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ある日、私の家に、親友が上がり込んできた。
彼女は何故か、合い鍵を持っていた。大きな鞄を大事そうに抱えて、怒ったように口を引き結んで私の前に立った。
彼女は、私の母から鍵を預かってきたのだと言った。
「あんたがあれから全然連絡しないから、皆心配してる。実家に聞いたら、家に引きこもってるって言われた」
何やってんの? 親友は私を詰る。
「大学もサボるつもり?このままずっとここでうじうじして、腐っていくの、それでいいの?」
私には答えられない。彼女は呆れたように溜息をついて、それから鞄を開けた。
「これ、あんたの分。先生の絵」
私ははっとした。
親友は、そっとキャンバスを覆う紙を外し、剥き出しになった絵を私の目の前に突き出した。
生生は、卒業する部員一人一人のために、毎年絵を描いてくれた。それはたいてい、似顔絵ではなく違う何かの模写だった。抽象画の時もあった。卒業式の時か、遅い時には卒業してから一年くらい後に絵は贈られた。
私はその絵を呆然と見つめた。キャンバスの中にいたのは、羽の沢山生えた天使だった。私のための絵である証拠に、私の名前が下に書かれていた。
福山悠生。
戸惑う私から、親友は絵を取り上げた。そしてまた紙に包み、鞄の中にしまい込んだ。
「これは、今は渡さない。取りに来るのよ。あんたが」
私は手を伸ばして、絵を奪おうとした。だけど、親友が立ち上がる方が早かった。
「あんたが行くべきところに、これは置いてくる。今日中に、取りに来なさい。そうしないと、夜のうちに絵がふやけちゃうよ」
親友はさっさと帰ってしまった。