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休憩1:ロゼとトアン

 時は事件よりも遡り、ロゼとトアンが日がな「散歩」を続けていた頃。

 今日も今日とて、ロゼはトアンと街を歩き回りながら、雑談を重ねていた。


「トアンさんって、体を鍛えてるんですか?」

「ああ」


 まじまじと身体をみるロゼに、神官がみんな軟弱者だと思ったか?と体格の良い男はからかうように笑う。


 正直ロゼの彼らに対する印象はそれに近い。アスランもそうだが、どちらかというと痩身で、線の細い人が多いように思っていた。


 表情からロゼの考えを見透かしたように、トアンは続ける。


「神官にも色々いる。聖都の神官たちは細いやつが多いかもな。あそこは官職や研究職の人間が集まる場所だ」

「ああ、そうなんですね」


 なるほど、ロゼはこれまで聖都の神官しか見たことがなかった。


「中級以上の神官になれば、あらゆる道がある。配属される国によっては兵士まがいのことをしている神官もいるぞ」

「霊唱で戦うんですか?」

「いや、戦わない。「防衛のためのやむを得ぬ攻撃」だ」


 それを戦うというのでは、と思ったがロゼは言わずにおいた。社会には色々な立場やしがらみがあるらしいと、多少学んだ。


「そういった神兵の養成機関も世の中にはある。東の国ドーヴルは良い例だ」

「ああ、王都エルファーレのある国ですね!『麗しの花咲き乱れ、乙女が舞う街エルファーレ』」

「また世界録か。アンタは本当にあれが好きだな」


 そういうトアンも、すぐに本の名前が出てくるあたりかなり読み込んでいる。ロゼが脈絡なく本の記載を引用するたび、アスランなどは「何かの本?」と首を傾げていたが、トアンは都度話に乗ってくれる。

 愛する本についてを第三者と語り合える日がくるとは夢にも思わなかったロゼは、そうとわかって以降、あらゆる文献や記録の内容を躊躇なくトアンの前で話す。


 ずっと一人で向き合っていた言葉たちに、誰かから新しい解釈が与えられるというのは、得難い体験だ。

 エルファーレに関する記述を思い起こしにこにこ笑うロゼを、トアンは楽しげに見ている。


「アンタの知識はアンバランスだな。何かに異常に詳しいかと思えば、誰もが知っていることを知らない」

「はい、すみません!」

「すぐに謝るクセは直せ。つけ入れられるぞ。それに、謝ることじゃない」


 見てておもしろいしな、と付け足す。

 ロゼはいつも思う。トアンはいじわるだが優しい。優しいというか、大人の余裕がある。この人は他人を教えたり導くのが上手な人だ。


(なんていうんだっけ、そういう人……)


 年からすれば兄、しかしロゼの中の兄像はあの目にも眩しい愛し子の兄で、父、はもはや人間を超越した存在になってしまう。先生、そうだ先生、それもある道に精通した……。


「はい、トアン師匠!」


 思いつきに気を良くして勢いよくそう呼んだロゼに、トアンは渋面をつくった。


「なんだそれは。やめろ」

「いや、トアンさんって、むしろトアン先生とか、トアン師匠って感じだなと思って」

「イヤだ。やめろ。トアンでいい」


 一生懸命拒否されてしまった。

 ぴったりだと思ったのに……と口を尖らせる様を呆れたように見て、トアンはロゼの頭に手をおく、と思うや否や、わしゃわしゃと髪を乱された。


「ああっ、やめてください、お団子頭つくるの大変なんですよ」

「ハハ、弟子が師匠のやることに文句をつけるな」


(呼ぶなと言ったくせに)


 ロゼは一層不満げにトアンを見たが、男はただ楽しそうに笑うばかりだった。


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