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12 話し合い・後編

 村長を中心に話し合いが持たれたが、平行線を辿っていた。

 それぞれの意見がぶつかり合い折衷案が出ても喧々諤々、いつの間にか振り出しに戻ってしまう。

 身分にかかわらず、会議や打ち合わせではよくあることだ。


 ……男性は理論的に物事を進める生き物で、女性は感情的だという人たちがいる。


 が、一方で、男性は沽券というよく解らない感情も持ち合わせており、女性は非常にシビアで現実的な面を持ち合わせているのもよく知られている筈なのだが。


 とにかく、会議は堂々巡りを繰り返す。苦心する村長と一部の歩み寄ろうとする者以外、纏める気があるのかアヤシイものだ。


 村の運営というのは複合的なものである筈なのに、なぜだか無理やりひとつにと決めつけては、互いの意見を飲ませようとしている。


 思わず、伝え方が良くなかったのだろうかと『アマデウス』の発言を心の中で反芻する。いっそ、口出しして軌道修正すべきか迷うが。彼等から聞いてくるならまだしも、長年村を纏めてきた、背負って来たという自負もあるだろう。余所者の若造たちという気持ちもどこかにあるだろうとも想像する。


 初めから口出ししてしまうとそもそもの考え方の間違いや勘違いに気づけないだろうと思い、暫く様子を見守ることにした。


「不要な会議はこうやって量産されるのね」

「会議のための打ち合わせ、なんてモノもありますからねぇ?」


 村人たちの様子を見守りながら、アマンダとジェイが気の抜けた会話をする。

 ……隣に座るチンチラもしきりに頷いているのはなぜか。ジェイが興味深そうに、まじまじとチンチラを見る。


 とはいえ自分たちの行く末を決めるための会議なのだ。ある程度納得するまで話し合ったという事実も必要である。内容はともかく――出来ればあるに越したことはないが――として。


 「資金の上限などはどのくらいなのですか?」


 村人たちの様子を見ては、話し合いは芳しからぬ様相を察してか、セレスティーヌが思案気に口を開いた。もしかしたらユイットでも、同じような話し合いの様子を見ていたのかもしれない。


 彼らが税の軽減や、生活の補助などを求めることに決めた場合。また何か改善をすべく財源を投入する場合、どの程度使える資金や資源があるのかは言うまでもなく大切なことである。

 彼らの今後の暮らしに関わる。その上使われるのは国庫……多くは税金であり、国民のお金だ。そして従来分の補填や保障に関しては、領地の資金であろう。


「状況によるわね。今後のモデルケースとしてどんな位置づけになるかによっては、糸目はつけない、かも」


 アマンダの返答に、セレスティーヌが顔色をなくす。

 つまり内容によっては、巨額の資金投入があるということだ。

 それが成功すればいいが、失敗すればアマンダの言う『今後』に響く訳で。


(それなら、大量投資をして良しとするような内容と結果を求めているのだわ)


 勿論、すぐに結果が出るとは考えていないだろうが……

 セレスティーヌの様子を見て、アマンダが焦ったように続ける。


「責任とか結果とか、難しく考えないで。セレに丸投げするつもりはないんだから、気楽に考えてアドバイスしてあげてほしいの。現実不可能ならこっちも無理って言うし」


 それは確かにそうであろう。父親の手伝いを齧った程度の小娘に、そんな壮大な事業計画を丸投げにするなんてあり得ないとセレスティーヌは思う。とはいえ。


「方向性を決めるのはあくまで彼等だし、責任はアタシにあるんだから。ただ、色々な視点があった方が選択肢は広がるじゃない?」


(好き勝手言った挙句、責任は丸投げというのも、それはそれで……)

 セレスティーヌは何とも言えない顔で、話し合いを続ける村人たちを見遣った。

 

******

「まず、『出来ること』の棚卸をしましょう」


 煮詰まって腕を組んだまま動かなくなった村人たちにセレスティーヌが提案する。

 彼女とて自信はない。かつてないほどの大がかりな仕事だ。


 未知のことや責任の重大さに不安も気後れもある反面、それだけのものに携わらせてもらえる嬉しさのようなものがあるのも事実。……どんなに頑張ったとしても、かつてのセレスティーヌが任せてもらえる規模ではない仕事だ。きっとやり甲斐があることだろう。


