてしまうのは、普段の行いがすごく悪いからだ。王宮を抜け出したと思ったら、ドラゴンの首を持って帰ってきたり。一人で街に繰り出して犯罪シンジケートを皆殺しにして、その財産を自分のぽっけに入れてみたり。貴族の夜会に芸妓や娼婦を連れ込んでハーレム楽しんでみたり。一つたりともロクでもないことしかしていない。王様はすでに第四王子については教育することさえ放棄したと噂されている。でも逆にやんちゃするのが可愛いのか、年老いてから生まれた一人息子だからなのか、王妃殿下はラザロスをしこたま甘やかしている。(第一王子~第三王子やほかの王女たちは皆側妃たちが生んだ。ラザロスは正妃の唯一の子供である)私がラザロスの婚約者になったのも、ラザロスが国一番の美人がいいなどと王妃(ママ)に頼んだ結果、私が伯爵家からデリバリーされた結果なのだ。ちなみにわたしはもともと第一王子の婚約者になることが内定していた身である。兄貴の婚約者を奪うとかマジでDQNだと思う。王子さまと結婚できるとしたときの幸福感から、相手がこのDQNになったときの絶望感のジェットコースターは二度と味わいたくない。


「あいつら気に入らないんだよね。俺より先に生まれただけで、この国は俺らのもんみたいな顔してるじゃん?そういうの腹立たない?俺はメッチャ立つよ。立ちまくりだよ」


 無駄に綺麗な顔でどうしようもない理由をつらつらと述べるこのDQNに私はいつも振り回されている。最近じゃ私のことをDQNの婚約者だから、物語に出てくる悪役令嬢みたいだと人々は囃し立てるし、あるいはDQN(王子の婚約者の)令嬢などという蔑称さえもついたのだ。


「早くあいつら血祭りにあげたいわー。ばらっばらにぶち殺してやりたいわー!」


 このDQNの嫌なところは有言実行なところである。私がまだ婚約者になる前からそうだったけど、この男の我儘は間違いなく果たされる。だから説得は難しい。だけどもしかしたら軌道修正くらいはできるかもしれない。


「あの。殿下は本当は兄上様方を殺したいのではなく、次の王になりたいとか。そういうことではないのでしょうか?」


 えてして人間は口に出す願望と本当の願いが違うことが多い。このDQNは本来ならば一番王座に近いはずの血筋なのに、側妃たちの産んだ異母兄弟たちが自分よりもずっと年上で、もう後継者指名も終わってしまい、それに拗ねているだけなのかもしれない。


「ん?あー。あいつら殺したら俺が次の王になるのか…。ん?でもそれだとあれか?まずは王太子になるってことだよな?…めんどくさい!どうせ王になるなら今すぐになる!ついでだ!父上もぶっ殺す!そんでもって王になろう!」


「ええぇ?!わたくしの言葉のせいで犠牲者が増えた?!待ってください!殿下!ラザロス殿下に王になる準備はございますか?!」


「王になる準備?それってなんか必要?この国にはしっかり官僚機構が揃ってるし、王様が脳みそ空っぽでも国はちゃんと回るぞ」


「理知的な回答がムカつきますわ!では質問を変えます。王になって何かやりたいことはあるのですか?」


 私がそう言うとラザロスは首を傾げる。


「いや。強いて言うならそろそろ戦が起こりそうな空気を感じるから、その勢いで周りの国々を併呑したいなって思うくらい?」


「ナチュラル侵略主義?!」


「ていうか俺があいつらを殺すことにしたのって、お前のためなんだけど」


「は?わたくしのため?なんでですか?全然意味がわからないのですが?」


「俺だって馬鹿じゃない。お前が第一王子の婚約者から第四王子の俺の婚約者になったことを嘆いてわんわん泣いたことくらい聞いている」


 たしかにこのDQNへの嫁入りが決まったときには、死ぬほど泣いた。家出してやろうかと思った。でも家出なんかしたら、残された家族がこのDQNに殺されるのは確実だろう。だから泣く泣く話を受け入れたのだ。


「だから俺がこの国唯一の王子になれば、お前だって悲しまずにすむだろ?違うか?」


「…論理は通ってるけど!言ってることがすごく怖い!」


 DQNの思考が全く理解できない。そしてラザロスはスラックスのポケットから小さな小箱を取り出して開けた。中には指輪が入っていた。


「お前を婚約者にするためには王妃(ママ)の力がどうしても必要だった。でもこれだけは俺の口から言いたい」


 ラザロスは右手だけで器用に箱から指輪を取り出して、まだ押さえつけている私の左手の薬指にそれをはめた。


「この国を今から分捕ってくるので、俺と結婚してください」


 とても綺麗な顔で、爽やかな笑みを浮かべてラザロスはそう言った。だけどいまだに私の両手は頭の上で抑えつけられたままだ。拒否権なんてなくない?ないよね?そしてラザロスは私から手を離すとすぐに部屋から飛び出した。









 そのあとの王宮は阿鼻叫喚の地獄だった。

 第一王子、第二王子、第三王子は見事にぶち殺され首を晒され、王様は国宝の剣で胸を刺されて死んだ。その後この非道に反発する貴族たちが兵を挙げたが、軍部と財務省以下官僚機構を味方につけた王妃のバックアップにより、反対派の貴族は悉く粛清され、領地は没収。日和見決めていた貴族たちも難癖付けられて領地を没収されて、気がついたら中央集権型のバリバリな独裁国家が誕生していた。そしてDQNは王様になった。有言実行するDQNすごい。指輪を薬指にハメられちゃった私は王妃にならざるを得なかったのだ。





そして後の世の歴史書で私は、大陸を統一して世界唯一の超大国を作り上げたラザロスを結婚することを餌にクーデターをそそのかした悪女として歴史に名を刻むことになったのだ。




完。

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