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11 熱気球に乗って

 忙しさを感じる出来事が続いたためか、数日はのんびりと周囲の景色を楽しみながらの旅が続いた。秋晴れというか、お天気にも恵まれたために順調に歩みを進めていた。


 大小多くの山がある土地の美しく紅葉した山々の稜線を愉しんだり、祭りの広場で売られていた縁起物のダルーマの産地もあった。型取りが終わり色を付けるため、糊を乾かすダルーマが工房の空き地に一斉に乾される様子はこの地ならではの景観だろう。



 そして今、目の前には熱気球が次々に浮かび上がっている。


 遠目から見れば籠のついた風船のようであるのだが、近づいてみれば意外なほどに大きい。

 大きな布に特殊な加工を施したリネンを風船のように丸くなるよう合わせ、熱した空気で膨らませ空に浮くのだ。


 勢い良い炎を運転手が操りながら、色鮮やかな熱気球が空高く上がって行く。

 青い空に、赤や黄色、白に緑とカラフルな気球が舞い上がり、風に揺られてゆったりと漂う姿は楽し気でもあり壮観でもあった。


 銀色の瞳をまん丸にしたセレスティーヌが驚いたように周囲を見回している。


 ひとつひとつがかなり大きなものであるために、間隔を開けて気球が配され、あちらこちらで上がったり降りたりしていた。


「これはなんなのですか?」

「『熱気球』ですよ、お嬢様」


 セレスティーヌの驚く様子が可愛らしくて、気球を操縦してくれる人物が微笑みながら説明してくれた。


「熱すると空気の体積が変化するのですよ。まあ、端的に言えば軽くなるので浮くわけです」


 それに、と言って続ける。


「元々空気よりも軽い気体を混ぜて、より軽くしているんですよ」

「空気より軽い気体?」


 そんなものを熱して危険はないのだろうかと不安になりながら、気球と操縦士を見遣る。

 

「大丈夫ですよ。お客様を乗せる訳ですから、安全はきちんと確認済みです」


 聞きながら、全然へっちゃらな顔をしているアマンダを見た。


 ……心配なのはセレスティーヌよりもアマンダである。万が一にも王太子(仮)が空から墜落とか、セレスティーヌだけでなく家族全員の首が飛びかねない。


「空を飛ぶなんてなかなか体験出来ないわよ? 怖くないなら乗りましょうよ!」

 高いところ怖い? そう言って顔を覗き込まれる。


 ――そうじゃない。 

(怖いのは空を飛ぶことではなくて、アマンダ様の安全確保ですよ!)


『きゅ』

「?」


 セレスティーヌは心の中で叫んでは、腕の中にいるキャロを抱いて気を紛らわせたのであった。

 

******


 大人が三人乗ってもびくともしない頑丈なかごに乗ると、みるみるとリネンが膨らんで行く。

 そしてあっという間に浮き上がった。


「!!」

「さあ、一気に高度を上げますよ。怖かったら縁などを掴んでいてくださいね。あまり前のめりで下を覗き込み過ぎないように注意してください」


 そう言うや否や、滑るかのように上へとあがる。

 人も地面の草木も、どんどん小さくなって行く。視界は高い樹々を越え、真っ青な空が見えるばかりとなった。


 薄い雲と青い空が清々しく、恐怖よりも素直な感動が大きく押し寄せる。

 すぐ脇を小鳥が並走するかのように飛んでいたが、小さく鳴いてはスピードを上げて先へと飛んで行った。


「凄いですね!」


 そして前方を見れば、今まで歩いて来ただろう街道や通って来た街々が、小さなおもちゃのように眼下一面に広がっている。


「この辺で風に乗りましょうか。遠くへ行き過ぎないよう、下で縄を持っているものがおりますので大丈夫ですよ」


 穏やかに説明をする操縦士がふたりと一匹の様子を窺いながら、ゆったりと空の散歩を楽しむために火力を細やかに調整した。

 そして芝居がかったように礼をとる。


「ごゆっくりと空の旅をお楽しみください」


 動き易いラフな服装とのミスマッチさに、セレスティーヌとアマンダは顔を見合わせては微笑んだ。


 どのくらい空を漂っていたのか。


 あちらの方向には何がある、こちらにはそれがと説明を受けるうちに、あっという間に時間が過ぎた。

 戻ると言われた時には名残惜しく感じたものだが、地上近くになり、ふと見下ろせば、女性よりも麗しい顔をした男性が腕を組んで仁王立ちしていた。


「あれは……」

「ゲッ!!」


 アンソニーである。


 いきなり顔を顰めたアマンダに、操縦士が不思議そうな表情をしている。

 自分の隣に立つ、ピンク色のドレスを着込んだ大男と、簡素なデザインながら上質の生地で作られた服を纏った紳士を交互に見ては、首を傾げていた。


「…………。痴情のもつれか何かですか?」

「そんな訳あるかいっ!」


 ユーモアのつもりだろう操縦士の言葉に、アマンダの素早い突っ込みが入れられた。

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