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5  初代の肖像画

 ノリの良い公爵の奮闘と熱気に包まれる会場を後にしながら、ふたりと一匹は会場を抜けて再び街へと繰り出した。

 

「さあ! 見るもびっくりな奇術の数々だよ~」

「カボチャの重さ当てゲームだよ!」

「家内安全・商売繁盛、必勝祈願! ダルーマの置物はいかがですか?」


 あちらこちらから呼び込みの声がかかる。


 どこか浮足立つ祭りの様子に慣れてきたのだろう、仮装を恥ずかしがっていたセレスティーヌもキョロキョロと周囲を見渡していた。周囲の人が同じように仮装をしているというのもあるのだろう。


「盛況なのですね」

「本当ね。地域がお祭りに熱心なのかもしれないわね」


 王都を始めとしたオステン領でもそれなりに盛況であるが、クラウドホース領の方が一体感があるような気がする。


 道なりに歩きながら、大道芸や地元の名産品などの店を冷かして行く。


「あちらに『初代様の肖像画』が展示されているそうです」


 セレスティーヌが案内用の看板に目を走らせてからアマンダを見た。


 初代の肖像画とは文字通り、エストラヴィーユ王国を建国した王とその家族を描いた絵画である。

 建国の祖ということで広く国民に崇められているが、何のことはない各地の公爵たちの祖先であるわけで。


 国の持ち物であるうえ国民に人気があるため、一年ごとに領地を渡り歩き、更にその領地内を順番に巡回している。


「毎年各領を回っているのよね。今年はクラウドホース領なのね」

「見に行かれますか?」

「そうねぇ。メンテナンスするところがないかも含めて、一応見ておきましょうか」


 各地で大切に扱われている絵画ではあるが、古い時代のものであるため定期的に検査や修復が必要なのだ。修理修復が必要であれば、中央に知らせたほうがよいだろうと考えた。


 ふたりと一匹は今一度看板の道案内を確認して、拝観場所へと足を向けたのであった。


******


「凄い人ね……!」


 思ってもみない程の盛況ぶりに、アマンダは眉をぎゅっと中央に寄せる。

 一体どこからこんなに人が集まって来るのか。


 なぜだか街の教会に展示されているのは、風雨を凌げつつそこそこの人数が収容できる建物がここだけだからであろう。

 教会の一室を使った展示室は、酷く窮屈に感じた。

 部屋の中がギュウギュウになる程に、何故過去のおっさんが人気なのか。

 全くもって理解できないアマンダである。


 傷などを確認するために近くで確認したいがそれは叶わないであろう。かなり離れた場所から止まることなく眺め見ることしか出来そうになかった。


「…………」


 隣でつま先立ちになりながらおっさんとその家族の肖像画を見ているセレスティーヌが、真面目な顔で黙り込んでいる。

 アマンダはキャロが落ちないように手のひらに乗せると、セレスティーヌと絵画を交互に見比べた。キャロも同じように見比べている。


「どうしたの?」


 まさか、初代の熱烈な信仰者と言う訳でもあるまいに。

 何だか面白くないと思ったものの、必死に何かを探すような銀の視線にアマンダも真面目な表情に変わった。


「……何か、違和感がありませんか……?」

「違和感?」


 セレスティーヌは、視線を肖像画に据えたまま今も何かを確認するように、キャンバスの上を何度も視線でなぞる。


 セレスティーヌは過去にこの肖像画を二度程目にしている。

 一度目はかなり小さかった頃に。二度目は三年ほど前に王都に絵画が戻って来た際に。

 社交などの派手なことが好きでない分、絵画を観たり書物を読んだりするのが好きな少女であったのだ。

 絵を見る審美眼はそこそこであると思っている。


「拝見したのがかなり前なので、はっきりとは言えないのですが……」


 あからさまに大きく違うならすぐに解るのだろうが、多分些細な変化なのだろう。

 最近観たものならまだしも、はっきりということが出来ないでいるのだ。


「アマンダ様はどうですか?」

