16 跳び上がる前に・前編
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翌日から早速、大きなことから細々としたことまでを決めて行く。
時間が惜しいと同時並行で行なうため、老人たちが目を白黒させていた。
村人を気遣い、わかり易い速さで物事を行ってはいる。どちらかといえば物を決めるスピードに目を白黒させているのだ。
それもその筈。決めごとのGoサインを出す人間がその場にいるのだ。
一応中央の人たちに経緯は説明するらしいが……中央のお偉いどころを経由せずに決定されて行くので、ご老人たちは信じられないような表情で本当に大丈夫なのかと確認をしていた。
とはいえ、アマンダとセレスティーヌは旅の途中である。北の地で何年も何か月も過ごすことは避けたい訳で。かと言っておざなりにするなんて話はこれまたあってはいけないため、最小限の時間で最大の結果を出すべく動いているのだった。
まず、炭焼き小屋や使えそうな家などを使えるように掃除と補修をしてもらう。
家は臨時の事務所などに転用するためだ。
家主は半年前に亡くなったのだそう。跡取りは外で定住先を見つけたといい、先祖代々の土地を手放したそうだ。
「とはいえ、土地代なんて二束三文ですが」
苦く笑う村長に、アマンダは気持ちを切り替えるように明るく話し掛けた。
「残っていただけなかったのは残念ですが。とは言え人間、いろいろありますし。無事に新しい生活を築けたことを祝って差し上げてください」
「……そうですね……確かにそうだ」
「今度は皆さんが、土地代が高騰するくらいに頑張っちゃうことにしましょう!」
そういいながら、工房を作るための申請書を記載するように進める。
村長は笑いながら頷いて、注意深く文字を記していく。
万が一商売を広げるようになった場合に備え、読めばわかるように書き方の見本や注意点を紙に書いて説明している。村長の方でもメモを取っているが、村の共有知識として後々確認することが出来るよう手引書も作っているのだ。
責任者は書類上、村長が兼任することとなった。
外部とのやり取りの経験値その他を踏まえると、どうしてもそうならざるを得ないだろう。ただ今後もそうなのか、仕事に慣れ経営に慣れたら別途変更するのかは、彼等自身に放し合って貰い決めて行くことになった。
彼等にとっていいやり方というのを模索していければと思っている。
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「よいしょ~? こらしょ~?」
「何よ、その掛け声は!」
アマンダとジェイが斧やノコギリで木を伐採するのだが、恐ろしいほどのスピードで次々と切り倒されていく。
その横で驚いた顔で行く末を見ていた村人たちが我に返り、これまた手慣れた様子で枝を落とす。そして以前使っていたという炭焼き小屋のあたりへと運んで行くのだが。
取り敢えず、ふたりで切れる限りの木を切り倒すのだ。しばらくは村人たちが切らずとも済むようにという配慮である。
気の抜けた掛け声とは裏腹に、それなりに太い筈の木が面白いように倒れて行く。
その傍ら、安全な場所に鎮座するチンチラが、おやつにと貰ったクルミをカリカリと頬張っている。
隣では、炭作りの作業とは別の注意点や気をつけてほしいことなどを、セレスティーヌが説明していく。
「ご存じだったら余計なことですが……木を切った後は、植林をした方がよいと思います」
「植林?」
セレスティーヌは口を開いた村人に頷く。
沢山あるから構わないかと思いがちだが、もしも事業が軌道に乗り容赦なく切って行ったら、思ってもみない程のスピードで禿山になってしまいかねない。
「日当たりを考え、良い木を育てるためにはある程度手入れをすべきですし。今の伸び放題・生え放題と同じようにする必要はないかと思いますが、未来へ資源と自然を繋げて残すために必要な事かと思います」
木イコール資源、そして原材料なのだ。
それに、安全面からも重要なことなのだからと、セレスティーヌが説明を続ける。
「他の地域の方や専門家の方々の受け売りですが……森や林は雨水を安全に貯水する役目を担っているそうなのです」
森林が上手く機能していないと一気に水や土砂が流れ、大きな被害が生じ易い。
「また根が張ることで土砂災害などを予防するそうです」
根が網のような役目を果たし、崩れやすい地盤を纏める役目もある。
ユイットも、市街地を外れれば森林の多い地域であった為、全く手入れをしない山が地滑りや土砂崩れを起こすことがあった。
過去に人口が爆発的に増え、木を多く切り倒したことで一部不都合が生じた地域や時代があったのだと教えられた。
そして過去の失敗や教訓から現在に亘って、地域の様々な問題や災害などを都度代官たちが原因を調べて多くのことが判明している。そのお陰で現在の代官の下、セレスティーヌの父たちも領地運営に活かして領地が安全に保たれているのだ。
(お父様の手伝いをしていたお陰で、そういった事例を知れて良かったわ)
普通に今まで通りの使い方をするのならば過剰に気にする必要もないだろうが、念には念を入れて説明する必要があるだろう。万が一にも災害を誘発するような事態になってはいけない。
過去にそのような話を聞いたことがあるのか、心当たりがあるのか。話を聞いて行くうちに小さく頷いている人が多い。
(……解ってもらえたみたいだわ)
初めの出会いの頑な様子からどうなることかと思ったが。村人たちも気持ちを切り替えたのか素直に話を聞いてくれている。何人かは不機嫌そうにしているが、取り敢えずは集落の決定に沿って動くと決めたようで、大きな反発はない。
セレスティーヌは、そっと小さく息を吐いた。
「では、仕入れや支払いなど、帳簿についての説明をします」
小さな集落で人間関係が濃いからこそ、間違いや仲違いがないようにしたい。
人はお金が絡むと関係がギスギスしたり破綻しやすい傾向にあるのだ。狭い社会で間違いがあって村八分とか……ゾッとする話だ。
「帳簿って……係の者だけじゃないのか?」
「最低限見れた方がよいかと思います。公正性も増しますし」
セレスティーヌはにっこりと笑う。
「勿論、係の方にはきちんと処理作業が出来るように、更にしっかりと個別に対応させていただきます」
「…………」
話を聞いた村人たちの顔色が一気に青くなった。