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休憩2:トアンとアスラン

「ロゼを気に入ったんですか?」


 アスランは何の気なしに尋ねたが、片眉をあげたトアンが意味深な視線を送ってきたので、また自分は言わない方が良いことをいったかと少々焦った。


 最近トアンの後ろをついて歩くロゼの姿をよく見かける。街のあちこちを歩いて回っているようだ。自分がこの人にそうさせられたように、街の案内でもさせているのかと思ったが、それにロゼを持ってくるのは人選を間違っているだろう。ロゼは滅多に中心街にやってこない。


 アスランはその日、珍しく書類仕事をするトアンに手伝いを命じられそこにいた。

神殿は入り口から広がる礼拝の間から、裏にはいくつかの小部屋と神官たちの宿所が繋がっている。そのうち、位の高い神官が訪れた時のための部屋がここだ。


 トアンは質問には答えず、


「気になるのか?」

「いや、その、まあ、ロゼは俺の妹みたいなものなので……」


 妹か、と呟き、また手元の紙に視線を戻してしまった。先ほど聖都の急使が届けたなにがしかの通知だ。トアンはしばらくそれを眺め続けている。


 会話を終わらせようとする空気を感じて、慌ててアスランは続けた。


「その、ロゼには優しくしてやってください。世間知らずで、でも一生懸命な子なんです。詳しくは聞いてませんけど、きっとこれまでも大変な思いをしてここにたどり着いたんだと思います」

「ほう、なぜそう思う」

「え、だってあの様子ですよ。きっと深窓の令嬢か何かだったのが、訳あって逃げ落ちることになったんじゃないかと……」


 はは、とトアンはわざとらしく声をあげ、大して面白くもなさそうに笑う。


「興味深い妄想だな。お前は神官より作家が向いているんじゃないか」

「う……話を逸らさないでくださいよ」


 トアンの、人をからかって話をはぐらかせる手法には、アスランだって慣れてきた。


「令嬢が森の野草を採集して遊ぶか?とんだ趣味だ」

「そうですけど、でもそうとしか説明がつかないかと……」

「知りたいなら本人に聞けばいいだろう」

「詮索したい訳じゃないんです。辛いことを思いださせたくないし……」


 アスランの中で、ロゼが没落貴族の令嬢であることはどうも確定らしい。トアンは引き続き呆れ顔で、アスランを見る。


「常識に捕われて本質を見過ごさないことだな。『神霊を解しそれと対峙せよ。彼らを敬いそれを乞え。さすれば導かれん』」


 まるで詩を読むようにトアンが言う。


「なんですかそれ」

「世界録くらい読め。良い本だ。人付き合いのことまで教えてくれる」

「ロゼは神霊ですか」


 アスランが返すと、トアンは楽しげに笑った。


「自分じゃないものを理解するには、正面から向き合ってまずは相手を尊敬しろ、という教えだ」


 なるほど……と神妙に頷いてしまってから、どうやら自分はまた煙に巻かれているらしいとアスランは気づいた。


「そういうのはいいですから!とにかく俺が言いたかったのは、ロゼをあんまりいじめないでやってくださいってことです!」

「はいはい」

「俺は真面目に言ってるんですよ!」

「わかったわかった。怖い「お兄様」だ」


 いじめてなどいないさ、とトアンがうそぶく。目を細め、何か楽しいことを思い出すように薄く笑いながら。


 確かにアレは神霊と向き合うようなものだな、とは、トアンは口に出さなかった。

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