16 跳び上がる前に・後編
炭焼きは幾つかの製法・種類がある。
窯で焼くもの、土に穴を掘り焼くもの。消し粉と呼ばれるものをかけて冷ますものから、ゆっくりと蒸し焼きにした上で自然冷却させるもの、等々。
焼き方や焼き時間、冷やす方法などによって炭の種類が変わるらしい。
ついでに木材も樫やクヌギ、ナラやブナといった広葉樹や常緑樹の方が需要が多いのだそうだ。叩けば澄んだ音の鳴る堅い炭は、じっくりゆっくりと燃焼し続ける。
杉やカラマツなどの針葉樹は水分が多く、軽くて柔らかいため火が付き易いが、短時間で燃焼する。また孔が多いため匂いを吸収しやすく、脱臭などにはこちらの方がより効果があると言われている。
よって、じっくりと料理に利用するのは硬質でじっくり燃える広葉樹や常緑樹の炭。火力に強さが必要な時や火の付きにくい炭を燃やす為には、針葉樹の炭を使うのだそうだ。
「……同じ木でも生成方法によって堅い『白炭』、柔らかい『黒炭』になるらしいわ。他にも『切炭』や菊の花びらのような断面の『菊炭』もあるらしいわよ」
「ひと口に炭といっても、色々な種類があるのですね」
伐採して時間を置かずに焼く方法もあれば、ある程度自然乾燥させてから焼く方法もあると説明をされた。
……そう。全て村人の受け売りであるが、話すアマンダも聞くセレスティーヌも感心し通しであった。
「確かに白っぽいのや真っ黒なものがあると思ってたけど、そんな風に違いがあるのねえ」
この国で暖をとるために使われるのは薪が多い。広範囲を温めるのには薪の火力の方が手っ取り早いからだ。さらに言えば薪にしても炭にしても、そこまでまじまじと観察したことがなかったという方が正しい。
既にいくつかの製法では焼きに入っている。
乾燥が必要な木に関しては、ある程度長さを揃えて干して、渇くのを待っている。
今まで焼いたことがない者にも作業が可能なように、経験者たちが教師役となって指導していた。
この間、アマンダとジェイはせっせと木を切る。ある程度バラして台車に乗せては集落へ運ぶ。……炭焼き小屋の周りには置ききれないので、周囲の家々や空き家の保管場所にも積み始めていた。
密集しすぎて木の成長を阻害しそうな場所を中心に伐採しているので、手つかずだった森も元気になるだろう。
******
「アタシ、木こりに転職しても生きていけそうな気がして来たわ!」
「転職は周囲が困るんで止めましょう? まあ、鍛錬代わりになっていいんじゃないですか? 上腕筋がヤバい感じになってますよ?」
『きゅ!』
「……仕方ないじゃない。体質なのよ」
ジェイのツッコミに、アマンダは口を尖らせた。
元々逞しい体系のアマンダだったが、ノコギリやら重い斧やらを振るい、木を担いだりするせいで、よりがっしりとしていっている。本人は気のせいだと思いたいが、残念ながらどう見積もっても気のせいではないだろう。
同意と言わんばかりに声をあげたチンチラを、恨みがましそうに横目で見遣る。
上着なんぞは既に着ることを放棄し、簡素なズボンとシャツといういで立ちであった。秋の気配も感じ始め、爽やかな季節というはずが、手巾を肩にかけて汗だくである。
ついでに中央へ伝書鳩を飛ばし、この間の報告と、この後の宣伝業務を頼まれてほしいと伝えてある。更には関係各所と各領地の領主とが協力し、同じような状況に陥っている集落を確認してもらってもいた。
どういった対応が必要かは各々の状況を踏まえ、最良の方法を模索すべく各地各所と相談の上進んで行くはずだ。
間違いがない事といえば、この地の活動がモデルケースの一つとなるということだ。
セレスティーヌとおかみさん集団はせっせと袋の量産に入っている。
合間を縫って木屑を詰め、サシェとして出来上がって行く。
箱に丁寧に詰め、香気が抜けないように密閉する。品質保持のためだ。
更に空き時間を使って、帳簿関連の知識を定着させる。
段々とおかみさん達も参加するようになり、集落の殆どの人が講義を聞くようになった。女性だからと遠慮していた彼女達だったが、セレスティーヌの活き活きと働く姿を見て触発されたのだろうか。古い時代の古い考えの男たちからも反対意見は出なかった。
そんなことを言っている余裕などない、総力戦ともいえるのだろうか。
結果、後から学び始めたはずのおかみさんたちの出来が良く、焦った男衆がより真剣に学び始めるという良い連鎖が起こり始める。
手を動かしながら問題を出し合うような姿も見られ、いつしか老人たちは楽しみながら学び、働き、動きはじめていた。
「……何だか、仕事が楽しいって思ったの久しぶりかも」
「新しいことを学ぶっていうの、面倒なことばかりじゃなくて遣り甲斐があるもんなんだね」
最近は時間の短縮ということで、集落の広場に簡易竈を組み、当番制で料理を作ってみんなで食べている。毎日祭りかのようであるが、まだ温かい時期だからなせる行動だ。
それならばと、狩りが得意なジェイとアマンダが木を切る合間に鴨やキジ、ウサギなどを狩って来るので、内心みんなで楽しみにしているようだ。
同じ料理を同じ場所で食べるという効果もあってか、村人たちの結束が強固になっているような気がする。
「……同じ目標に向かって進んでいるというのもあるのでしょうね」
「活気が戻って来て何よりね」
楽しそうに食事や仕事、学びを堪能する姿は微笑ましく頼もしく、また自分達も頑張ろうと思わせてくれるものだ。
集落で活動を始めて暫くすると、綺麗に掃除をした空き家を提供されたことも懐かしい。受け入れてもらえたのだと思うと、なかなか感慨深いものがあった。
(この笑顔が今後も続くように、守れるようなサポートをして行きたいもんだわねぇ)
アマンダは何やら議論を始めた村人たち、そしてそれらを眺めて微笑むセレスティーヌの横顔を見た。
お読みいただきましてありがとうございます。
次回は火曜・金曜日更新となります。
ご感想、評価、ブックマーク、いいねをいただき、大変励みになっております。
少しでもお楽しみいただけましたら幸いです。