 旅行も楽しいが、アマンダと仕事も一緒にできるのはどうしてか、より大きな楽しみでもある。

 多分、アマンダが平民たちに寄り添える人間だからであろう。 


「……? 具体的には、何をすれば」

 村長の言葉に、改めて顔を引き締める。


(余計なことは考えず、村の人たちがより良い暮らしを選択できるように考えること)

 大切なことは、彼等の目の前にある問題を改善することだ。


「農業以外に、『出来ること』『やれること』『知っていること』を教えていただきたいのです」

「何のために?」

「皆さんが、自分で豊かに生きて行くためにです」

「豊かに生きて行く?」


 疑わしそうに言う老人に向かい、頷く。


「税の軽減を願い出たところで、先細りするのは目に見えていますよね? 補填を受けるにしても、生活が大変なことに変わりはないでしょう」

「安心して生きて行くのには、少しの補填を貰うよりも、やはり自分たちで動くことです。

 農業が出来ないのならば、それに代わる仕事を見つけること。働く場所がないならば、中央の協力が仰げる今こそ、新しい産業を作るチャンスです」

「現実を何にも知らねえ、おなごの甘言よ」


 昨日から突っかかって来る老人の一派だ。

 セレスティーヌはため息と言葉を吞み込む。


(甘言って。文句だけ言って纏める気がないのはどっちなのよ)


 ――おんなおんなって言うけど、女性だって現実の中で生きてるのに。そんなに男性が偉いのか。そう言ってやりたいと思う。言ったところで問題が解決しないばかりか、溝が深まるばかりなので言わないが。


(このお爺さん、世の中全てが男性だけが全てと思っているのかしら)

 それならそれで狭い現実しか知らない、頑固ジジイの戯言だ。


「纏まらないようでしたら、取り敢えずそれぞれの案を村の方針となされたらいいのではないですか? お子さんやご親戚など身を寄せる場所がある方はそちらを選択されてもよいでしょう。勿論、今のままこちらで暮らすことを選択されるのもよいでしょう」


 突っかかって来る人々にそう言って念を押す。


「元々人により状況は様々ですので、一本化はどう考えても無理かと思います。

 ある程度状況にあった選択肢を、複数の中から選んで組み立てて行くべきかと。本来の村の運営とはそういうものではないのですか?」


 セレスティーヌは村人ひとりひとりに視線を向け、早口にならないように注意をする。


「ご年齢や体調などの問題があり、生活の補填を重点的に受けたい方はそちらを選択いたしましょう。現行の制度は領地や地方によって違う筈ですので、足りない分を多少なりとも中央からも補填を受け取れるように要望を出したらいかがでしょうか」


 現状、生活が厳しいだろうことは察しが付く。給付金など増えることは願ったり叶ったりであろう。

 新しい決まりごとは中央の議会にかけられ、関係各所と連携を取り協議されて最終的に決まる。が、あくまで取り敢えずのものだ。法律や大臣が変わった場合など、以前の制度の見直しや改善、改革によって変化は必須だ。


「よって決まったとしても、永久的ではありません」


 撤廃や変更の際は事前に周知があるものだが、補填額や期間などは流動的に変わって行く可能性もあることを伝える。


「動ける方やここを離れたくない方は、別の収入を得る方法を考えなくてはなりません。それを最終的に軌道に乗せられれば、出て行った方が戻ってきたり、新しい若い方がいらっしゃるようになるかと思います」


 昔々の産業や事業の起こりと同じである。軌道に乗せ人が集まり更に活気づき、雇用が生まれ大きく膨らんで行く……


「そんな簡単に物事が進むわけがないだろう」

「確かに簡単ではないと思います。でも、何もしないままでは衰退していくだけではないのですか?」


 老人たちは何かを言いたそうに口を動かす。


「あまり厳しいことを言いたくありませんが、状況は深刻です。今すぐ取り掛からなくてはいけない問題であり、『出来ない・進むわけがない』ではなく、失敗しないように出来得る限り万全を期して『行なわなくてはならない』のです」

「……方針を一つにしなくても良いのですか?」


 村長がセレスティーヌとアマンダ、そして何とか表情を引き締めているジェイを交互に見ては訊ねる。


「現状大切なのは、皆さんと村の現状を打破するということです。セ……彼女はそのための案を出し合おうと提案しているのです。その方向へ進みつつも、各人の状況に応じ、転居や生活の保障のための申請を並行して行いましょう、ということです」


 セレスティーヌの発言を掻い摘んで説明する。

 どうして完全なる一本化などと思うのか。小さな集落とはいえ、幾つもの世帯が集まって暮らしていれば、様々な状況を加味して運営されるものであろうに。

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