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 トアンやルイと話していて、ロゼには気づいたことがある。


 自分の知識はかたよっている。それはわかっていたことだ。でもその中でも、自分からは組織としての精霊教、神官たちの国ごとに異なる立ち位置など、精霊教と政治にまつわる知識が抜け落ちている。精霊教の本拠地ともいえる聖都にいたのに、何も知らない。

 そのかわりに自分に詰まった知識は、「世界録」や「精霊とたてがみ」など、精霊や大陸の古典文学や霊唱の知識ばかりだ。


 それは偶然だったのだろうか。あの塔に置かれた書物に、届けられた資料に、恣意性はなかったか。


(わからない)


 トアンはロゼが霊唱を止めることに成功した後、早々に去っていった。「他にもできることがあるか、試してみたらどうだ」、そう言い残して。


 だからその後、ルイとしばらく出来ることの可能性について話をした。複数の霊唱を一度に止めることは?すでに歌われた霊唱陣に対しても、書き換えではなく消すことは?

 ロゼは自分が書き換えしかできないと思い込んでいた。だけどもしかしたら、もっと出来ることがあるのかもしれない。でも出来たといってそれを何に使えばいいのだろう。自分はもう「愛し子」ではないのに。


 煉瓦亭に戻ったロゼは、ベッドに転がって霊力の塊を眺めながらぼんやり考える。


(どうしてトアンさんは、「精霊とたてがみ」の話をしたの?)


 彼にはまるで、ロゼがどうしたらいいかわかっているようだと思った。驚いたように口では言いながら、でもあの人は、最初からわかっていたんじゃないのか。


(トアンさんは、何を知っているの?)


 ロゼはトアンが自身に何も聞かないと思った。けれど実際には、ロゼだってトアンに自分からは何も聞いていない。二人は世間話や精霊の物語についてばかり話し、一度として何か、本質に触れるようなことは話さなかった。


(聞いたら、教えてくれるんだろうか)


 最近のカレンやアスランたちとの出来事は、些細なことだがロゼの考え方を少し変えた。人との関わりは、自分の働きかけ次第で変えることが出来る。自分から動くのは恐ろしいことだとも知った。拒絶されること、傷つくこと、それといつも隣り合わせなのだ。

 でも、知りたいならば、近づきたいならば、聞かなければ。


(お兄様……お兄様も、聞いたら教えてくれますか?)


 ロゼは自分でそうと決めないままに、もう逃げ出すことは考えていなかった。


 この街が好きだ、森が好きだ、煉瓦亭が好きだし、カレンや人々が好きだ。


(私には何が出来るだろう。何をすべきなんだろう)


 手に持ったままの石は答えない。けれどロゼにはなぜかそこに答えがある気がして、いつまでも眺め続けていた。

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