すする鼻水さえ愛していると誓って
「先輩。私とご飯食べに行ってくれませんか」
会社の野暮ったい作業着が似合わない宮野さんが、恥じらいを持ちつつお伺いを立ててきた。
甘めたっぷりのベビーフェイスで俺を上目遣いで見つめる。あざとすぎる女子はいかがなものかと思うが、宮野さんだったら全然構わない。
むしろもっとしてくれと親指を突き立ててしまう。
「俺でよければいつでもいいよ」
あくまでなんてことない。余裕ぶった態度で対応する。
心臓が飛び出す勢いで高鳴る音は聞こえないように。
「本当ですか! 嬉しい」
「あはは、そりゃ光栄。じゃあ来週の月曜日なんてどう? 宮野さんが食べたいもの考えておいて」
「はい! 楽しみにしています」
跳ねるように走っていく後ろ姿に「転ぶなよ」と声をかけ、動揺を抑えながら震える指で煙草に火をつけた──ところで喜びの味を噛みしめる。
(マジかマジかマジか!)
まさか彼女から食事に誘ってくれるとは!
後輩の中で一番懐き、一番可愛いと思っていた癒しの宮野さんが、俺と食事に行きたいだと?
社畜街道まっしぐらの俺に神様が授けてくれた、最高イベントフラグに圧倒的感謝!
同期ににやついていてキモいと指摘されるまで、浮かれきっていた俺が「フレンチかな。イタリアンかもしれないな」と対策を練っていたのが先週。
宮野さんに連れられてやってきた場所はチェーン店のラーメン屋。
チェーン店のラーメン屋?
「にんにくチャーシューマシマシとんこつベース麺かためトッピング味玉」
軽やかに呪文を唱えながらピースサインを厨房に向ける宮野さんに、衝撃で飛んでいた意識を戻した。
マジかぁ。
運ばれてきたラーメンに満面の笑みでがっつき始めた彼女を見つつ、ラーメンを口に運ぶ。
確かに美味しい。でもこう──なんか想像と違う!
「へへっ……美味しいですね先輩」
鼻水をすすりながら宮野さんが幸せそうな笑みを向けた。
(これはこれで……可愛いか)
それもこれも君だから。なんて言葉は麺と一緒に飲み込んだ。