3
私が行くべきところ? 親友は、それ以上教えてくれなかった。私が考えなければいけないのだ。大学? それとも、実家? それよりも、はっきりしている恐ろしいことがある。絵を手に入れるために、私は家から出なければならない。
先生の形見とも呼べる絵を、取りに行かない選択肢はなかった。のろのろと、私は外に出るための服に袖を通した。すごく久しぶりな気がする。ずっと、スウェットで過ごしていたから。
玄関で、靴を履く。足が重かった。外に出てはいけない。一ヶ月近く私を縛りつけてきたその命令が、がんがんと警告している。先生が死んでしまう。先生がいない世界に、来てしまう。
だけど、先生はもう死んでいる。家に閉じこもってその事実をせっかく否定していたのに、親友が二度もその知らせを運んできた。もう、私の世界はとっくに崩れてしまっていた。
アパートの外階段を降りると、電話が入った。
『家を出た?』
親友だった。
『じゃあ、次行くところを教えてあげる。△△線の下りのバスに乗って。降りるバス停は○○○。いいね。乗り過ごしたらめんどくさいからね』
着いたらメッセージちょうだい。そう言い残して、電話は切れた。訳が分からないままに、私はバス停に向かう。久しぶりに外を歩く私を、皆がじろじろ見ている気がした。
太陽は温かくて、風が金木犀の香りを運んでいる。だけどそんなはずはない。先生が死んでしまったのに。
指定のバス停で降りると、電話がまたかかってきた。
『これからちょっと歩いてもらうよ。大きい道を、ローソンが見えるまでひたすらまっすぐ歩いて。ローソンの角で、右に曲がって。ラーメン屋のところまで来たら、また連絡して』
……親友は、一体どこに絵を隠しているのだろう?