「アタシは恥ずかしながら、碌にあの絵を観たことがないわ」


 殆ど他領に出払っている絵画である故、目にしたのはやはり数える程度だ。


「……きっと、気のせいかもしれません」


 理由がはっきりしないのならばいつまで引きずっても仕方がないであろう。セレスティーヌはそう思い、誤魔化すかのように作り笑いをした。


 今度はアマンダが引っ掛かる番だ。勿論肖像画にではない。違和感を覚えるセレスティーヌの勘にである。


「気になるなら、責任者に伝えて確認しましょう」



 取り敢えず出口に向かいハロウィンの担当者に話をつける。

 ただ漠然と違和感があるでは取り合ってもらえない可能性があるし、アマンダの素性を打ち明けたところで信じてももらえないだろう。


 よってローゼブルク公爵家の者だと言い、過去に見た時と違いを感じるので近くで見せてほしいとお願いする。


 担当者は違和感以外の何ものでもないアマンダを、胡散臭そうな表情で見遣った。


「これなら信じてもらえるかしら?」


 ため息をつきながら金色のカツラを脱ぎ去ると、肖像画と同じ銀色の髪が露わになった。

 この国で銀の髪は、初代の王を始め侯爵以上の高位貴族に顕著に現れる。それは血筋による遺伝であるからで、広く平民にも知られている事実だ。


「大変失礼いたしました! 観覧時間が終わりましたらご案内いたします!!」

 


 そして今。誰もいない教会で、肖像画の前に立っていた。


 セレスティーヌは筆の運びを一つ一つ確認するように眺めていた。

 肖像画はメインとなる大きなキャンバス以外に、左右一つずつ、細長いキャンバスがセットになっている。絵画を守るためなのか管理がしやすいからなのか、扉のように閉じたり開いたり出来るようになっているのだ。

 省スペースに沢山の絵を描くことが出来るだけでなく保管もし易いため、古い宗教画などでもよく使われた方法である。


 そして扉のように作られている額縁は、本物の金で出来ている。強度を増す為に他の金属と混ぜて作られているものの、精巧な彫刻で縁どられた額縁は権力の象徴のように思われた。


 更に威厳なのか当時の無尽蔵な財力を誇示するためなのか、所々にダイヤモンドやルビーなどの宝石が散りばめられていた。

 全くもって悪趣味な額縁である。


「どう?」

 セレスティーヌは首を横に振った。


「……補修が行われたようには見えません」


 古い絵画はメンテナンスを繰り返されるが、時折メンテナンスや修理の域を超えた、とんでもない補強(?)が行なわれてしまうことがある。そうすると修復にかなりの時間と手間を要することになるのだが、そうではないと知り少しホッとしたアマンダであった。


「肖像画に違いはないようです……お時間を取らせてしまい申し訳ございません」


 申し訳なさそうに担当者とアマンダに頭を下げるセレスティーヌだが、疑念が晴れたとは言い難い様子であるのを感じ、アマンダははっきりと確信をした。


(何か、本当に違うのね……)


 肖像画が違うとして、他に何が違うのか。

 アマンダは先祖が描かれた絵を眺めながら首を捻る。


(勿論肖像画の真贋を確認してもらう必要はあるだろうけど、まさか贋作にすり替わってるなんてことはないだろうし)


 絶対にないとは言えないだろうが……

 各地において、厳重な管理体制で管理・保管をされている筈である。


 色彩に筆使い、補修の跡以外に、何に違和感を覚えるであろうかとアマンダは初代の王とその家族の肖像画に黒曜石のような瞳を走らせる。


 もしも贋作なのだとしたら、大きさ。はたまたその比率だろうか。


「大きさ……肖像画と額縁の比率が違うってことはない?」

「比率ですか……? 誤差の範囲は判りかねますが、あからさまな違いはないのではないかと感じます」


 消極的にとはいえ否を唱えるセレスティーヌに、担当者はそんなことまで解るのかと驚いたように瞳を瞬かせ、アマンダは再度大きく首を捻った。

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