12 違和感の理由
「忙しい中こうして対応しているというのに、何がそんなに不満だ?」
「別に?」
お互いに仏頂面をしたアマンダとアンソニーが顔を突き合わせている。
ふたりとも身体が大きいため、威圧感と圧迫感が凄い。
頭上で何故バトルが繰り広げられているのか解らないセレスティーヌは、キャロと一緒になってアマンダとアンソニーを交互に見比べた。
「…………」
バチバチのいがみ合いではないものの、静かな緊張感が漂っているのはなぜなのか。
……喧嘩するほど仲がいいというが、本当に仲がよいのか悪いのかよく解らないふたりである。
どうしたものかと考えていると、セレスティーヌの様子を見て表情を取り繕ったアンソニーが小さく咳払いをする。
ただの咳払いすらも格好良いなんて、どういうことなのだろう。
よく見ても見なくても、モスグリーンの上着を着込んだアンソニーは、本日もまごうことなき貴公子中の貴公子であった。
「報告のあった初代王の肖像画だが、贋作ではなかった」
アンソニーの言葉を聞いてセレスティーヌはホッとする反面、ここまで呼び出してしまったことに罪悪感を感じてしまう。謝罪の言葉を口にしようと思ったところを、無言であげた右手に制される。
「だが、額縁が削り取られて幾分小さくなっているのと、ポイントとして散りばめられている宝石の幾つかが精巧な偽物にすり替えられていた」
「!!」
アマンダとセレスティーヌは息を詰め、同時に目を瞠った。
漠然とした違和感は絵そのものではなく、それを飾る額縁の大きさと宝石の違いであったのだと判明する。
肖像画そのものが手をつけられていないのは幸いではあるが、国宝の一部ともいえるもの、それも高価な金属や宝石が盗まれているというのは大問題である。
「額縁は金よね? 明らかにおかしいと思う所はなかったということは、全体的に削り直されて経年したように見せているってことね」
「そうだな。違和感を感じさせない程度に削ったとしてあの大きさだ、そこそこの量になるだろう」
「犯人は彫金の、少なくとも彫刻の心得がある人物なのね……宝石はどの程度?」
「大きなものは手をつけられていない。比較的小さな石がすり替えられている」
アマンダとアンソニーは難しい顔をしている。
金は言うまでもなく高価な金属である。そして溶かして自由に大きさや形を変えることが出来るため売買し易い。
「捌けるのかも解らない絵より、貴金属の方が有用よね」
アマンダは金の値段に思いを馳せ、削り取られた量に思いを馳せた。
国宝は、国民の財産である。みんなのために売り払われるならまだしも、極一部の人間のためだけに利用されることはあってはならないことである。
それが私利私欲のためなら尚更だ。
「昔の爺さんの絵など欲しいのは余程のマニアだからな。ましてやあの大きさだ、自分が犯人だとばらすようなものだろう。
宝石も流し易いように小さなものに狙いを定めたのだろうと思う」
アンソニーはアンソニーで、なかなかに罰当たりと言われそうな毒舌を涼しい顔のまま吐いている。
困ったような顔でふたりを見ているセレスティーヌと、その腕に抱かれているアマンダによく似た色合いのチンチラを見て、アンソニーは一瞬口をゴモゴモと動かした。
まん丸な瞳が四つ自分を見つめている様子は何ともユーモラスだが、吹き出す訳にもいかないだろう。
何とか自分を誤魔化しながら、表情を引き締める。
「タリス嬢、良くぞ見極めてくださった。……並べてみれば一目瞭然であろうが、普通、単体でしかないそれを見たとしても気づかないことだろう」
「いいえ……! 何だか大変なことになってしまいましたが……」
放置しておいては再び同じ目に合うかもしれない。
早急に何らかの手を打つ必要があるだろう。
「……いつ、どこで手を加えられたのかはすぐには解らなそうね」
アマンダの言葉にアンソニーは頷いた。
「絵画の運搬や保存時に不審なことがなかったか、急に金回りが良くなった彫師がいないかなど調査を進めることにする」
「お願いね。流通には宝石商や古物商、どっかの商会なんかも関わっている可能性ありだわ。大変だけど可能性を狭めないで」
「解っている。お前の無茶ぶりは今に始まったことじゃないからな」
真剣な表情をしたアマンダに、やっと表情を柔らかくしたアンソニーが鼻を鳴らしながら笑った。
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