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15 彫刻がいっぱい

長いお休みをありがとうございました。

本日からフォルトゥナ領を舞台に、再開させていただきます。

今後ともよろしくお願いいたします!

 ピーヒョロロロロ。

 セレスティーヌは鳴き声に空を見上げた。 


 悠々と羽を広げたトンビが風に乗って気持ちよさそうに旋回しているのが目に入る。

 かなり目がいいというトンビだが、餌となる獲物でも探しているのだろうか。なんとものどかである。



 数か月前、セレスティーヌが家を出ようとした時に一番最初の目的地として選んだのがフォルトゥナ領だった。


 特段フォルトゥナ領に知人や伝手があった訳ではない。


 セレスティーヌが住んでいたユイットは、王都イースタンを所有するオステン領の西部に位置する田園地帯である。領を接しているのは三領と、他国の領地一領。他国に出るのはハードルが高いので見合わせ、東の端が隣接しているサウザンリーフ領は遠いので、こちらも比較的早期に見送った。


 必然的におしゃれな領地として名高いディバイン領か、程よく発展し立地も良く、田園地帯も多いフォルトゥナ領を選ぶかで迷い、実家のあるユイットに親和性を感じるフォルトゥナを目指すことにしたのであるが。


 実際は悪漢に絡まれたところをアマンダに助けられ、侍女兼話し相手として気の向くままな自由旅に同行することになったのである。


 フォルトゥナ領は東西にやや長い地形を持つ領地だ。

 隣接領も多く、北部の三領(ローゼブルク・マロニエアーブル・クラウドホース)、東のサウザンリーフ、南側にオステン、他国の二領の計七領地と接している。



 クラウドホースとフォルトゥナの領境近くで、三人と一匹は言葉を交わしていた。

 

「それじゃあ、私はクラウドホース領に戻る。暫くは中央には戻らずそちらにいるだろう」

「了解。何か判ったら連絡してね」


 旅装束を纏ったアンソニーは承知と頷く。アマンダへの報告を終えた彼はこれから肖像画(額縁の方)の修復や調査などの調整に出掛けるのだ。


 セレスティーヌへも軽く頭を下げ、颯爽と馬に飛び乗る。

 そして走って行く姿を見送って、ふたりと一匹はフォルトゥナ領へと歩みを進めた。


「クラウドホースと似て、領地の東側が比較的平地で、西側が山深いのですよね?」

「そうね。フォルトゥナ領も農業が盛んだけど、北部は畜産も頑張ってるみたいよ。美味しいお肉が食べられるかも!」


 お肉大好きなアマンダが嬉しそうに顔を綻ばせる。


「ほうれん草やおネギ、小松菜をはじめお野菜も沢山採れるそうですよ?」


 セレスティーヌが悪戯っぽくいうと、アマンダはちょっとだけ口を尖らせた。


「……お野菜も、嫌いじゃないわよ……?」

『うきゅ?』


 キャロは疑わし気な声で鳴いた。



******


 一面の特産品であるネギ畑を抜け、街道を歩いているふたりと一匹であるが、フォルトゥナ領に入ってからやたらと目に入る彫刻を前に歩みを止める。


「……この方がフォルトゥナ公爵様ですか?」


 領内の至る所に同じ人物の彫刻像を見かける。

 一見は優しそうな表情をしているが、眼光は鋭く威厳に満ちた姿だ。


 広場の中央に、ギルド前に。時に集会所の片隅に見かける数からして、かなり領民から尊敬を集めている人物なのだと予想される。


「ジェイド公爵ね。凄いなんてものじゃない数の、沢山の工房や商会を立ち上げた人よ」

「この方が……。お噂を聞いたことがあります。かなりのやり手実業家だとか」


 腕組するアマンダにセレスティーヌも頷いた。


「やり手なんてものじゃないわ。経済の父と言っても過言じゃないわ!」


 ジェイド公爵の偉業は一介の令嬢(?)であるセレスティーヌにまでも広く知られているのだが、ふとその名前に首を傾げる。


「そういえば、お名前が『フォルトゥナ』ではないのですね」


 必ずしも領地と姓が同じというわけではないのだが、今まで旅をして来た領地とそれを治める公爵家はみな同じだったために違和感を感じたのだ。


「元々は、ここもフォルトゥナ=ジェイド領だったらしいのだけど。女神の名前に宝の珠に、二つを一緒に冠するのはということで超絶昔の公爵家が二つに分けたのですって」


 更なるアマンダの説明によれば、領民に幸福をと考えフォルトゥナを領地名にし、ジェイドを家名にしたのだそうだ。


「フォルトゥナ領にとって珠――ジェイドで作ったお守りは大切な象徴らしいわ。かなり昔から重んじられてきたようで、ジェイドで作った珠が城跡や墓陵、教会跡から出て来たそうよ」

「じゃあ、その宝というか珠? を守る家ということなのですね」

「そういうことね」


 現在の王国が国として纏まる以前から存在するジェイド公爵家は、長い歴史を持つ家柄である。


(良家あるあるね)


 旧家と呼ばれる家に様々な歴史あり。豆知識的な史実に恐ろし気なホラー、笑ってしまうようなしょうもない噂話までより取り見取りだ。


 セレスティーヌは厳しい顔をした彫刻を見遣っては、この地が楽しく穏便に済むようにと願うのであった。


お読みいただきましてありがとうございます。

本作の更新は火曜・金曜日更新となります。


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少しでもお楽しみいただけましたら幸いです。

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