4 一緒に旅に出よう!
「ごちそうさん。ここに置くよ」
隣でエールと食事に舌鼓を打っていた男が立ち上がる。
テーブルに置かれた代金がじゃらりと音をたてた。
「はーい、またどうぞ!」
女将は愛想よく声を張ると、忙しなく空いた他のテーブルの片付けをしながら頭を下げては見送った。
アマンダはまじまじとセレスティーヌを見て、左側に頭を倒す。
「フォルトゥナに伝手がある訳じゃあないのよね?」
「はい」
「うーーーーん」
アマンダは首を傾けたまま長考に入った。
同じようにキョトンとしながら首を倒したままアマンダをみつめている。
(……可愛いわね。こんなちっこくて無垢で素直そうな女の子を放り出しておいたら、気が気じゃないわよねぇ……)
アマンダは総じてご令嬢があまり得意ではないが、目の前の少女は彼の知るご令嬢たちとは違う、慎ましやかな様相が苦手意識を和らげていた。
更に地頭が良さそうなのに擦れていない様子も好感が持てる。そのうえ小動物のような見た目。アマンダの可愛いポイントをぎゅんぎゅんと押し込んでくる。
更には失礼じゃない程度に気さくであるのも話し易く、とても気が合いそうである。現にこうして話しているのもとても楽しいのだ。
多分本来は、もう少し慎ましやかな態度をとるご令嬢であろうと推測する。
婚約破棄されたり家を出たり、変な人間に絡まれたり助けられたり……様々な出来事が重なったのと酒が入ったのもあり、普段より幾分気分が高ぶっているのであろう。
第一女性としてはデカすぎるし異質過ぎる自分を見ても、気にはなっているのだろうが自然に接してくれており、思慮深さを感じさせる。
「じゃあさ、アタシの話し相手にならない?」
「話し相手……?」
「そう!」
アマンダは楽しそうに大きくて厚いてのひらを合わせると、左頬へくっつけた。
「アタシも旅をしているって言ったじゃない? 丁度女の一人旅で淋しかったし」
確かに、アマンダの傍らにはセレスティーヌと同じようにカバンが携えられていた。
(しかし『女の一人旅?』)
近くで見れば見る程に逞しく鍛え上げられた身体を見て、反対側に首を傾げる。
「意外に強いから、暴漢が来ても大丈夫だしね?」
「いや、それは見たままですけどね」
意外でもなんでもないとセレスティーヌは心の中で呟いた。
「やっだ~! なかなか辛辣ねぇ。どうせなら、旅は楽しい方がイイじゃない? よかったら一緒に旅しましょうよ。美味しいもの食べて、温泉でも入って、綺麗な景色でも見て。パーッと嫌なことなんて忘れちゃいましょう?」
「でも私、それほど持ち合わせが……」
「ダイジョウブ! こう見えてアタシ、結構いいところの出なのよ?」
「……あ、はい。それも何となく感じております」
セレスティーヌは神妙な顔で頷いた。
「アタシとしては友人として一緒にあちこち旅行してほしいけど。気兼ねするなら侍女兼話し相手として雇うわ!」
ジャリ、っという音と共に黒い革袋が置かれた。
「!?」
(お、大きい……)
手持ちするには見たこともないほどに大きいテーブルの上に鎮座しているそれ。
……どうも、パンパンに金属が詰め込まれている音がする。
(まさか、全部金貨とか言わないでほしいのですけど!!)
「ちょ、仕舞ってください、アマンダ様!」
豪放磊落そうなアマンダを見るに、限りなく嫌な予感が的中するような気がして、思わず周りをキョロキョロとした。
「取り敢えずしまって。お互い出会ったばっかりですから……暫く一緒に旅をしてから考えましょう?」
ね? とセレスティーヌに怖い顔で迫られる。
ウフフ、と全く懲りていないような表情で笑うアマンダ。
「じゃあ、取り敢えず一緒に旅しましょう! 俄然楽しみになったわぁ!」
逆に、とんでもない大金を持っているらしい女性の格好をした男性(多分)と一緒に旅をすることになってしまい、いったいどうしたものなんだろうとセレスティーヌは渋い顔をした。
だが、先ほどまで感じていた不安も憤りも消えていることに気づく。
残りのサングリアを豪快に飲み干すアマンダを見て、今度は苦笑いをしたのであった。
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