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【完結】オネエ様と一緒!~厳ついオネエと追放令嬢のぶらり途中気まま旅~  作者: 清水ゆりか
第二章 北のとある寒村事情

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18 フォレット侯爵邸・後編

 会が温まったところで、馬車で乗り付けた王妃が来場した。


 王妃と侯爵夫人が友人であり懇意であることは広く知られていることだが、まさか製品のお披露目パーティーに出席するとは誰も思わず、会場が騒めく。


 そもそも、王や王妃が非公式に社交に参加することの方が珍しい。

 来場を知っていたのだろう数名を除く全員が驚きを隠しながら、礼を取り道を開けた。



「皆様、どうぞお楽になさって。本日は侯爵夫人の友人として、私的に出席するのですから」

 そう言ってにっこりと微笑む。


「陛下。お越しいただきまして恐悦至極にございます」


 侯爵夫人とアンソニーが並び迎え、深く礼を取った。


「お招きいただきましてありがとうございます。本日を楽しみにしておりました」

「勿体なく存じます。心ばかりではございますが、お楽しみくださいますれば幸いです」


 にこやかなやり取りを見ながら、招待客の全員が意図を考えた。

 まさか王妃の言葉とはいえ……王妃の言葉だからこそ、額面通りに受け取るものなどいない。


 この会はただのお披露目などではなく、国を挙げた……もしくは王妃が絡む案件なのだと全員が思い至った。


******


「老人のみになり、人口が減ってしまった村の新しい産業ですの。山間の小さな村は樹々が豊富でございましょう? その地のものを活かし、炭焼き何十年ものベテランが心を込めて焼いた炭ですのよ」


 侯爵夫人の説明に、周囲から関心と感心のこもった声があがる。


「確かに。料理の味がグレードアップするようですわ」

「香ばしい炭の香りと……炭火焼の効果なのか、表面はカリッとしているが中は素材の持つ水分を含んでおり、実に美味だ」


 炭火でじっくりと焼かれた滋味あふれる鳥を口に含むと、洒落もので通っている男爵が褒め称えた。

 おべっかを使おうと思ってはいたものの、お世辞でなく本当に旨い。

 食材を焼いている人間も、男爵の言葉にそうでしょうと頷きながら手を動かしていた。


「これは何ですの?」

「木を切った際に出る木屑を詰めたものですわ。木の種類によっては防虫効果があるものがあるそうですのよ」

「木屑……?」


 手のひらほどの袋はレースと刺繍で飾られ。可愛らしくリボンが結ばれていた。

 サシェを手に取っていた貴婦人は手に持った木屑の袋詰めと、微笑む侯爵夫人を交互に見た。


「更にこちらはリラックス効果のある香りの袋ですわ」

 言いながら近くの貴婦人に、先ほどより簡素な袋のサシェを渡す。


「ほら、観光地の温泉などに木のお風呂がございますでしょう?」


 別荘や親類の屋敷に宿泊することが多い貴族ではあるが、全く宿を使わないという訳でもない。

 貴族や豪商が使用するグレードの高い宿もあるので、好んでそちらを使う者もいるくらいだ。


「屋敷の湯船に浮かべれば、ヒノキ風呂が手軽に味わえるのですわね!」

 グレンヴィル伯爵夫人が嬉しそうに微笑みながら合いの手を入れる。


 カルロは自分の母親である伯爵夫人の一挙一同をハラハラと見守っている。

 そして駄目押しのひと言。


「花の香油も素敵ですけど、主人はスッキリした香りが好みですから、男性はきっと喜ぶかと思いますわ」


 アンソニーは母親たちの言葉に笑顔で頷き続けており、令嬢や貴婦人たちに売り物のサシェを配っている。顔を赤くした女性陣が、『アンソニー様が触ったサシェ、絶対買うんだ!』と鼻息荒く言っている様子が目と耳に入ってくる。残らず買っていってくれて構わないと心の中で思いながら、愛想良く貴公子の微笑みを振りまいておく。


 母親たちの連係プレイに、やはり無理やり参加を余儀なくされたカルロが、作り笑い以外の何ものでもない下手な笑顔で曖昧に頷いている。……同意しているつもりらしい。


「こちらの木のチップは雑草が生えにくくなるそうですよ。数年すると風化して自然分解され、肥料として土に吸収されるそうです。お美しいご婦人方の自慢の庭園が、より美しくなりますね」


 輝く笑顔を浮かべながら、今度は木のチップを配り始めた。

 ……いつの間にか女性陣が列を作っているではないか。


「アンソニー様による商品お渡しと特典の握手付きのお会計はこちらでございます」

 いつの間にかフォレット侯爵家の家令が料金を回収し始めている。


「列は一列でお願いいたします!」

 執事たちがそう言いながら、列の誘導をしている。



(……カオスだ……)

