17 試行錯誤
ジェイは一緒に食事をというセレスティーヌの申し出を丁重に断ると、すぐさま宿を出て行った。
「さあ、キャロさん? 貢ものですよ?」
宿を出る前にそう言って殻付きのクルミをキャロに渡すと、カリカリと齧る姿をしばし観察していた。
相変わらずニヤニヤとしながら、アマンダとキャロ、キャロとセレスティーヌを見比べては、優しく撫でていた。
いつもは賑やかな食事になる筈だが、早々に済ませると早く休むことにする。
「明日も早いから、ゆっくり休んでね」
「わかりました」
別れ際、廊下でそんな挨拶をして各々の部屋へと帰った。
セレスティーヌはベッドに入ってもなかなか寝付けないでいた。小さくため息をついては暗い窓の外に視線を向けた。
銀色に光る月の光を眺めては、同じように窓辺で空を見上げるキャロに視線を向けた。淡い月明かりをうけ、柔らかな銀色の毛並みが闇に浮き上がって見える。
(……何だか、どんどん話が大きくなって行くわね)
国宝の一部が削り取られていたというだけでも大問題だが、更に偽金造りとは。
最初の旅行地こそ捕り物劇となったが、行く先々で出会う人々は素朴で善良な人ばかりであった。
どんな事情があってそんなことをしてしまったのだろうか。
考えを振り切るように寝返りを打っては、無理やり銀色の瞳を閉じることにした。
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宣言通り早めに宿屋を出ると、アマンダは両替商に出向いて金貨を両替した。そして一室を借りて重さを量る。
そんなことを申し出て変に思われないのかとセレスティーヌは思ったが、大量に両替した場合などはよくあることなのだという。
最近は殆どないそうだが、過去には粗悪な偽金が横行したことがあったのだそうだ。
元々アマンダが持っている金貨と両替えた金貨を同じ枚数、それぞれ量り皿の上に乗せる。天秤が水平ならば本物。傾けば偽金が混じっていることになる。
「……全っ然、全く同じね!」
息を詰めるように調べていたアマンダが、大きくため息をついた。
「金貨一枚で一般の領民の数か月分の生活費だから、早々に細かいコインと替えると思ったんだけどなぁ」
確かに。金貨をたんまりと持っていたら怪しいことこの上ないであろう。
大貴族ならまだしも、一般人なら尚のことだ。
小さな店で金貨を出されても、釣銭がないことすらあるであろう。
一応貴族の端くれであるセレスティーヌだが、貧乏貴族であるために、金貨など見ることは殆どなかった。
「確かに使い難いですよね……」
「うーん。考え方が間違っているのかしらね……」
確かに偽金と決まったわけではない。セレスティーヌが初めに考えた通り、アクセサリーや他の貴重品に使用された可能性も大いになる。
(それだと追いようがないなぁ)
そうなればと面倒である。削り取ったものを直に使用するならまだしも、まず間違いなく溶かされ、何かと混ぜられて使用されるであろう。
溶かされるのと混ぜられるのは一緒だとしても、偽金を作るのはすぐさま違法といえるが、アクセサリーを作られたのでは盗んだ金なのか、正規のルートから仕入れた金なのか解り難い上に違法性を証明し難い。
良い考えも浮かばないまま、ふたりと一匹は南下しながら両替商や銀行などを回っては同じように調べ続けていた。
幾つ目かの両替商から出て来た時に、ミミズクが空から降りて来た。アンソニーであろう。
慣れた手つきで手紙を通信管から抜いては、急いで広げる。
「…………」
「どうしたのですか?」
セレスティーヌが声をかけると、アマンダは手紙を差し出しながら口を開いた。
「彫師が、病気の家族を見てくれる医者がみつかったと言ってクラウドホースを出ているそうよ」
「……偶然かもしれませんが、怪しいですね」
セレスティーヌのもっともな言葉に、アマンダが頷いた。
「タイミング的にね」
「行き先は……?」
「フォルトゥナ領」
『うきゅぅ……』
キャロが小さく声をあげた。
同時にふたりは顔を見合わせた。