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800文字ショートショート

すする鼻水さえ愛していると誓って

作者: 一色 良薬

「先輩。私とご飯食べに行ってくれませんか」

 会社の野暮ったい作業着が似合わない宮野さんが、恥じらいを持ちつつお伺いを立ててきた。

 甘めたっぷりのベビーフェイスで俺を上目遣いで見つめる。あざとすぎる女子はいかがなものかと思うが、宮野さんだったら全然構わない。

 むしろもっとしてくれと親指を突き立ててしまう。

「俺でよければいつでもいいよ」

 あくまでなんてことない。余裕ぶった態度で対応する。

 心臓が飛び出す勢いで高鳴る音は聞こえないように。

「本当ですか! 嬉しい」

「あはは、そりゃ光栄。じゃあ来週の月曜日なんてどう? 宮野さんが食べたいもの考えておいて」

「はい! 楽しみにしています」

 跳ねるように走っていく後ろ姿に「転ぶなよ」と声をかけ、動揺を抑えながら震える指で煙草に火をつけた──ところで喜びの味を噛みしめる。

(マジかマジかマジか!)

まさか彼女から食事に誘ってくれるとは!

 後輩の中で一番懐き、一番可愛いと思っていた癒しの宮野さんが、俺と食事に行きたいだと?

 社畜街道まっしぐらの俺に神様が授けてくれた、最高イベントフラグに圧倒的感謝!

 同期ににやついていてキモいと指摘されるまで、浮かれきっていた俺が「フレンチかな。イタリアンかもしれないな」と対策を練っていたのが先週。

 宮野さんに連れられてやってきた場所はチェーン店のラーメン屋。

 チェーン店のラーメン屋?

「にんにくチャーシューマシマシとんこつベース麺かためトッピング味玉」

 軽やかに呪文を唱えながらピースサインを厨房に向ける宮野さんに、衝撃で飛んでいた意識を戻した。

 マジかぁ。

 運ばれてきたラーメンに満面の笑みでがっつき始めた彼女を見つつ、ラーメンを口に運ぶ。

 確かに美味しい。でもこう──なんか想像と違う!

「へへっ……美味しいですね先輩」

 鼻水をすすりながら宮野さんが幸せそうな笑みを向けた。

(これはこれで……可愛いか)

 それもこれも君だから。なんて言葉は麺と一緒に飲み込んだ。

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