 青い顔をしたタリス子爵が、目の前の出来事を眺めながらしみじみと思う。

 高位貴族、怖い。と。


「こちらの製品は本当に無駄がございませんのね! 自然の恵みは無駄なく使わせていただくのが本来ですもの」


 環境と動物の保護活動に勤しむ慈善家貴婦人が感慨深げにつぶやく。

 同じような意識高い系貴族がこぞって頷いた。


 贅沢にものを湯水のごとく使うのがもてはやされる一方、清貧に生きることや環境を考えて無駄を省いた生活を送ることが本来のエレガントである……とする人々もいる。


「素晴らしいですわ。これはどなたがお考えになりましたの?」


 満を持して質問が飛んだ。

 質問をした貴婦人は、フォレット侯爵夫人かアンソニー、もしくは王妃が考えたのだろうと踏んでの発言である。場を盛り上げるために、そして考案者を持ち上げるために。

 ……加えて、出来れば自分や家門の株を上げるためにとの発言である。


 待ってましたとばかりに、ニンマリと笑いながら王妃が立ち上がる。


「今、アマデウスが全国各地に問題がないか視察に出ているのですが……同行しているご令嬢が考えたものですの」

 全て、と言いながら扇を閉じた。


「ご令嬢が? 文官や商人ではなく?」


 ダンマリを決め込んでいた男性貴族が思わず、と言った風に呟いた。

 ……現実に大貴族が何かを考えたという場合、文官やお抱え商人が考えることが大半であるからである。


 ざわざわと会場が騒めく。


 王太子が視察に出ている(本当は失恋旅行中だが)ということは大ぴらにはされていない。が、長期間公務に出ないため、城に伝手があるものは知っている事実である。


 それ以外の人々は、王太子が女性を伴って視察に出ているということに驚きを覚えた。出来ることなら自分の家の娘を妃としてねじ込もうと考えている人間も多いからである。


「ええ。お父上のお仕事を熱心にお手伝いされていたお嬢様で、非常に高い執務能力を持っていらっしゃるの」

「素晴らしいですわ~」


 王妃の言葉にグレンヴィル伯爵夫人が被せる。


「ええ。それに先のサウザンリーフ領で発生した盗賊団を追い詰めるきっかけを発見したのも彼女ですのよ」


 ね? と母に話を振られ、カルロが慌てて口を開く。

 ……アンソニーとグレンヴィル伯爵夫人が凄い表情で窺っているので、危うく噛みそうになったのはご愛敬だ。


「……はい。非常に勇敢なご令嬢で、捕り物の際も見たことのない科学的(?)な武器を使い、騎士団やアマデウス王子と共に戦闘に参加いたしました」


 嘘は言っていない筈だ。……多少受け取り方が違うだけで。

 アマデウスの側近であるカルロの口から捕り物に参加したと聞き、会場は更にざわめきが増した。


「今回の事業の発案も商品のアイディアも、そのご令嬢が致しました。殿下と共に考え、村人を指導したのが彼女です」

 アンソニーが駄目押しとばかりににこやかに告げる。


「そんなに有能なご令嬢がいらしたとは……一体、どちらのご令嬢か?」


 出来れば自分の家門へ迎え入れたいとばかりに男性陣が色めき立った。同時に女性陣は王太子に近い女性ということで興味津々である。


「セレスティーヌ・タリス子爵令嬢ですわ」

 満足気に侯爵夫人が答える。


「タリス子爵令嬢……?」


 会場にいる人々は、聞いたことのない名前に首を捻った。

 無理もない。彼女の社交といえばユイットのごく限られた中であり、それすらも手伝いを理由に最低限に熟すにとどまっていたのである。


 自分の娘の名前が出たタリス子爵は、青いを通り越して真っ白になっている。白目を剥いていないだろうかと、アンソニーとカルロが心配気にそっと視線を向けた。


 ……仕方がないのだ。母たちは色々な意味で救世主であるセレスティーヌに、非常にご執心なのである。才気煥発でありながらも控え目で、いざという時は勇気もある。

 ジェイに肖像画を描かせ、その姿を見て更に熱を上げていた。小動物のような愛らしい(カルロ談)、おもしろ……いや、愛嬌のある(アンソニー談)見目なのだ。


 母親達の気持ちはわかるとアンソニーとカルロも思う訳で、この白々しい作戦に一枚嚙んでいるのだ。

お読みいただきましてありがとうございます。

次回は火曜・金曜日更新となります。


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