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「本当になんでもないよ。ちょっと霊唱に詳しいだけ」
「ちょっとだあ?意味わかんねえ。詳しく教えろ」
ルイほど明け透けな話し方をする人に、ロゼは初めて出会った。でも嫌な感じはしない。
「ルイは神官なの?」
答えたくない質問には質問で返すか、相手のわからないことを並べ立てて煙に巻くのが良いらしい、とはトアンの言動から察し始めたロゼである。口八丁の大神官のようにはいかないが、ロゼだって別に馬鹿ではない。
思惑通りというべきか、ルイはロゼの質問に少々鼻白む。
ロゼは彼が霊唱するところを見た。最初は、それ以前に残されていた陣の特徴から彼らが南の歌い手だと思い込んでいたが、実際の霊唱を聞いた印象は異なった。良くも悪くも教科書通りの、「神官らしい」霊唱だと感じたのだ。
ルイは渋々といった風に認める。
「まあな。でも俺は神官っていうより神兵もどきだ」
「神兵もどき」
「俺は東のドーヴルからきた。あそこの養成学校に通ってたんだよ。下級神官からの神兵狙い。珍しい話じゃないだろ」
それが珍しい話かそうでないのかはロゼには判断がつかなかったが、話の腰をおりたくなかったので頷いておいた。
「それで、どうしてリーヨンに?どうしてトアンさんを捕まえようとしたの?」
「それは……色々あんだよ」
「色々」
色々だ、とルイは言葉を濁した。ロゼは特段気にせず、そうなんだ、と答えて続ける。
「滅びの霊障を知っているのは」
「それも色々に含まれてる」
つまり詳細を話す気はないということなのだろう。ならばこちらも。
「私も色々あるから、お互い大変っていうことにしよう」
「……」
ルイは納得のいかない様子だったが、自分の事情を話せないからにはこれ以上ロゼを詮索できないとも感じたようだった。しばし黙ったルイだったが、ついに決心したかのようにテーブルに身を乗り出し、
「じゃあ、書き換えのやり方、教えてくれ」
「え」
「あんなことできるやつ初めて見た。俺もやりたい。教えろ」
そんなことを言われたのは初めてだ。
これまでロゼは自分が「書き換え」できることを誰にも言ったことはなかったので、やり方を聞かれる機会ももちろんなかったというだけだ。
そういえばトアンには一度も「どうやっているのか」を聞かれたことはなかった。書き換えについてだけではない、
(あの人は私に何も聞かない)
「そうと決まれば、行こうぜ!」
ロゼが何かいう前に、それはすでに決定事項になってしまったようだ。慌てて言うことを探すロゼに、すでに立ち上がったルイは支払いを済ませようと歩き出してしまう。
「待って待って、自分で払うよ」
「いい。無理やり連れてきたの俺だし」
無理やりと言う自覚はあったのだ。ロゼは軽く驚いた。
しかしなぜわざわざカフェで、それにケーキまでついてきたのだろうか。ルイは、意図がわかりかねて怪訝な顔をするロゼに気づくと、
「『街の人々に良く振る舞え』とこえーやつに命じられてる」
と言った。それをルイに言ったのが誰なのか、ロゼにはよくわかった。
そうしてロゼはルイに流されるままに、シュリヨンの森で「霊唱教室」を開く羽目になってしまったのだった。




